~喋る大災害コミュ障とシエラ3~
「ありゃりゃ・・・」
凍らせておいたコーラがいい感じに溶けてきたので、ハルトに投げつけたのだが、これが間違いだった。
ハルトはコーラの入ったペットボトルを顔面でキャッチして、たおれてしまった。
まさか、ここまで運動できないなんて。
っていうか、魔術弾くくらいなんだから、物理攻撃も弾きなさいよ、カード!!
ハルトが異世界から持ち込んだカード、計50枚は未だ良くわからないまま、黒く煤けている。
しかも、内二枚は行方不明ときたもので、ぶっちゃけ困っている。
このカードはどうやら、所有者だけが触れる事が出来て、使うことができると言うこと。
どこまで、ハルトがこのカードの事を理解しているのかわからないけど、たぶんおおよそは解っている。
ハルトという人物は注意深く、それでいて尚大胆に、相手の心理を読み解く。
生まれてこの方、人間に嫌悪感を持った事はないのだが、私はどうにもハルトにだけは未知なものを感じて、嫌悪というより恐怖を感じている。
なのに、恐怖の大王は凍らせたコーラのペットボトルよりも弱いのだから、調子が狂ってしまう。
「はあ。どうやって、飲ませようかしら・・・」
とにかく、ハルトに水を飲んでもらわないと。
この南に位置する人間の国はとんでもなく暑い。
水分摂取は重要だ。毎年、何人もの人間が日照りや干ばつなどで、、水がなくなり熱中症などで命を落とす。
「水の中にいっそ落としちゃおうかな・・・」
手近な池などに放り込む事を考えたが、この運動音痴が池で溺れ死ぬ事の方が早い気がした。
どうしようかなー。あーもーめんどうだなー。魔術もはじかれちゃうから使えないし。
とにかく、隣の街につくまでには起きて、水を飲んでもらわないと本当に死んでしまう。
恐ろしい事にハルトが死んだ場合、このカードがどうなるのかわからない。
万が一にでも暴走してしまうと、世界壊滅の危機。
いやいや、そんな恐ろしい事になる前になんとかしなくては!!
「ちょっと、起きなさい!おきてー!!」
「うう・・・痛い・・・」
「よかった!もう、早く水飲みなさいよ!!」
私は無理矢理にペットボトルの口をハルトの口に突っ込んだ。
ハルトはバタバタもがいていたが、やがて、なにかを諦めたように水を飲み始めた。
はー、世話がやけるわ。
「クソ乙」
「何を落ち込んでるのか分からないけど、もっと分かりやすい方法で落ち込みなさいよ」
「りょ」
「とにかく、その、オツとかワロスとかやめなさいよ。イラつく。後、見透かしたような言動もやめて」
「りょ」
「略すのなし。理解したなら、理解したって言って」
「りょ」
「だー!もー!いい加減にして!」
「りょ」
「かいわ。あんた、会話できないの?」
「会話無理ゲー乙」
この歩く会話が無理で大災害を起こす生き物を引き連れて無害極まりな旅をしなくてはならないのだ。
己の使命というか運命に打ちひしがれた日は今日ほどない。
とにかく、となり町についたら、早急に色々と準備をして、旅を始めなければならない。
今日の事などすぐに噂になる。いずれ、足がつくのだ。
私があの広場を破壊した魔術を使ったと嘘の証言をして36年努めた宮廷魔術師をクビになったとしても、すぐに異世界人の仕業だとわかる人はでてくる。
人の口に戸は立てられない。いずれ、どの種族もハルトを狙って現れる。
それほどまでに、このカードとハルトの存在は危険なのだ。
本人はどこまで解っているのやら・・・。
水分補給を済ませたハルトはカラのペットボトルを握り閉めて、一人またブツブツと喋っている。
「ノーカン・・・ノーカン・・・」
何がノーカンなのか良くは分からないが、まあ水分も補給してくれたようだ。
隣町に着くまでには、まだ幾分かの時間がある。
とにかく、あのカードを人前で出さない事と、使わない事を約束させなければ・・・。
あんなモノを街中でバンバン打たれちゃたまったものじゃない。
私は再度、深い深いため息をついた。
そんな私の様子に、ハルトは一言。
「乙」
マジでこの性格なんとかならなかったの?
親の顔が見てみたいってものだわ。