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5話

「初めまして。ジャルミン・チュアレの庭師をしております、ブランと申します。この度は誠に申し訳ありませんでした」

「私はケイ」

「僕はフミだ」

 庭師はブランと名乗った。庭師って名前があるんだと驚いていると、シンちゃんが補足してくれる。

「流石に番号で呼ぶわけにもいかないでしょ。ジョニー達とは立場も違うし」

「格好つけるな、色で呼んでいるよね?番号よりは名前みたいだけれど」

「そんなことよりも話を聞く為に来てもらったんだよね?」

 旦那さんからの突っ込みにブランの方を見る。聞きたいことが多いけれど何からいこうかな。やっぱりユウキの事からだろう、その次が魔物と歪みかな。

「色々と動いてしまっているので鉄拳制裁はしない、しても意味がないから時間の無駄だし。その代わりにユウキについてと歪みについて教えて、魔物の大量発生も。後はどんな事でも協力すること」

 ブランは真っ直ぐに私を見て頷くと話をする。


「ネクステン王国が勇者召喚という名前の儀式を行なって、世界を分けている壁に穴を開けた事が発端でした。そのままにしておくと他の世界と融合して、ブラックホール化する可能性があります。早急に穴を埋めようと現場に向かった所で、ユウキ・コウザカに会いました」

 ふむ。最初は人間が勝手に開けた穴を塞ぐ為に行動したと。黙って先を促す。

「私を見るなり満面の笑顔になって、神様キター!異世界キター!と叫んだのです。異分子だから元の世界に帰るよう説得をしたのです。けれど話が通じないばかりか、私が持っていた休憩時の飲み水を奪い取ってしまって…」

「なるほど。庭師には普通の飲み水でも、人間にはチートを与える魔法の水だったと。そんな効果があることを知っていた?」

 この問いかけにはブランのみならず、シンちゃんまでが首を横に振る。そんな状況になったことはなかったということか。事故でチートとは厄介な。

「そもそも水を奪われたのはどうして?それさえなければ問題にならなかったのに」

 旦那さんからの質問にブランが涙目になった。


「何を言っても聞いてくれなくて…丸一日掛けて説得を続けて喉が渇いてしまったのです。それで…」

 俺にも頂戴とか言ってあっという間に飲んだんだろうな。効果を知らないから止めなかっただろうし。

「僅かな量でしたがそれだけで色々な加護が付いてしまいました。私がシン様から許可を頂いている能力の劣化版とはいえ、普通の人間では手に入らない物です。本当に、申し訳ありませんでした」

 ブランに悪気がなかったのは分かったけれど責任がないわけじゃない。裏で働いてもらうことにしよう。

「わざとじゃないのは理解した。次の質問に答えて、歪みの正体は何?」

「こちらから見ると歪みとして認識されるのですか?監視用の『窓』なんですよ。あちこちに配置してあって世界の様子を見るのです。その中でも大きい物が見つかっているのでしょう」

 そういうことなのかと思った所で、ジョニーとマロがおやつを持ってきてくれる。ブランとは顔見知りのようでお互いに挨拶している。


 濃い抹茶と栗きんとんが美味しい。ブランが抹茶に感動しながら続きを教えてくれる。

「魔物が大量発生したのは私がやったことです。その国で危険な物が発見されて実験段階に至っていたので、この世界の為に潰しました」

「庭師として仕事をしたってことか、何が危険だったの?」

「核融合です。何を意味しているのかどうなっていくのかは、ケイ様とフミ様はご存知でしょう」

 旦那さんと一緒に微妙な表情になってしまう。ブランによれば研究者達は、危険な事をしているという自覚はなかったそうだ。

 使い方を間違えると世界が滅ぶし、制御も難しいというのに。失敗してからじゃ遅い代物なのにな。一部の貴族が秘密にやらせていたから、関係者と資料と設備を灰にしたらしい。

