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06*Assignment

Assignment――任務


▼C14H19NO2

 ザザ…とノイズが入る。

『C14H19NO2、メチルフェニデート。出動を要請します。すぐに治療室に向かうように。繰り返します、C14H19NO2、メチルフェニデート――』


「放送だね…」

 治療室、というのは先程私達がいたところだろう。

「…ああ、わかってる」

 談話室と治療室の距離はそれ程なので、割とすぐに向かえる。


 白いデバイスをかざして、扉を開ける。

「おっ、来たか!まあ作用機序バトルスタイルとかはそっちに音声で伝えるからなー!」

 ゲートの前のガラス張りの部屋には、患者が先程のように横たわっている。

「はい。――C14H19NO2、‬ダイブ・スタート」


 ふわりと身体が空中に浮く。下を見たら落ちてしまいそうだ。


「下を見ないほうがいいぞ!あえて背中から飛び込むくらいでな!」

 言われるがままに、重力に従って飛び込む。


 黒を基調としたジャージを纏う――ソラとよく似てはいるが、ラインやベルトはデバイスと同じ白。ブーツとショートパンツの間にはガーターベルトがあった。

 足を下に降ろすと、かつん、と音がなる。

 私の銀髪は、三つ編みを残して後ろで黒いリボンで一纏めにされていた。

 ――こういう姿になるのか。

「…行くぞ!」


 ***


▼C16H25NO2

 アセトアミノフェンとの任務明け、特進科の校舎に戻る。どうやら、新人が入って来たらしい。‬

 「失礼します」‬

 深緑のデバイスをかざす。私の後ろで、ナロキソンもストロベリーピンクのそれをかざしたようだ。‬


 「先生、新人ですか?」‬

 「そうだ。‬C14H19NO2、メチルフェニデート。人間換算で16歳、通称はリタリンまたはコンサータ」‬

 ガラス越しに見た新人は、黒の持ち手と白い刃の大剣を持っていた。‬

 「ああいうタイプなのねー、新人さん…って、私と同い年じゃん!」‬

 ――16歳…ということは私の一個上だな。それにしても…‬

 「…どこかエフェドリンさんと似てるな」‬

 「えっ、武器が同じだけじゃない?」‬

 そう、エフェドリンさんの武器も大剣だ。あの場合は刃の部分が明るい橙色だが。‬

 「確かにエフェドリンと同じだな。その前に、あいつもメチルフェニデートもアッパー系だ」‬

 「…そう、なんですか」‬

 「でもドール君だって、コークさんと武器一緒でしょ?」‬

 そういえば、と回想する。‬

 私もコークさんもダイナマイト状のものを使用している。私は深緑、コークさんは茜色。武器の色は闘衣とういのベルトやラインカラーもそうだが、基本的にはデバイスと‬同色だ。『デバイスの色=イメージカラー』だと思えば良いのだろう。

 それなら、あのメチルフェニデートさん、とかいう新人はイメージカラーが白なのだろうか。


『…こっちか!』

 メチルフェニデートさんは、次々浮かんでくる物質を斬っていく。


「…あれは」

「ああ、トランスポーターだな」

「それって、もしかして」

 ――それが本当なら、私の機序スタイルによく似ているのだろうか。


 私には主な2つの機序がある。

 1つはμオピオイド受容体の部分的なアゴニストとしての作用。

 もう1つはセロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用だ。


 セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質は、脳内に放出された後、余った分が細胞内に再び回収される。その輸送体のトランスポーターが働けば働くほど、神経伝達物質の量が少なくなる。

 トランスポーターを阻害することができれば、神経伝達物質の細胞内への取り込みを抑制できる――つまり、セロトニンやノルアドレナリンの量を増やすことができるのだ。

 このような薬をセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、略してSNRIと呼ぶが、メチルフェニデートさんの場合は同様に神経伝達物質であるドパミンの再取り込み阻害をするのだろう。


「戻っていい。お疲れ!」

『…はい』

 メチルフェニデートさんが、換装を解いて戻ってきた。


「お前は随分と冷静だなー。こいつと似てるんじゃねーか?」

「そうでしょうか」

 私達の方に目を向ける。

「あ、こいつらはオピオイド系だ。自己紹介できるな?」

「はーい!」

 まずナロキソンが名乗りを上げた。

「C19H21NO4、ナロキソン!16歳でしょ?同い年だねー」

「ああ、そうだな…」

 続けて私も名乗る。

「私はC16H25NO2、トラマドール。15歳なので一個下ですね」

「ナロキソンにトラマドールか…宜しくな。色々と教えてくれると嬉しく思う」

「おっけ!なんでも訊いてね。あっ、リタちゃんって呼んでいい?」

「ああ、勿論だ」

「…ナロキソン、そろそろ行った方が」

「そうだね!」

 デバイスをかざして、治療室を出た。


「リタちゃんってさ、ここ、もう慣れた?」

「…1日で慣れられるわけがあるか」

「ごめんね、そうだよね。うちの学校は学校内だったら割と何だってできるから、まあ好きに楽しんで行こ?」

「確かに学校を出さえしなければ割とフリーですから。あ、そろそろ時間じゃないですか?」

「…だな」

「あ、私達は麻薬棟なんだけど、リタちゃんは?」

「向精神薬棟だ」


 別れ際。

「…加油ジャーヨウ


「ジャー…ヨウ?」

 意味を知らないのか、戸惑っていた

「頑張れ、ってこと!それじゃあね!」

「…ああ」

 身を翻して戻っていくナロキソンに続いて、私も麻薬棟に戻った。

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