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第19話:ギルド入団試験

「拙者をこのギルドに入れて貰えないだろうか? 多少ではあるが、剣の心得はある。カナリア殿の『道』を、拙者にも歩ませていただきたい」

「は?」


 道を歩ませて欲しいと言われても、何のことやらさっぱりわからない。

 カナリアは困惑しながらも、なんとかクロガネの言葉の意味を理解しようとした。


「もしかして百合なの?」


 一緒に道を歩んでいきたい、それすなわちプロポーズなのでは?

 カナリアにはそのくらいしか思いつかなかった。


 確かに、カナリアは中身が男なので女の子が好きだ。

 そのために女体を持ちながらハーレムを作ろうと孤軍奮闘している。


 クロガネは名前通り研がれた刀のような鋭い雰囲気を漂わせているが、外見はかなりの美少女である。カナリアのハーレム枠に加えるには充分な逸材ではある。


 だが、カナリアは純愛派だ。

 出会ったその日に美少女と結婚を前提とした付き合いをするのはちょっと。

 でもなあ、かといって据え膳食わぬは男の恥とも言うし。女だけど。


「失礼な。確かに拙者は歩く姿は百合の花などと容姿を褒められた事はあるが、あくまで剣士。容姿だけで判断されるのは屈辱極まりない」

「あ、そうなの……」


 カナリアが妄想の翼を羽ばたかせていたら、冷水をぶっかけるようにクロガネが否定した。

 性的な意味の百合ではないらしい。


 だとしたら、一体どういう意味があるのだろう。

 ギルドメンバー募集はしていないし、そもそもカナリアのギルドはまともな依頼を一つも受けていない。それなりに剣の腕が立つなら、他のギルドに入った方がいいのではないだろうか。


「さっきも言ったけど、うちは正規ギルド認定とか興味無いよ?」

「つまりそれは、権力や金銭にも興味が無いということか?」

「いや、ある程度はあったほうがいいと思うけど……」


 カナリアはそんな聖人ではない。どちらかというと俗物である。

 今すぐ楽して大金が貰える依頼があれば速攻で受けるだろう。


 だが、この曖昧な返答は、逆にクロガネにとって非常に興味深いものらしかった。


(なるほど。このカナリアという少女、ただの夢想家という訳ではないようだな。綺麗な理想を語るだけのほうがよほどうさん臭い)


 クロガネは腕組みをしながら、一見弱弱しく、地味で小柄な少女を見据える。

 皆が柔らかで温かな物に包まれる世界。確かにそれを目指すのは素晴らしい。

 だが、理想と現実は違う。理想を掲げるなら、それ相応の代償を払わなければならない。


 その点、カナリアという少女はただの理想論ではなく、金や権力といったものの重要性を知っている。同時に、正規ギルドなどの国の犬にはなり下がらないという決意も持っている。

 