 そこだけだと不自然だからついでに盛大に暴れさせたと。


「残った魔物を戻す時に見られてしまったということかな?」

「その通りです。見られてしまうくらいなら、全滅するまで放置するべきでした」

 ユウキの事にしても歪みにしてもわざとではなかった。世界を維持する為に行動した結果が、悪い方へ転がってしまっただけ。

「どんな罰でも受けます。私は何をすれば良いのでしょうか」

 覚悟をした表情になるブランを見て思い付く。人間がそれを望むのだから、魔王を用意しようと。

「どんな事でもと言ったね?ブランを魔王に任命します!」

 宣言をした後の反応は様々だった。旦那さんは呆れているし、ジョニーは何かを考え込んでいる。ブランは呆気に取られていて、シンちゃんは大笑いしてマロは首を傾げている。

 いや、自分でも何を言っているんだと思ったよ他に方法があるかも知れないと思ったけれど、名前を売るのに使えるしお話のネタになると思っちゃったんだ。


「いいと思うよ?面白そうじゃないか、調整は大変そうだけれどね」

 最初にシンちゃんが賛成する。ジョニーとマロはそれに合せて賛成派に回る。旦那さんはやれやれという感じで賛成してくれた。

「魔王ね。世界中の人を納得させるのに向いている手段だと思うよ。でも人手が足りないとブランが苦労する。何か良い方法はないか?シン」

 仕方ないな嫁さんはという顔だけれど前向きに考えてくれる。それにしても人手か。私達はバン国王から勇者ご一行に組み込まれてしまった。

 これによって冗談で話していた、自分達が魔王説は使えなくなった。更に言うなら魔王の配下が、暴れるだけの魔物ばかりでは格好が付かない。

 どこから人材を持ってこようか考えていると、シンちゃんが髪の毛を五本抜いていた。

「何をやってんの?」

「庭師を増やそうかと思ってさ。僕の髪から生み出しているんだ」

 そうだったのかとブランを見れば頷かれる。あっという間に五人の庭師が誕生する。そこから一悶着あったけれど、勇者追い出し作戦の打ち合せが始まった。


 十日間は長いようで短い。出来ている分の原稿を編集に渡して、旅先からキメラで送ると話す。そのキメラも届いてすぐに飼い主登録をする。

 切れ味の鈍った武器を纏めて調整に出して、前日に家に届けてもらうように無理なお願いをする。本数が多いからちょっとだけ上乗せ料金を払った。

 他国のギルドで手続きがスムーズにいくように、アンガスに手助けをお願いしたり。ミアちゃんを撫でたり。

 細々とした雑貨を買いに出掛けたり、お小遣い稼ぎで魔物討伐をしたり。昼間はそんな事をして、夜になると庭師達と打ち合せを重ねていく。

 どれだけ時間があっても足りない気がする。


「ぎにゃあああ!無理、ムリ、むりいいい!肋骨が折れるう!」

「大丈夫ですよ。そう言って折れた方はいませんよ。はい、息を吐いてー!」

「吐くだけの空気が残ってないいい!」

「喋る余裕があるなら平気ですね」

 どうしてこんな拷問に遭っているのか。満足に呼吸が出来なくて酸素不足の頭で思い出してみる。確か今日はパレード前日だ。

 夕方から王城で夜会を開くから、参加するようにとオリバーさんから連絡がきたのはお昼頃。招かれているのは貴族が中心になるから、ジョニーとマロが参加出来ないと聞いて断りかけた。

 シンちゃんが行きたいと言うので、仕方なく迎えの馬車に乗ったのは覚えている。夜会用のドレスなんて持っていないと伝えると、用意してくれるとのこと。

 そして到着した途端にメイドさん達に囲まれて風呂場に連行された。何事かと驚いている間にサイズを測られて洗われてしまう。

 広くて豪華なお風呂に気を取られていたら、違う部屋に連れ込まれて今に至る。


「こ、こんなにコルセットが苦しい物だとは。貴族の娘にならなくて良かった」

「折角良い素材なのですよ?胸は大きく腰は細ければ細い程、殿方が喜ぶのですよ。夜会では目立たねば結婚相手が見つかりませんからね、どのお嬢様も必死です。ケイ様も頑張って下さい」

