~安息の夜とハルト~
ふあ~、よく寝た。はい、ハルトです。
人間、緊張感が高まりすぎると逆に眠くなるようで・・・。
どこへ行くとも知れぬ馬車の中でたっぷり睡眠をとって、気分はとってもいい。
恥ずかしながらも美少女の背後で素っ裸になって犬猫が洗われるような桶で汗を流すというハプニングはおきましたが、カードゲーマー=クサイの常識の定着を回避できたのでよしとすることにした。
これが、最後の安息でないことを祈りたいのだが・・・。
とにもかくにも、どうやら馬車は目的地についたようで、僕はシエラによってたたき起こされた。
「着いたわよ。おきて」
こちらが例の残念系美少女シエラ。性格がこんなに歪んでいなければ、僕も楽しみな旅になるのですが、いかんせん、口を開くたびに罵詈雑言が飛んでくるので、ツラミ。
「早くして」
僕にそんなに体力があるとおおもいで?
ふざけんな!こっちはカードゲーマー5年以上の貧弱野郎だぞ!考えてから言え!
ん?そういえば、やけに肌寒いと思ったら、いきなり夜になってました。
っていうか、昼に騒ぎを起こして気絶→馬車→眠る→目的地到着。どうやら、眠っている間に目的地到着どころか夜になっていた。
基本的に夜型なので、お昼眠いのは仕様だと思うが、こうちょくちょくと眠ったり気絶していては、いつか本物の誘拐犯に連れさらわれそうだ。
とにかく、僕はいらだちを隠しきれていない、否、苛立っているシエラに続いて、馬車を降りた。
夜の街に煌々と灯る灯りは、街の様子を簡単に教えてくれた。
岩をスパっと切って作られたような家とも店ともいえないものが、大きな通路に面した場所に連なっている。コンクリートでもなければ、鉄筋でもない。なんだか不思議なところだ。
不自然に空いた穴は窓の役割をしているようで、きちんと薄いガラスが貼られている。穴から中を覗き込むと、酒屋のようであったり、小さな家族が眠っていたりと様々だ。
どうやら、明かりが消えているのが、家らしく、明かりが灯っているのが店らしい。といっても、時間が何時なのか分からないが、明かりがついている店はほとんどが酒屋のようだ。
そんな風に僕が店やら家やらをのぞきこんでいると、シエラがフードの首を掴んで引っ張ってきた。
「フラフラしない!いい!?カードの事は絶対に秘密にしなさいよ?誰がどんな目的で欲しがるか分かったものじゃないの」
ふむ。カードで強力な魔法が使えるのはわかってきたが、そんなに強力なものなのか?ちと、よくわからん。まあ、ここはシエラに従っておくのが得策だろう。
どうも、この残念系美少女、嘘をつくのが下手なので、大丈夫だろう。
まあ、こうして、僕はシエラの後に続いて、大通りを10分ほど歩いて大きな屋敷へと到着した。
まさか、押し込み強盗する気なんじゃ・・・。
という、僕の思惑とは裏腹に、シエラは鍵を取り出して、ドアを開けた。
なんだ、自分の家か。
なんとまあ随分と豪勢な邸宅だこと。
通りの半分以上を埋め尽くしていた岩でできた家に半分くらい譲ってやればいいのに。
僕のそんな思いなぞ知らず、シエラはまたしても僕の首根っこを掴んで、引きずっていく。
あの、僕は犬猫じゃないんで、首根っこをいちいち掴まなくてもついていくから。
とにもかくにも、シエラは自宅のありったけの財産らしきモノをかきあつめて、カバンに詰め込んでいる。
金銀、ネックレス、宝石、なんかよくわからんぬいぐるみとか。それらをカバンに詰め込む。
僕はひたすらに暇で、あちこちつついて回ったり、何故か日本語で書かれた書物を手に取ってみるも、意味不明な内容で、再び元の位置に戻してみたりと暇をもてあましていた。
まさか、この夜ですら安息がないとは思いもよらなかった。