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第11話:当たらなければどうという事もない

 カカポを森に返す……というより、カカポをダシにさらなる美少女拡張計画を練り始めて早三日。当初怯えていたカカポも、新鮮な水と暖かな太陽の光、そして補助的にカナリアの雑な料理を食べ、すっかり体力を回復した。


「見て見て! 花が咲いたよ!」


 カナリアが朝食の片付けをしていると、カカポが嬉しそうにカナリアのいる台所に駆け込んで来た。カナリアが目を向けると、カカポの頭のてっぺんにサクラの花を大きくしたような、薄桃色の花が一輪咲いていた。


「髪飾りとかじゃないんだよね?」

「うん。調子がいいと花が咲くの。たくさん咲くと大人になるんだよ」

「ほう……つまり大人の階段という事ね」


 カナリアは大人の階段と発言しつつ、少し性的な興奮を覚えていた。ちょっと変態っぽかった。

 それはそれとして、カカポの体調も順調に戻ってきているし、プランPを決行するためには一日も早いほうがいい。


「じゃあ、そろそろお出かけしようか」

「お出かけ?」

「うん。服を買いに行かないと」

「フク? でもわたし、これでじゅうぶんだよ?」


 カカポはすっかり元気になっていたが、着ている服は相変わらずカナリアのシャツ一枚だ。精霊の子供は服を着ないらしいから問題は無いのだが、それではカナリアの気が済まない。


「いや、可愛い子は可愛い服を着ないと駄目っていうルールがあるから」

「そうなの? 人間って大変だね」


 もちろんそんなルールは無い。カナリアの中のみに適用される法律である。

 そのための準備は既に進めてある。

 こうしてカナリアはカカポを引き連れ、街のある場所へと向かう。


「おそと、出たいけど、ちょっとこわい……」

「大丈夫。手を繋いでれば怖くないから」


 カナリアは笑顔でカカポに手を差し出すと、カカポの方もきゅっとその手を握り返す。

 大分緊張しているのが力の入れようから伝わってくるが、カナリア的には全然OKである。

 男がこんな事をしてきたら魔法を叩きこんでいるが、美幼女なので何の問題も無い。


 精霊を連れているカナリアを、街の人間達は物珍しげに見る。

 白昼堂々と精霊を連れているし、精霊自体も抵抗する様子が無い。

 それはつまり、この少女が精霊に認められたという事で、これは極めて珍しい事だ。


 例え幼くとも精霊を使役出来る人間は、かなりの実力者だからだ。

 だが、地味な銀髪の少女の顔を知っている人間はほとんどいない。

 一体あの少女は何者なのか。皆が内心そう思っていた。


 そんな他人の視線などカナリアの眼中にはない。カナリアはただまっすぐに欲望に向かって歩き続けているからだ。


 実は使役している訳でも何でもなく、闇ルートで仕入れたドリアードがたまたま無知だっただけなのだが、その辺の事情を周りの人間が知るよしも無い。


「さー、着いた。ここで早速メイド服を買おうねぇ」

「めいどふく?」


 カナリアがカカポを連れていったのは、冒険者用の武器や防具の整備や販売をしている店だ。アーノルド達もよく利用しているし、熟練の高級品から駆け出し用まで揃っている。


 冒険者は戦士のように重装備をする者もいれば、シーニュのように魔力を高める事を重視した軽装のローブまで様々あり、オーダーも受け付けてくれる。今回はそのオーダーメイドでメイド服を頼むのだ。


「というわけで、この子のサイズに合わせたメイド服を作って下さい」

「はぁ……それは構いませんが。オーダーメイドですとお金が掛かりますよ? それよりも、冒険者ならあなたの装備を整えた方が……」


 カナリアがウッキウキで店員にああだこうだとメイド服の注文を付けていたら、親切な店員が「まずはお前の方をなんとかしろ」と遠回しに忠告してきた。


 カナリアは擦り切れたローブに身を包んでおり、それ以外は街の人間が着るような普通の服を着ている。武器も持っていない。いくら前衛ではないとはいえ、冒険者としてはあまりに貧弱に見えた。


「いいんです。私はこれで十分やっていけるから」

「まあ、あなたがいいならいいんですけど……」


 本人がそう言うなら店員としてはそれ以上言いようが無い。それに、これだけ言い切るのだから、装備など無くても十分戦えるという実力の裏打ちかもしれない。


(だって私、もう危険な依頼とか受けないからね)


 もちろん、カナリアにそんなチート的な実力があるはずもない。カナリアのこれからのプランはこうだ。冒険者として現場には出る。出るが、決して高ランクの依頼は受けない。


 カナリアが万能型を選んだのもこれが理由だ。冒険者として新米をサポートする場合、特化型より全体の底上げが出来るバランス型の方が重宝する。


 つまり、ゲームでいうと序盤はお助けキャラになるが、少し物語が進んでキャラが揃ってくると編成から抜けていくようなポジションをあえて目指していた。


 いつまでも新米のサポート役に徹し、小銭を稼ぎ、新米達から適当に感謝されて承認欲求を満たす位置をキープするという、極めて上昇志向の低い人生設計だった。


 それでも贅沢しなければ小銭は溜まっていくだろうし、そうすればまた美少女奴隷を増やす事も出来るだろう。カカポの森もきっと見つけ出す。アーノルド達が。


(アーノルド達は頑張り屋だから、きっとそういう情報も得るだろう……)


 カナリアは必殺スキル「めんどくさい部分は他人任せ」を発動させた。一応冒険者として繋がっておいて、正規ギルドとしてアーノルド達にはどんどん上を目指してもらう。


 そうすれば行動範囲も増えていくはずだから、ドリアードの森の位置をさりげなく聞きだし、分かってから安全地帯を通っていく。完璧なせこい作戦だった。


「おねえちゃん、おねえちゃん」

「ん? 何?」


 カカポがメイド服を採寸されていると、彼女の方から声をかけられ、カナリアは我に返った。

 カカポは服が手に入ると聞いて嬉しさを隠し切れていない様子だが、一瞬だけその表情を曇らせた。


「おねえちゃん、なんで服買わないの? わたしのは買うのに」

「私は別にいらないから。カカポが着飾ってくれた方が嬉しいな」

「本当にいいの?」

「もちろん!」


 カナリアは嘘偽りない笑顔でそう答えた。カナリアはあくまで美少女と暮らす事が目的なのだから、自分の服は最低限揃っていればなんでもいい。初心者冒険者のサポートならこの服装で十分だ。


 元々カナリアは前世でも服装に対して気を使わない人間だというのもある。パンチポ○モンはエビワラー。キックポ○モンはサワムラー。カナリアの普段着はしまむらーだ。


 だが、カカポも、そして店員もそうは取らなかった。通常、冒険者は自分の装備を最優先する。自分が死んでしまえば元も子も無い。だというのに、カナリアという少女は、自ら使役する精霊の方を最優先した。これはなかなか出来る事ではない。


 道具に頼らず戦っていける実力と自信、そして相手を気遣う心を合わせ持っていなければ出来ない芸当だ。長年この店で勤めている店員も、こんな冒険者を見るのは稀だった。


「分かりました。この子のメイド服はしっかりと作らせていただきますね」


 カナリアの言動に心打たれた店員は、通常より気合を入れてこの仕事に取り掛かる事を決意した。

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