 きっとこのメイドさんは知らないんだよな。旦那さんがいることを教えたら謝られた。 深い青のドレスを着たら髪を弄られる。

 黒い髪は非常に珍しいようで五人のメイドさんに好きなようにされた。髪のセットに時間がかかってしまい、夜会が始まっているとオリバーさんが呼びに来た。

 旦那さんとシンちゃんは既に広間にいるらしい。

「タイミングが合わなかったか。オリバーさん、エスコートをお願い出来ますか?」

「元から美しいと思っていたが、これはまた…フミ殿から奪い取ろうとする愚か者が出ないように祈ろう」

「ふふ、お世辞でも嬉しいですよ」

 オリバーさんに案内されて広間に向かう。沢山の人に紛れて旦那さんとシンちゃんが見えた。旦那さんは若いお嬢様達に囲まれていた。

 私のなんだから勝手に近寄るな。そんな事を思いつつシンちゃんを見ると、おば様達から可愛がられている。猫かぶりのマダムキラーめ。


 オリバーさんと一緒に旦那さんに近付いていくと、周囲の人達が左右に道をあけてくれる。

「綺麗だよ。ちょっと苦しそうに見えるけれどね」

「ありがとう。締めすぎは身体に負担だと思う。美味しそうな料理があるけれど、多分入らない」

 お嬢様達から恨めしい視線が向けられるが無視を決め込む。そんな事をやっていたら数人の貴族が近付いてきた。

「ケイ殿とフミ殿ですな?あちらで我々と話をしませんかな?」

 貴族から目配せをされて、オリバーさんは席を外してしまった。下手に断ってわだかまりが出来ても困る。あまり人がいない端の方に付いて行った。

 何を言われるのかと思っていたらユウキの事ばかり。メイドさんのみならずマリナ王女の茶会に誘われた、貴族の娘さんまで頂いているらしい。

「こう言ってしまうと傷つかれるかも知れませんが…皆様はその、被害に遭われたお嬢様方の?」

 親御さんだろうと聞いてみると揃って渋い顔になりつつも頷く。広間の奥に二段程高い場所があるが、そこに居るユウキに向けて恨みのこもった視線を向けている。

 マリナ王女が放そうとしないから新たな犠牲者は出ていないみたい。見ているとイラッとするのか私達に向き直る。


「女帝と言われるケイ殿に頼みがある」

 相手が位の高い貴族だと分かっていたけれど、何を言うのか分かっているから先回りさせてもらう。

「不慮の事故とかは受け付けておりません。陛下と話をしておりますので、どうかご理解下さい」

 一瞬言葉を詰まらせたけれど依頼をしてきた人物、ダッテン伯爵は何事もなかったように話をする。まとめ役みたいな人かな?

「陛下とは三日後に昼食の予定があったな。ふむふむ、そなた達にはパレード前に贈り物をしよう」

 他の貴族も同じ様な事を言っている。裏での打ち合せが面倒になりそうだと思っていたら、綺麗な蒼い髪をした青年が近付いてきた。

 お嬢様達が黄色い声を上げている。けれど次の瞬間に私に敵意を向けてきた。中にはハンカチを噛んでいる人もいる。


「噂に名高い女帝ですね?お話をする機会を与えて頂きたい」

 そう言うと私の手を取って軽くキスをする。旦那さんが少し不機嫌になったのが気配で分かるが、貴族達の反応が気になってしまった。

 誰だこいつ?全員がそんな顔をしている上に、挨拶すらしないのだから気になる。おかしいと思った時に、大きな声が聞こえた。

「ケイから離れろ!お前は何者だ、人間ではないだろう!」

 どうやって移動したのかまでは見えなかったが、青年が立っていた場所に向けてユウキが剣を突き立てていた。

 ユウキの動きが見えなかった理由は簡単で、私は青年が避ける際に抱き寄せられていたからだ。

「見ただけで分かるとは。お察しの通りで魔族ですよ、流石は勇者と言っておきましょうか?ケイ殿は連れて行こうと思っているのですが…今は止めておきましょうか。横から攻撃魔法を当てられそうですからね」


