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天才王女は後手にまわります

「アルカルトのおかげで、やっと状況が掴めてきたわ。さすがね」


「いえいえ、殿下に任せていただいた部下たちが優秀なのですよ。して、どのような対策を?」



 アルカルトが報告書を上げてきたのは、私が諜報部に大陸外の動向を探らせてから一週間経った朝でした。私の見立てでは二週間はかかると思っていたのですが、ずいぶん頑張ってくれたようです。


 ウチに物資を流しているのは、ここアシリア大陸の南方に位置するカリベルタ大陸の巨大国家、ロレンス王国でした。最近版図を急速に拡大させ、カリベルタ大陸のほぼ全土を支配するに至った王国です。

 私の記憶が正しければ、ロレンス王国はつい最近までウチと変わらない小国だったはずです。



「うーん、正直どうすればいいか分からないのよ。そもそもお父様の書庫にもロレンス王国に関する文献はなかったし、なんでこの短期間に勢力を伸ばせたのかも分からないわ。これじゃあ、対策を立てようにも情報不足だわ」


「姫殿下がそう仰ると思って、ロレンス王国に関する資料を集めておきました。と言っても、そこまで量は確保できませんでしたが……」


「あら、ずいぶん用意がいいわね? 早速見せて頂戴」



 アルカルトが渡してくれたのは、ロレンス王国に関する統計資料でした。人口から国勢調査、文化に関する記述も見られます。



「これ、多分指導者がよっぽど有能なんだわ。ほらここ見て、最近行われた事業の一覧があるけれど、どれも理に適ったものばかりだわ」


「上下水道の整備に街路の拡張、出店税の廃止ですか……まるで王女殿下の行政を見ているかのようです」


「だとしたらなかなかの強敵よ。こちらも最悪の状況を想定しながら動いた方がいいかもしれないわ。

 対応については追って通達します。少し考える時間を頂戴」


「了解いたしました」



 一礼してアルカルトが出て行こうとした瞬間、彼を押しのけるようにしてミリダが執務室に入ってきました。



「お嬢様、大変です!」


「ミリダ⁉ どうしたのよ、ほら、とりあえず落ち着いて」



 彼女がここまで取り乱す事態ですか。すごく嫌な予感がします。



「お嬢様に、縁談の申し入れです」


「……は? 私に? どこから?」



 ミリダと同じく、私も一瞬取り乱します。帝国の皇子たちが私に縁談を申し込んでくることはもうないでしょうし、共和国はすでに虫の息。小国連合はウチを目の敵にしていますから、縁談なんてもってのほかです。


 いったいどこが、という疑問を、次にミリダが続けた言葉が吹き飛ばしました。



「ロレンス王国です! 王国の第一王子が、お嬢様を側室に迎えたいと……!」



 このタイミングで⁉ という疑問が脳内を支配しますが、すぐにしてやられたと唇を噛みます。


 恐らく、ウチがロレンス王国の内情を探っていることに気付いたからこそ、次の手を打ってきたのでしょう。向こうからすれば先手を取り続け、こちらはすでに後手に回っています。



「お嬢様、お断りなさってもよろしいのでは……? いきなりの縁談でしかも側室なんて、あまりに失礼ではないでしょうか?」


「それはそうなんだけど、無下にするわけにもいかないわ。相手は大陸一の領土を持つ国な訳だし、『側室に』というのもあながち筋を外しているわけではないわ。国力だけを比較するのなら、何の問題もない縁談でしょう。

 とりあえず、歓待の準備をして頂戴。返信文は私の方で考えるわ」



 全く知らない相手、しかも大陸外かつ国力で劣る国の王族に、第一王子が自ら縁談を申し込んできているという異常さ。これが第二、第三王子あたりならまだ政略結婚として理解もできるのですが、同時にこちらとしても断りやすかったでしょう。


 しかし、相手が第一王子となれば話は別です。本音で言えば縁談なんてまっぴらごめんなのですが、こちらからは断るに断れない状況。これを相手が狙ってやっているのだとしたら、よっぽど性格がねじ曲がっているのでしょう。



「やっと国庫に余裕が出来てきたこの時に、大陸外の大国相手に歓待する費用を捻出したくないのだけれど……ケーネに予定の調整はしてもらうとして、アルカルト、貴方には今回の申し出について、その目的がどこにあるのか探ってもらえるかしら? 難しいとは思うけど、お願い」


「……何とかしてみましょう。それでは」



 方針が決まり、二人とも踵を返して執務室を去ります。


 私相手に、常に先手を取り続ける相手……これは、いつも以上に気を引き締めなければいけないかもしれませんね。



昨日、よもぎ団子さんから感想を頂きました。Thank you for impression!


一日寝て復活したポンコツ筆者、今日からまた十九時の更新です。これからもよろしくお願いします!

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