~歩く大災害コミュ障~
熱風が渦巻き、灼熱の炎を撒き散らす。幾重にも連なる魔法陣が歯車のように噛み合い、魔術を行使するエネルギーを貯めていく。
「くるわよ!ハルト!」
猫耳フードの少女が深くフードを被った青年に向かって叫んだ。
「これで!」
青年は手元のカードを少女に投げつける。カードはまっすぐに少女の元へと滑走していく。
その瞬間、攻撃魔法の構成が弾かれたようにが霧散し、消えた。慌てて魔術師が再度、魔術を構築し直す。
「遅いわ♫」
構築し直す前に猫耳フードの少女はとっくに無言で魔術を構築し、魔術師を吹っ飛ばした。
その隣では紅蓮の髪を持つ、野獣の如きたける戦士が、双剣の刃を折られる。
青年は状況をすぐさま把握し、手元のカードを戦士へと託す。
「ハルト殿、御身の刃、また使わせていただきます!ドラゴニックチェンジ!」
紅蓮の戦士が叫ぶと、カードはたちまちのうちに2対の鉄扇へと姿を変え、戦士の力を絶対的なものにした。
しかし、そんな2人の連携プレイも敵の数が多くなり、じょじょに押されていく。
「ったく、キリがないわね」
「まったくですな」
紅蓮の戦士が年寄りくさく、同意する。
そんな2人に向かって、青年が面倒くさそうに言う。
「ごめん。どいて」
青年がカカトを三回鳴らした。三回目にガキンという音と共に鉄の杭が地面に打ち込まれる。
「ちょ、ハルト!?」
慌てた風に猫耳フードの少女が叫ぶ。
「面倒いし、そろそろ飽きた」
青年はチラリと少女と戦士に視線を向ける。見たくもないのに。
呆れたように青年は口を開いた。
「聞いてもいないこと、ベラベラ喋るし。お前達のハンド読めたから、もう聞く事ないし」
青年は一枚のカードを地面に置いて、叫んだ。
「我、竜の如き怒りたけるもの!目標設定、前方敵の殲滅」
その瞬間、瞬く間に赤く光る魔法陣がカードから浮き上がり、魔術を高速で組み立てていく。そして、赤い果実のようなものが魔法陣から出てきた時には一瞬の時間も無く、前方の敵、及び森がえぐられたようにスッキリと無くなっていた。
「森、歩きにくい。この方が楽。威力の加減十分」
「ちょっと!ハルト!こんのばかあああ!」
わめきだす少女の隣で紅蓮の戦士がクスクスと柔らかに苦笑いしながら、青年の後を追って歩く。
「確かに、この森はハルト殿には少し歩きにくかったやもしれませんな」