 魔族らしい青年が放してくれたので旦那さんに駆け寄る。胸に顔を埋めるようにして抱きつくと、少しだけ震えてしまった。

 そこまではほんの数秒だった。一人の少女が悲鳴をあげるのを皮切りに、騒ぎが広がっていく。ククッと小さく笑った青年は、ユウキの剣を連続で躱すと窓際に移動する。

「興味があったので下見に来ましたが。予想よりも小物ですね…レベルを上げてから来る事ですね」

「逃げるな!待て!」

 ユウキが詰め寄るよりも早く青年の姿は消えてしまう。

「くそ、逃げ足の速い奴だ。二人共無事か?ケイ、泣いているじゃないか!怖かったんだよな」

「く、私は、大丈夫だ」

「僕も大丈夫だから、そんなに怒るなユウキ。魔法が間に合わなかったから、相手が引いてくれて助かった」

 騒ぎによって夜会はそこで終了になってしまい、私達は王城に泊まる事になった。連絡しなかったけれど、ジョニーなら察してくれると思う。


「危なかったね。嫁さん爆笑していたよね?声殺して肩振るわせてさ。僕だって笑いたかったんだよ」

「いや、もうおかしくてさ。ユウキの奴が面白すぎだね、何者だとか叫んじゃってさ。笑い過ぎで涙目になったら、怖くて泣いているのかって…あはははは」

 パレードは朝一から始まる。主役は遅刻厳禁なので泊まっていけと言われ、案内された部屋で旦那さんと笑い転げていた。

「近くにいれば良かったな。おばさん達の相手を続けたせいで、面白い瞬間を見逃しちゃったよ」

 シンちゃんが唇を尖らせてブツブツ言っている。その横には騒ぎを起こした蒼髪の青年が立っていた。

「大丈夫ですよ、シン様。明日もパレード中に勇者をからかう予定ですから」

「一人で来る?」

「いいえ、もう一人連れて来るつもりです。チープな演出ですが、そこで魔王と魔族軍の存在を出して挑発します」

「それなら面白そうな、中二病的なセリフが聞けそうだね」

 そう、蒼髪の青年は庭師の一人。アズールと名付けられていた。

「それでは準備がありますので、失礼します」

 アズール君は『窓』を通って帰って行く。私達の家で他の庭師達と打ち合せをするのだろう。明日のお披露目に誰が出て来るのか楽しみだ。


「昨夜は眠れたか?警備を強化するように言っておいたが。正直な所ショックが大きいな、王城への侵入を許してしまったとは」

 朝ご飯を食べながらオリバーさんと話をする。バン国王にもオリバーさんにも、庭師達の存在は伝えていない。

 完全にやらせだけれど、本物の魔族や魔王だと認識してもらう必要があるから。

「気配さえ感じる事が出来なかった。上位魔族の可能性があると思う」

「嫁さんの意見に賛成。プレッシャーに負けて魔法の発動が遅れた」

 大根にならないように注意しながらオリバーさんに返事を返す。

「二人がそう言うのなら気を引き締めていかないと、足下を掬われる事になるな。それはさておき。先程ジョニーとマロが荷物を詰め込んだ魔法の鞄を持ってきたぞ。着替えたらパレード開始だ」

