#1 開幕は祝祭の夜に出会う[シーン3]/THE OPENING INTO CARNIVAL NIGHT [scene.3]
#1完結
2019年8月9日:サブタイトル修正
2020年4月19日:微調整および空白行追加
「てめぇ……なにもんだ?」と暗殺者は問い、
「あ、あなたは?」とシェリアは問う。
「……ただのおせっかいなコソ泥です……よっ!」
少年は後ろ足で窓を蹴り割った。
「宝玉盗みから誘拐に計画変更かよ」
そう呟いて、少年はシェリアを抱き抱えたまま、蹴り割った窓から飛ぶ。
◇
盛大な花火が夜空に打ち上がる中、少年はシェリアを抱き抱えたまま夜の城下町を飛び回る。
「こんなの俺は聞いてないぞっ!」
屋根から屋根へと飛び移りながら少年は駆け抜ける。そんな少年の横顔を呆然とみていたシェリアは、ふと我に返った。抱き抱えている少年の手はシェリアの乳房をしっかりとつかんでいた。
「ぶ、無礼者!」シェリアは、顔を赤く染めながら少年に怒鳴る。
「無礼もクソもあるか! 状況を見ろ貴族!」少年はすかさず切り返す。
◇
――ちょっとちょっとどういうことよ! 計画じゃ宝玉を持って飛翔広場で合流のはずでしょ!
中央商業塔の屋上から少年を見張っていた少女は、旧時代の軍用双眼鏡で目の前の状況を目撃していた。
――しかもあいつが抱き抱えている子、シェリア・アイチ姫殿下じゃない! 一体何が起きてるっていうのよ!
双眼鏡から目を離し、少女は拳銃型の鉤爪を手に取るやいなや、鉤爪を屋上の一角に引っ掛け、グリップをしっかりと握りしめていることを確認して、一気に屋上から飛び降りる。地面までほんの数メートルまで差し迫った瞬間に引き金を引き、内蔵のリールがワイヤーを巻き取り、結果的に落下速度が遅くなり、少女は難なく地表に着地した。
――あいつを追っている奴をどうにかしないと……進行方向から考えると螺旋塔へ向かっているわね。となるとあの道で撒く算段ね。
少女は走る。少年と合流するために。
◇
少年は走る。シェリアを抱えて走る。屋根から屋根へと飛び移りながら走る。
――飛翔広場へ向かうのは……追われている現状から考えても無理。螺旋塔へ逃げ込めばまだ手はある!
螺旋塔には盗賊ギルドでよく使われる逃走ルートがある。そのルートはあまりにも足場が不安定で、追っ手を撒くのに適していた。その時、螺旋塔の屋上から光が一定のリズムで明滅を繰り返していることに少年は気づく。
――コチラハ、レミ、ケイビヘイ、ナシ、アンゼンカクニン、ヨシ……か、助かったぜ、レミ。
少年は光のリズムから素早く暗号を解読する。そして螺旋塔のふもとにたどり着くやいなや突き出た鉄骨を軽やかに登り始める。
「ちょ、ちょっと! どこ通っているの!?」
シェリアの狼狽をよそに少年は着実に鉄骨を伝って螺旋塔を登る。
――さすがにここまでは……ってマジかよ。
ふと少年が振り返ると、鉤爪の暗殺者は壁に鉤爪を突き立てて登る。
「それ反則だろ!」
少年は舌打ちし、なおも足を止めることなく登り続ける。
◇
レミは拳銃型鉤爪で一気に螺旋塔の屋上まで辿りつくと同時に腰につけた魔導ランタンの灯りを灯し、周囲を素早く調べる。
――警備兵はいない、合流に問題ないわね。
確信したレミは魔導ランタンのダイヤルを回して光量を調節する。そして魔導ランタンを黒い麻袋に入れると一定間隔で袋の口を開いたり閉じたりする。
――光信号、この光量なら届くはず。
そして用が済むと同時に魔導ランタンを屋上から放り投げ捨てる。後に残るは暗闇と静寂と花火だけだった、もう一人の存在を除けば……。
◇
螺旋塔の屋上にたどり着いた少年は、素早く物陰に身を隠し、シェリアを纏っていたローブで包む。
「いきなり何を……」
シェリアは抗議しようとしたが、少年の顔を見てハッとした。月明かりが少年を照らす。短く整った黒髪に左頬にうっすら残る十字架の火傷痕、そして……両手首につけられた漆黒の腕輪。
