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第13話:社会復帰

 カナリアが再びギルドに通い始めてから二週間。社会復帰を果たしたカナリアは、予定通り新人のフォローというぬるい依頼を受けていた。


「この森で素材を探すなら東側を通った方がいいよ。魔物が少ないからね」

「さすがですね。今一番勢いのあるギルド『黄金の竜』に所属していただけの事はあります」

「大した事じゃあないよ」


 などと新米冒険者にマウントを取りつつ、カナリアはアーノルドの栄光を思いっきり利用していた。アーノルド達は日増しにギルドの勢力を拡大しており、創設メンバーのカナリアは新米冒険者たちにとってあこがれの対象になりつつあった。


 大概の冒険者は元々大手に所属していたというプライドがあり、新米を見下す場合が多い。


 だが、カナリアにはそういう匂いが全然無いのだ。本来ならもっと上位の依頼を受けてもいいはずなのに、あえてデビューしたばかりの補助ばかりを買って出てくれている。


 カナリア自身は他の三人より遥かに劣る実力者であり、元・正規ギルド員という小学生のころに取った100点のテストを自慢しているような状態なのだが。


「でもいいんですか? 俺たちみたいな新人に構ってて。カナリアさんだって冒険者として成り上がりたいでしょ?」

「あー、私はそういうのはいいんだ。もっと壮大な目標があるから」

「壮大な……? 何ですかそれ?」

「ひ・み・つ♪」


 新米冒険者の青年の問いに対し、カナリアは悪戯っぽく笑ってそう言った。元おっさんだってたまには乙女チックな行動をしてもいいじゃない。体は女の子だもの。


 カナリアの壮大な目的……しつこいようだが美少女のハーレムを作ってスローライフを送る事である。全然壮大ではないが、カナリアにとって一生を掛けて追い求める夢である。


 冒険者は副業であり、カナリアの本音を言うと、美少女奴隷を扱う商人になりたい。最近なかなか顔を出していないが、近いうちにカカポを売ってくれた大恩ある闇奴隷商人さんにレクチャーを乞う予定も建てている。


「新米の依頼はあんまり金にならないからねえ……」


 近くの森で物資の採取をこなし、依頼料を受け取ったカナリアは、貰った金額の少なさに舌打ちした。楽なのはいいが、いかんせん冒険者の育成も兼ねた依頼なのでもらえる額は微々たるものだ。


 別に贅沢をしているわけではないので貯蓄は出来ているがスローペースだ。

 今後、カカポのような美少女奴隷が増えていけば維持費も掛かるし、なるべくローリスクハイリターンの仕事を受けていく所存である。


「お貴族様、早く道楽で依頼出してくださいよぉ」


 掲示板を覗いても、今日もお貴族様の依頼は出ていない。かつてアーノルド達と行動を共にしていた時にこっそり受けようかと思ったのだが、アーノルド達は全員貴族でありながら清廉潔白(せいれんけっぱく)で、庶民を見下す依頼を一番嫌っていた。


 そうなるとカナリア一人で受けるという訳にもいかず、涙を呑んでスルーし、別に戦いたくもない魔獣討伐だの、何日も掛かる遠征だのに付き合わされる羽目になった。


 お陰で最低限は冒険者としてやっていけるスキルや体力が付いたのには感謝しているが。


「まあいいや、早く帰ってカカポやノリスと癒しタイムに入ろう」


 他の冒険者員達がこぞって他者を押しのけ、栄光を掴もうとしているのを横目に、カナリアは何食わぬ顔でギルドを出た。みんな大変だなというのが正直な気持であった。


 建物を出る直前、今、アーノルド達を含めたダンジョンの捜索を進めているが、想定よりもかなり厄介で、参加メンバーを拡張するかもしれないという噂がカナリアの耳に入ったが、どうでもいい事だった。


「ただいまー」

「おかえりっ!」


 カナリアが自宅に戻ると、すっかり懐いたカカポが飛びついてきた。仕事は特にさせていないが、メイド服は常時着用させている。これだ。これこそがカナリアの望んでいた人生だっ!