 部屋に戻るとジョニーとマロがシンちゃんの世話を焼いていた。


 王城前の広場で騎士団の精鋭が馬に騎乗して、整列した三台の馬車を警護している。その内の一台に座っていたバン国王が立ち上がる。

「聞くが良い、国民達よ。魔物による被害が増える中で、魔王の復活が心配されるようになった。遠い国ではその予兆とも言うべき事件が起きておる。我が国もいつそのような事態に襲われるのか、不安に思っておるだろう。だが安心せよ。同盟国のネクステン王国が魔王と戦う為の勇者を召喚したのだ。ユウキ・コウザカという」

 風の魔法で増幅しているのか、かなり遠くまで声が届いているみたいだ。お?ユウキの奴が立ち上がったぞ。

「そしてユウキの要請に応えて、我が国最強と謳われる冒険者が集まったのだ」

 ここで私達も立ち上がる。手を振ってくる子供がいたので小さく振り返しておく。恥ずかしそうに母親にしがみついていた。

「女帝と呼ばれるケイの強さと、鉄壁の魔法使いフミの強力な呪文の数々は皆知っておろう。家族でありパーティの仲間であるシン、ジョニー、マロ。彼等もまた素晴らしい働きをするだろう」

 変な二つ名を付けられた旦那さんが可哀想。でも嫌そうな顔がちょっと可愛いとも思う。おまけみたいな扱いだったから、シンちゃんは面白くないだろうな。

「そして騎士団長のオリバーも共に行くのだ。必ずや魔王を討ち取って、世界に平和をもたらしてくれるだろう。世界を巡る旅へと向かう者達を盛大に送り出すのだ!」

 広場が拍手と歓声で埋め尽くされる。騎士団に守られながら町の大通りを回って戻ると、パレードが終了となると聞かされていた。


 見物人が多いからなのか馬車はゆっくりとしか進まない。お昼過ぎにやっと折り返しの商店街広場にさしかかる。

「あれ?ここで止まる予定だった?」

「そんな事は聞いていないよ」

 予定と違うなと思って旦那さんに確認してみる。広場にある円形の噴水を回って方向を変えるはずだった。

 周りの見物人から悲鳴があがる。何人かが空を指差すので視線を向けると、人が二人浮かんでいた。どちらも背中に黒い翼がある。

 片方は昨夜の夜会で騒ぎの元になった蒼髪の青年、アズール君だ。もう一人は女性に見える。馬車が止まった理由が分かったので武器を構える。

 誰かが魔族?と呟くと周囲に伝染してパニックになりかける。騎士団が落ち着くようにと話していた。

「火炎の粒子よ、フレアミスト!」

「空月一の型!」

 旦那さんが碧髪をした女性に仕掛けるのと同時に、私は大きく跳び上がりアズール君に斬りかかる。打ち合せ通りに。


「人間にしては威力のある魔法を使うのですね。でも妾には通用しませんわ」

「昨夜のドレス姿も美しかったのですが、今もなかなか良いですね。力の限り戦ってみたのですが、今日は使い走りなのですよ。残念ですがね」

 どこから出したのか分からない剣で受け止められ、一合打ち合っただけで勢いを消されてしまった。旦那さんの方も扇で防がれて、髪の毛一本さえも燃やす事が出来なかった。

 ユウキとオリバーさんが動こうとするのが見える。

「動かないで頂きたい。この場にいる者達が酷い目に遭いますよ?ちょっとした用事で来ただけですので、大人しくしていなさい」

「何でお前達の、魔族の言う事を聞かなければいけないんだ!降りてこい!」

 剣に柄に手を掛けたままでユウキが叫ぶが、アズール君は無視をするつもりみたいだ。碧髪の女性は、虫ケラでも見るような目で騒ぐユウキを見ている。

「ユウキ殿!民衆の命が掛かっているのだ、もう少し様子を見るのだ」

「く、仕方ないな。誰からの伝言だ!早く言え、蒼いの!」

 蒼いのって。名前を知らないから仕方ないと思うけれど、もうちょっと言い方があるんじゃないかな。