「これから奴を追い払う。あんたはここでジッとしていてくれ」
少年はそれだけ告げると同時に駆け出す。
◇
――奴らはここに逃げ込んできた……どこに隠れた……見付けたら細切れにしてやる。
少し遅れてやってきた暗殺者の男はあたりを見渡す。
「ハァイ、クソ暗殺者」
暗殺者の男の背後から少年は声を掛ける。暗殺者の男は振り向きざまに鉤爪を振り下ろす。だがそこには誰もいなかった。
「こっちだバーカ」
少年は白い粉を入れた袋を地面に投げつける。衝撃で白い粉は拡散し、煙幕となった。
「ちぃっ!」
暗殺者の男は舌打ちする。
「ふざけんじゃねーぞコソ泥風情が! てめーぜってーブッ殺しってやらぁ!」
「それは怖い」
少年は手にしていた筒の先を暗殺者の男の首筋に合わせるや否や、フッと勢いよく息を吹く。暗殺者の男の首筋に小さな針が刺さった。
「な……んだ……」
「ただの睡眠薬だ。ただし半日ばかし寝ちまうがな」
少年は地面へと伏しつつある暗殺者の男を見下ろしながら答える。
「ふざ……け……」
しばらくして暗殺者の男は地面に伏し、いびきをたてて眠りについた。
◇
地面に伏した暗殺者の男を見下ろし少年は胸をなで下ろす……が、すぐに気を引き締め直し周りを素早く見渡す。
――暗殺者は動けない、レミも離脱しているみたいだな……とにかく当初の目的地に向かうか。
少年は筒をポケットに入れると、シェリアに向き合う。
「……すまないが、もうしばらく付き合って貰うぜ」
「……わかったわ」
少年は手を差し出し、シェリアは手を取る。
「……結局宝玉は手に入らずか」
◇
飛翔広場、金属の棒で螺旋状に形作られた三角錐の物体が中央に鎮座する、そこに少年とシェリアはたどり着いた。
「……おかしい、人がいない」
だが、そこには祭りで賑わっているはずなのに、人は一人もいなかった。そこへ拍手の音が鳴り響く。
「すぅーばらっしぃ! じぃーつにすーんばらっすぅぃー!」
路地の陰から拍手しながら赤い服を纏った小太りの男が姿を見せる。
「いやはや、我々が雇った暗殺ギルドの人間を撃退するとは想定外だ」
そういうやいなや右手を掲げあげる。次の瞬間、路地という路地の影から無数の兵士が少年とシェリアを取り囲む。
「誰だ」
少年は問う。
「おや、盗賊組合の連中はよっぽど政治に興味がないのかなぁ?」
男は芝居がかった口調で問い返す。
「あいにくと気にくわない貴族連中には興味すら持てないんでね」
少年は吐き捨てるように答える。だが、そんな少年を遮ってシェリアは前に出る。
「……サエキ・マキムラ大臣、あなたは何故ここに?」
シェリアは男をサエキと呼んだ。
「……くっくっく、もう分かっているはずでしょ? シェリア・アイチ姫殿下殿」
サエキは醜悪な笑みを浮かべ、シェリアに問いかける。
「……そんなに王位が欲しいのか!」
「そのとおぉりでございまぁす」
サエキはニタニタと笑いながら右手を掲げる。暗闇の中から漆黒の甲冑を纏った兵士たちと、両手を荒縄で縛られたレミが現れた。
「うぅ……」
一歩歩くたびにレミは苦痛からか呻く。身体のあちこちに打撲跡が痛々しく映る。
「っ! レミっ!」
レミの姿を見て、少年は思わず叫ぶ。
「せーっかく隣国のぉ、暗殺組合からたぁっかい金を積んで雇った暗殺者を無駄にさせたこそ泥風情がぁ!」
サエキはレミの頬を引っぱたく。レミは抵抗すら出来ず、地面へと倒れ込む。
「レミッ!」少年は目の前の光景に狼狽し、
「卑怯者がっ!」シェリアは怒りをあらわにする。
◇
<数分前/FEW MINUTES AGO>
レミはランタンを投げ捨て、螺旋塔の屋上の闇に溶け込む。
「おや、こんな場所にドブネズミが紛れ込んでいたのですかぁ」
ふと背後から声がする。レミは思わず振り返る。そこにはサエキがニタニタと笑いながらレミを舐るように眺めていを
――うそっ! さっきまで誰も居なかったのに!