「ギャース!」

「うんうん。ノリスもいい子にしてたね」


 そして、カカポの後ろからノリスが飛んできてカナリアの前に着地する。ノリスは買ってきた時の毛玉状態から大分脱却していて、まだ所々白い産毛(うぶげ)はあるが、その姿は完全に大鷲(おおわし)のようになっていた。飛行速度もハヤブサ顔負けである。


(これ絶対ヒヨコじゃないだろ……でもなんの鳥か分かんないし……)


 あの肉屋パチモン掴ませやがってと思ったが、猛禽類はカッコいいし、懐いてるからまあいいかという事で妥協した。ただ、どれくらいでかくなるのか分からないし、ブンチョウくらいしか飼育した事のないカナリアに大型猛禽類はいささかハードだ。


(そのうち、ちゃんとした飼育員でも探そう)


 飼ってしまったものは仕方ない。出来る限り幸せにしてやろう。ノリスに関してはこれくらいにしておいて、カナリアは本題に入る。


「今日は依頼を受けて遅くなっちゃったから、外でごはんを食べよう」

「外でごはん? やったー!」

「ギャーーーース!!」


 カナリアの提案に、カカポとノリスは大喜びだ。

 別にカナリアの料理がまずいという訳ではないのだが、家庭料理なので作り置きを何日も食べたりするのでいささか飽きるのだ。


 最近はカカポも街に馴染んできたのか、カナリアと一緒の時は喜んで外出をするようになった。

 というわけで、二人と一羽はカナリアが普段よく通っている料理屋に足を運んだ。


 店はかなり混雑しているが、スキンヘッドのマスターはカナリア一行を見かけると、強面(こわもて)を緩ませてカウンター前に手招きした。


「ようカナリア、最近の調子はどうだ?」

「まあまあ上手くやってる……と思う」

「そうか。たまにアーノルド達から聞くが、お前、最近は新米の補助ばっかりやってるんだってな。面倒見がいいのは長所だと思うが、少しは自分の事を大事にした方がいいぞ」

「大丈夫。好きでやってる」

「……そうか」


 元冒険者のマスターは、カナリアが新米の補助ばかりしているのを気にしていた。元正規ギルド員が補助に入ってくれれば新米達は非常に嬉しいだろう。だが、カナリアは?


 カナリアが初心者を助ければ助ける程、他のギルドとの差は開いていく。その行為が、マスターにはなんとなく殉教者のように見えてしまうのだ。


「ま、俺としてはお前さんが元気でやってればいいんだけどな。何も一流の冒険者になるのだけが人生の全てじゃねえ」

「よく分かってるね」


 カナリアは笑顔で答える。そう、冒険者などしょせん副業。真のスローライフを追い求める事に意味がある。さすがマスター。冒険者を辞めて料理人を始めただけはある。


 マスターは一流になりたくてもなれなかっただけで、カナリアとは根本的に意識が違うのだが、その辺りをお互い理解していなかった。


「おじさん、お水おかわり」

「おう、カカポっつったか? ほれ、これも食っとけ」

「わぁ! イチゴだ! ノリスにもあげていい?」

「そっちの鳥か? 別に構わんが……」

「ギャース!」

「『マスターはいい男だ』って、言ってる」


 カナリアは野菜スープとパン、それに焼肉をモリモリ食っており、カカポは水をぐびぐび飲みながらイチゴを頬張り、ノリスは火を通していない肉を用意され、それをついばんでいた。


 各々が好き勝手に好きな物を注文し、勝手気ままに食っているあたり、カナリアの管理能力の無さがなんとなく浮き彫りになるが、一応ほほえましい光景ではある。


「カナリア、お前さんはこれからどうするんだ? お前、色々な魔法とか使えるんだし、魔物討伐とか参加した方がいいんじゃねえか? そっちの方がギルドとしての実力も認められるぞ?」

「うーん……そういうのはちょっとねえ」

「何だよ。そこらの魔物じゃ相手にならねぇとか言うんじゃねえだろうな?」


 マスターが冗談めかしてからかうと、カナリアも悪乗りする。


「そうそう。この辺りは大体の魔獣とかは討伐されちゃってるからさぁ。最低でもドラゴンとかそれくらいじゃないと」


 あっはっは、とカナリアが笑っていると、店のドアをぶち破る勢いで一人の男が転がり込んできた。全身鎧に身を包んだその姿は、王国直属の兵士であると一目で分かった。


「ここにいる一般人はすぐに逃げろ! 街でドラゴンが暴れている!」


 伏線回収が早かった。

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