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第20話:時来たる

「これが今日の依頼分だ。納めてくれ」


 クロガネがカナリアのギルドに入ってから早くも10日が経過した。


 クロガネはカナリアの拠点に住みこみながら、カナリアの従者のように毎日ギルドへ向かい、そこから適正な依頼を見つけては簡単にこなし、得た金銭をカナリアのギルドに上納していた。


「こんなに入れなくてもいいのに……」

「いや、勉強代としては安いくらいだ」


 クロガネはしれっとそう言うが、はっきりいって貰いすぎである。


 クロガネは最低限自分が使う分だけを残し、それ以外は全てカナリアに献上している。

 さらに言うと、クロガネの受けている依頼は危険度の高いものなのでリターンも大きい。


 一回でカナリアの初心者マウント楽勝依頼の2~30倍は稼いでくる。

 お陰でカナリアの懐はものすごく潤うのだが、ヒモみたいな状態になっていて申し訳ない。


「そんなやりがい搾取みたいな事したくないんだけど」


 前世で社畜だったカナリアとしては、本人のやる気につけ込んで金を巻き上げるのは苦手だ。

 狙うなら金持ちの道楽依頼とか、そういう奪って当然みたいな所から金をむしり取りたい。


「やりがい搾取? カナリア殿は面白い事を言うな」


 クロガネとしては、生きる指標を教えてくれるカナリアは師匠のようなものだ。


 むしろ払い足りないくらいなのだが、カナリアはクロガネがなぜこのギルドにいるのか分からないので、お互いの意思疎通がまったくできていない。


「むしろ拙者の方が不思議なのだが、カナリア殿はなぜ初心者育成の依頼ばかり受けているのだ? カナリア殿ならもっと上を狙ってもいいと思うのだが」

「そりゃもちろん……」

「もちろん?」


 楽だから、と言いかけてカナリアは口ごもった。

 そんな事を言ったら、クロガネに稼がせて自分ばかり楽しやがってとキレてしまうかもしれない。

 自分だったらキレる。なんとかして言い訳をねつ造せねば。


 カナリアはどうしたものか迷ったが、クロガネは真剣な表情でカナリアの次の言葉を待っている。

 真剣な表情を裏切る答えをしたら、真剣を振りおろされるかもしれない。


「……時期を待っている」

「時期? 時期とは?」

「い、今に分かる時が来るよ」


 結局、カナリアは自分でもよく分からない、うやむやな言葉で誤魔化した。

 クロガネも眉をひそめていたが、それ以上は突っ込まなかった。


(後進の育成をしているのは理解できるが、時期とは? そういえば、最近ギルドが何やら慌ただしいが、それと関係が?)


 もちろんなんの関係も無いが、クロガネは勝手にそう結論づけた。

 最近、廃坑の辺りに正規ギルドや国の調査隊が派遣されている事は冒険者の間で有名な話だ。

 特に深い関わりを持たないクロガネですら情報だけは入ってくる。

 ならば当然、カナリアも耳にしているはずだ。


 当然、カナリアはそんな事気にも留めていなかった。

 カナリアは美少女ハーレムを作るためだけに、小銭とあぶく銭を稼ぐ依頼を探すのに精いっぱいで、周りの噂なんか心底どうでもよかったからだ。


「ギルド長がそう言うのなら、拙者は特に追及はしない」

「そ、そう。ならいいんだ」


 クロガネが納得したので、カナリアは内心でほっと一息ついた。

 クロガネが来てくれて収入は増えたし、カカポやノリスも仲間が増えて喜んではいるのだが、いかんせん自分より強い部下が出来てしまうと扱いに困る。


「ハーレムって大変なんだな……」


 美少女に囲まれてキャッキャウフフするのが最終目標だし、クロガネも真面目系黒髪サムライ枠としては全然オーケーなのだが、現状だとハーレム要員が増えてわぁいなんて言ってる状況ではない。


 さっさと金を溜め、適当な美少女を集めたら隠居しよう。カナリアは深く心に誓う。


「おねーちゃん! お客さんだよー!」

「ちっ」


 メイド服姿のカカポが開いたドアからひょこっと顔だけを出し、カナリアを呼ぶ。


 カナリアはクロガネに聞こえないよう舌打ちした。

 依頼から帰還したばかりのクロガネに「大丈夫? 肩揉んであげようか?」と労いながら、どさくさに紛れて乳を揉もうとしていたのに邪魔しやがって。


 とはいえ、この家の主はカナリアだし、カカポに対応させるとややこしい事になる。

 後ろ髪引かれながら、カナリアは入口の方へ重い足取りで招かれざる客の応対に向かう。


「久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「あ、アーノルド!?」


 入口には、爽やかな笑みを浮かべ、輝くような金髪が日の光を浴び、全身が輝いて見えるような好青年が立っていた。カナリアの元ギルド長かつ、新進気鋭の正規ギルド『黄金の竜』の長、アーノルドである。


「すまない。様子を見に来たかったんだが、なかなか来る機会が持てなくてね」


 アーノルドは申し訳無さそうな表情でそう呟いた。

 彼としては、カナリアが自ら身を引いたのを止められなかった引け目もあるのだが、多忙なのでなかなか顔を出せない事を悔いているようだった。


「あー、別にそんな事はいいんだけど」


 カナリアは笑いながら、ひらひらと手を振る。

 カナリアが抜けたのは自分の目的のためだし、むしろアーノルドにちょっかいを出されると色々とやりづらいのだ。


「……ありがとう」


 だが、カナリアの思惑を知らないアーノルドはそうは思っていない。

 自らギルドの名誉のために同期達から離れたのだが、つらくないわけがない。

 少なくとも、アーノルドの中ではカナリアはけなげな子みたいな扱いになっている。


「一流正規ギルド様が何の用だ? 追放した弱者をあざ笑いにでも来たのか?」


 アーノルドとカナリアに割って入るように、刺々しい声が響く。

 カナリアが後ろを振り向くと、いつの間にかクロガネが立っていた。

 クロガネは、アーノルドに対し厳しい視線を向ける。


「君は……確かクロガネだったかな? 君の腕前は僕も耳にしているよ。君がカナリアのギルドに入ってくれたと聞いた時は安心した。きっと彼女の力になってくれるだろうからね」

「お世辞はいい。何の用だと聞いている」


 クロガネはにこりともせず、アーノルドを睨む。


 クロガネからすれば、この男は同期のメンバーであるカナリアを切り捨て、正規ギルドの認定の方を選んだお貴族様だ。カナリアに肩入れしているクロガネからすると、どちらかというと敵である。


 だが、アーノルドはそんなクロガネに対して苦笑するだけだ。

 通常、貴族であればこんな不躾(ぶしつけ)な態度を取られたら逆上するものだが、この辺りがアーノルドの人格を現している。


「別に君達をあざ笑いに来たわけじゃない。今日は、正規ギルドとして、カナリアに提案があって来させてもらった」

「私に?」


 カナリアが自分を指差すと、アーノルドは(うなづ)いた。


「君でなければ出来ない事だ」

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