突然の第三者の登場にレミは狼狽する。
「あまりウロチョロされても困りますねぇ……少し眠って貰いましょう」
その瞬間、レミは、何かに、意識を刈り取られた。
◇
<現在/PRESENT TIME>
「まぁぁったく、せぇっかくの暗殺計画がだぁいなし。おかげで! せっかくの! 金も! 無駄に!」
サエキは喋るたびに倒れたレミに蹴りつける。
「やめろぉ!」
少年は腰のポーチから石を取り出すやいなや、サエキに向けて投げる。放たれた石は結果的にサエキへ直撃……しなかった。
「はっ?」少年は目の前の光景を受け入れがたい表情で見た。
「嘘……」シェリアも同じような表情で目の前の光景を見た。
なぜなら、放たれた石はサエキの寸前で、時が制止したかのように止まっていたからだ。
「おやおや、イケないなぁ……」
サエキは醜悪な笑みを更に歪め、少年とシェリアをニタニタと嗤いながら視る。次の瞬間、サエキの身体は波打つように胎動しながら姿形を変えていく。
「まさか……」
「そん……な……」
少年とシェリアはサエキの姿を見た。
それはまるで御伽噺に出てくるような醜悪で醜悪な悪魔そのものだった。
「魔人……」
少年はポツリと言葉を溢す。
「クックックック……おやおや、この姿になるのは実に半世紀ぶりだ……」
サエキはうっとりとした恍惚の表情でその背から羽根を生やす。
「さて……いい加減、鬱陶しいかぁら……」
サエキが手を叩くと、弓を構えた兵士たちが闇の中から現れる。
「とりあえず死んじゃいなぁさい」
無慈悲に弓から矢が放たれ、そのまま少年の身体を貫く。
「……はっ?」少年は呆けた表情で自らの身体を見る。
「……えっ?」シェリアは隣にいた少年を見る。
少年は重力に引っ張られるように背中から倒れた。矢で貫かれた所から少年の血液が流れ出す。
「サエキ……貴様ぁ!」
眼前の凶行にシェリアは激怒する。
「おやおや、シェリア・アイチ姫殿下ともあろうお方が……クックックック……」
そんな様子に対しサエキは笑う、嗤う、笑う、嗤う、笑う、嗤う。
その時だった。少年の血液が少年の腕輪に付着した瞬間、それは起きた。
◇
>対魔素汚染体殲滅銃砲ME9制御オペレーティングシステム
>システム起動
>ユーザー認証:失敗
>遺伝子情報確認:新規ユーザー登録開始
>バイタルサイン:危険域
>ユーザー登録一時中断
>緊急治療:実行開始
◇
少年の腕輪が強く発光する。同時に少年の傷が急速に癒えていく。腕輪が姿形を変えていく。少年の身体が真っ白な光に包まれる。
「な、なにっ!?」シェリアは突然の事に戸惑う。
「こ、これはっ!」サエキは腕輪の変貌に狼狽える。
「〈対魔素汚染体殲滅銃砲ME9緊急起動。使役者の意識が不明のため自動モードによる代理使役を行います〉」
光が収まった。少年は、まるで矢など刺さっていなかったかのような様子で、だが少年の声は微かに女性の声と重なっている。
「〈測定形態移行〉」
腕輪は拳銃の姿に変貌した。
「〈種類:男爵級を検知、排除モード設定〉」
拳銃の姿に変貌した腕輪の銃口が光り輝き始める。周囲の大気を吸い込むように渦巻きながら。
「まさか……魔銃!?」
サエキは恐怖に引き攣った表情で叫ぶ。
シェリアは少年を驚愕の表情で呆然と眺める。
少年は意識を失ったまま、引き金を引く。
〜魔銃士の覚醒は成った、物語は動き出した〜
〔#1から#2へ続く[開幕]/#1 → #2 CONTINUE[KICKOFF]〕
#1シーン3書き上げるのキツい……
とにかくキツい
ベリーキツい
1話を3分割させるのは書き上げやすくするためだったのに……文才の無さがヤバい!!!!
あー、キッツい……。
まだ起承転結の【起】となるエピソードだぜ、これ。