 陸竜を倒す力を持ちながら、清濁併せ持つ思考の持ち主だ。


「……素晴らしい」

「……何が?」


 クロガネは愉快そうにくっくっと笑うが、カナリアにはもはや何が何だかわからない。

 すると、クロガネは表情を引き締め。

 椅子から立ち上がると、カナリア前に膝をつきながら頭を垂れた。


「ちょ、ちょっと! 何やってんの!?」

「頼む! 拙者をカナリア殿のギルドに入れてくれ! この通りだ!」


 クロガネは必死だった。大陸中をさすらい、ようやく自分が身を預けるにふさわしい場所を見つけたのだから無理もない。


「拙者を……カナリア殿の信念を貫く刃として使ってくれ!」

「そんなもの、うちには無いョ……」


 いきなり迫真のギルド入団演説をされ、カナリアは困惑した。

 クロガネの迫力につい語尾まで小さくなってしまう。


 このギルドはあくまでカナリアの、カナリアによる、カナリアの欲望を叶えるためのギルドである。オールフォーカナリアだ。


 一応冒険者としてやっていくために登録してあるのであって、なんでここにこだわるのかさっぱり分からない。


「うち、本当に給料とか出ないよ? そもそも大した依頼受けてないし」

「自分の食いぶちくらいは自分で稼げる」


 遠まわしにお祈り通知を出したのだが、クロガネには伝わっていないようだった。

 そもそも、クロガネは金のためにカナリアのギルドに入りたい訳ではないので、理解されたとしても聞き入れなかっただろうが。


「うーん……」


 どうしたものか。クロガネは相変わらず平伏したままだし、恐らくカナリアが頭を上げていいというまでずっとこの姿勢のままだろう。


 下手に断ると、クロガネの性格が完全にまだ分からないので、逆上して夜道で切りかかられる危険もある。お侍さんは切り捨てご免とかあったし。


 となると、一応ギルドに入れて、現実を見た後にやめてもらうのが一番上策かもしれない。

 そこで、カナリアはある事を思いついた。


「クロガネさん」

「クロガネで構わない。して、答えは?」

「うん、ちょっと立ってもらえる?」

「了解した」


 カナリアに促され、クロガネは立ち上がる。

 クロガネが女性にしては長身なのと、カナリアがチビなのもあって、カナリアの目線の少し下あたりにクロガネの胸が見えた。


「裸が見たいわ! 服を脱いでちょうだい!」

「は、裸!?」


 カナリアが急に謎の発言をしだしたので、今度はクロガネの方が困惑する。

 理由は分からないが、相手も女性ということもあり、クロガネは着物の上をほどく。

 クロガネは上半身にさらしをきつく巻いていて、柔らかな二つのお山が窮屈そうにはみ出していた。


 それを見ると、何故かカナリアは頷いた。


「うん。よろしい。合格」

「もういいのか?」


 クロガネはきょとんとした表情になる。今の何が合格なのか意味不明だったからだ。

 とはいえ、クロガネは破顔(はがん)した。長らく追い求めた『道』に、ようやく一歩踏み込めたのだから。


「じゃあ、ギルドメンバーって事でこれからよろしく。うちに空いてる部屋があるけど、住みこむ? それともどこか別の宿とかあるの?」

「当然、ここに住まわせてもらう。ではカナリア殿、これからよろしく頼む」


 クロガネは着物を再び着こむと、カナリアと固い握手を交わした。

 こうして無双の剣士クロガネは、カナリアの頼れる仲間となった。


 カナリアの家に住み込むため、クロガネは一度ギルド拠点から出て、宿に置いてある荷物を取りに行く。その道中、先ほどの謎の裸祭りについて考えていた。


「剣士たるもの、ちゃらちゃらとした下着など着けていないかチェックされたのかもしれんな。フッ、舐められたものだ」


 生来真面目なクロガネは、苦笑しながら一人呟いた。女を捨てる覚悟もないなら必要無いと門前払いをされていたのかもしれない。


「ふふ、明日からの生活が楽しみだ。一体、どのような世界が広がっているのか」


 クロガネは荷物を取りに行く最中、ずっとにやけていた。依頼中、ほとんど表情を崩さない彼女がこういった態度を取るのは非常にまれな事だった。


「明日からの生活が楽しみだな!」


 一方、クロガネが戻ってくる間、カナリアはカナリアでずっとニヤニヤしていた。

 刃物を振り回す人が一緒に暮らしているのはまあ怖いが、それを差し引いてもクロガネを入れる価値はあると判断したからだ。


 もちろん、剣の腕前ではない。さらしの下にあるたわわな果実が判定基準だ。

 クロガネの乳は名前とは裏腹にみずみずしく、柔らかそうだった。


 要するに、おっぱいで合否を判定していた。


 もしもカナリアが日本の面接官で、インターネット上に流れたら大炎上待ったなしだ。

 クロガネはどうせこのギルドに幻滅して去っていくだろうし、向こうから入りたいと言ってきたのだから文句は言えないだろう。


 その間、一緒に住んでいれば、お風呂に入ったりして体を洗いっこしたりとか出来るかもしれない。


「こりゃあたまりませんな」


 カナリアは下衆っぽい笑みを浮かべながら、冷めきったお茶を一人ですすっていた。

 こうしてクロガネは、カナリアのギルドに正式に加入する事となった。

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