ちょっと俯いていたら旦那さんに脇腹を突かれた。

 はい、真面目?に参加します。視線を戻すとアズール君は青筋を浮かべていた。怒るよね。

「蒼いの?僕の事でしょうか。今すぐひねり潰したいのですが、我慢をしなければ…僕はアズールというのです、覚えておきなさい。さて、頼みますよ」

 アズール君は名乗ってから碧髪の女性に目を向ける。旦那さんの魔法を防いだ扇で、口元を隠したまま話すのかな。

「虫ケラの言葉に反応しないことよ、アズール。妾はヴェルデ、覚えなくても良いわ。弱き人間達よ。我らの主、魔王ブラン様からの言葉を聞きなさい」

 そう言うとヴェルデと名乗った女性は水晶を掲げる。低くて渋い声が聞こえる。


「愚かで弱き人間よ。大人しく震えていれば良いものを、勇者などという羽虫を召喚するとは生意気な。代償としてこれから様々な厄災が、世界を覆っていくだろう。我、ブランの名の下に集う闇の軍勢に、恐怖し平伏すが良い。許しを請う者には寛大な対応をしてやろう」

 音声はそこで終わった。誰からも言葉が出ない。噂だけだった魔王が実在していた事はかなりショックだったようだ。

「おやおや。どうしたのです?皆さん顔色が悪いですね。そんなに衝撃的でしたか」

「無駄ですが抵抗してみなさい。ブラン様の御前に立つには、妾達ガードナー・ファイブを乗り越える必要がありますけれどね」

 いかん、頑張って演技をしていたのに苦しくなってきた。ガードナー・ファイブって何ですか?聞いていないよ?

 庭師で五人だから?余計な事を考え始めた私の耳にユウキの声が聞こえた。

「お前達は幹部という事だな。今はまだそこまで強くないが、人々を助けながら修行をして強くなる。俺はユウキ・コウザカだ、魔王ブランを打ち倒す男だ!戻ってそう伝えろ!」

「人間の力を甘く見ないでもらおう!今日旅立つのはお前達の野望を打ち砕く、そういう力を秘めた者ばかりだ!」

 予想通りの反応だと分かっていても、ここまでお約束の展開を見せてくれるユウキに笑いがこみ上げてくる。オリバーさんも良い味出しています。

 シンちゃんも必死に笑いを堪えているようで、身体が小刻みに震えている。見物人には怖くて震えていると思われているだろうな。

「口だけは達者なようですね。ユウキ・コウザカ…覚えておきましょう。ヴェルデ、帰りますよ。それでは」

「次に見た時、忘れていても怒らないでね」


 用事が終わったので『窓』を作って消えていくアズール君とヴェルデさん。それを見送りながら考えていたのは、さっきの変な名前の事だった。

 夜の打ち合せで問い詰めてしまうだろうな、ガードナー・ファイブだもんな。

「嫁さん、仕上げが残っているから」

「おっと、うっかり忘れそうだった」

 周りに聞こえないように旦那さんから、小声で注意されて役割分担を思い出す。大きな声で見物人に向けて言う。

「魔族は強いかも知れない、魔王は想像さえ出来ない程かも。それでも強くなって皆を、人間の世界を守ってみせる!だから私達を応援して欲しいの!」

「魔王を倒す為に勇者はいるんだ!俺も頑張るから、諦めたりしないでくれよな!」

 乗ってくると思ったよ。私とユウキの言葉は騎士団の魔法使いによって、遠くまで届けられた。さっきまでよりも大きな歓声と拍手に送られてパレードは再開された。


 こうしてラブラブで楽しく都合の良い生活に戻る為の、自作自演の計画初日が過ぎていったのだった。これからも上手くいくように頑張ろう。

テストなのでここまでです。呼んで下さった皆様、ありがとうございました。

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