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4話

 王城の入口でオリバーさんと合流してから、謁見の間に案内してもらう。おお、あれがバン国王か。一年くらい住んでいるけれど初めて見た。

 隣にいる可愛らしい顔立ちの少女が問題のマリナ王女様かな?王家の家族構成なんて知らないから、間違っている可能性もあるよな。

「やっと来たか。ケイ、フミ。長く苦しい戦いになるだろうけれど、俺達が協力すれば越えられない壁なんてないぜ」

 後ろから脳天気な声が聞こえる。王城に滞在していたのかユウキの奴。今すぐ蹴り倒して踏みつけたい。

「嫁さん、ステイ。国家間の都合とかもあるだろうから、嫌だとは思うけれどステイだよ。今は、我慢して」

「酷くないですか?まるで大型犬扱いじゃないですか、嫁ですよ自分?でも、今はですか」

「そう、今はね」

「二人共。悪い笑顔になりかけているよ」

 この場では我慢して?十中八九避けられない旅の間に隙を見て…というのは止めないと言う事だな。実際にはやらないと思うけれどさ。

 表情についてシンちゃんに指摘されたので気を付ける。


 そんな事を小声で話しているとは知らないユウキが、いつものように馴れ馴れしく肩に手を置く。途端に前の方から冷気が吹き付けてくる。

 チラッと見ると王女様らしい少女が私を睨んでいる。マリナ王女確定だが困ったぞ?私はユウキの事なんて何とも思っていないのに。

「ゴホン!バン国王陛下の御前である、静かにお言葉を賜るように!」

 騎士団長の言葉で整列する騎士の皆さんが姿勢を直す。ガシャッと鎧の音が揃ったのを合図に、私も姿勢を整える。ユウキも大人しくなった。

 オリバーさんありがとう。殴り飛ばすわけにいかないから困っていたんだ。私の中でオリバーさんの株が上がる。

「噂に名高い夫婦冒険者、ケイとフミだな。急な呼び出しに応じてくれた事に、感謝しておる。儂がこの国を治める、バン・モント・ルー十六世だ」

 軽くしか朝ご飯食べなかったから、何だかお腹空いた気がするな。夜ご飯はカレーにしてもらおう。


 食欲を刺激するような名前のバン国王によれば、世界各地で魔物による被害が増えているとのこと。凶暴化したり、大型化したりで討伐も難しくなっているそうだ。

 その内の一割くらいは富と名声の為に、私と旦那さんで仕込んだから知っている。残りの九割は自然発生か。普通に生きている人から見たら怖いだろうな。

「隣国のネクステン王国は有事の際に協力をする同盟国なのだが。世界に迫った危機を何とかする為、技術と知識を総動員して勇者召喚を完成させたそうだ。既に見知っていると思うが、彼がユウキ・コウザカだ」

 嫌って程知っていますよ。それにしても余計なことをしたのはネクステン王国か、心のメモにしっかりと書き込んでおこう。

 しかし何がそんなに怖いのかね。ちょっと強い魔物ぐらいなら沢山いる、世界の危機って言う程じゃないと思う。

 騎士団くらいはどの国でもあるだろうし、冒険者ギルドは世界共通の組織だったはず。連携して討伐していけば、問題はないと思うのに。


「恐れながら、質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

手を上げたのは旦那さん。王様との話には私と旦那さんが対応すると決めてあった。シンちゃんだと中身はともかく、見た目で問題になるので。

「申してみよ」

「ギルドと各国の騎士団が協力をするならば、魔物が多少手強くなった所で脅威とは思えません。勇者召喚を行なう程の事態とは何でしょうか」

 こういう場面は旦那さんに任せておけば問題ないね。聞きたかったことを聞いてくれる。

「ネクステン王国からの書状には、海を渡った先にある国で魔物達の大量発生が起きたとある。近隣国から兵を出して押さえ込んだが、一部の魔物が空に出来た歪みへと逃げるのが目撃された。気になって調べてみたら、ネクステン王国の領内にも同じ様な歪みがあったそうだ。同じ事が起こるのではないか、召喚の理由としては正当だと言える。そして…オリバーに命じて調べさせると我が国内にも確認出来た」

「大量発生に備えるのと同時に自然現象かを調べると。それとも裏で糸を引く存在がいるのか、もしいるならば可能であれば討伐をする為なのですね」

 裏の存在なんていないけれど、バン国王は旦那さんの言葉に頷く。脅威への対抗手段であると言われた以上、私達も勇者なんて必要ないと言えない。

 この世界が神様の遊び場所だと知っているなんて、口が裂けても言えないからね。気に入らないから勇者チェンジ希望と送り返せないかな。


「私からも質問したいことがあります」

「今度はケイか。申してみよ」

「ありがとうございます。世界に起こっている異変を調べるとして、解決した後にユウキ殿は元の世界に帰られるのですよね?」

 あれ、何か微妙な顔になったな。まさか地雷を踏んだのか?

「ユウキ様はこの世界の為に戦って、その後はこの世界で更なる活躍をされるのですわ!」

 マリナ王女が笑顔で言い切ってくれる。お父さんの眉間に皺が寄っていますよ?気付いていますか王女様?

「マリナは黙っていなさい。オホン…ネクステン王国では帰還用の魔法は完成していないそうだ。同盟国と勇者殿からの要請があった、調査の旅をそなた達に命じる。オリバーを連れて行くことを許可しよう」

 やっぱりこうなるのか。それにしても色々省いて命令してきたな?目が泳いでいるのはどうしてかな。取り敢えず返事しよう。

「拝命致します。一日でも早く脅威のない(私達に都合の良い)世界が訪れる為に、努力を惜しみません」

「うむ、精進するがよい。支度金や装備品に関しては、この後でオリバーと打ち合せを行なうがよい。下がってよいぞ」


 バン国王に臣下の礼をしてオリバーさんの方を向く。ユウキも交えて打ち合せだなんて気分が重い。

「本日のお仕事は終了ですよね、ユウキ様。あちらでお茶等いかがですか?珍しいお菓子が手に入りましたの」

「いや、まだ打ち合せが…」

 チャンス到来!ナイスですよマリナ王女。頑張って爽やかな笑顔で応援する。

「ユウキ殿。後でオリバー殿から聞けば良いと思う。マリナ王女様の好意を無駄にするのは感心しない」

 椅子から立ち上がってユウキの隣に来たマリナ王女は、最初の時とは違う視線を向けてくる。貴女、意外に話せますわねと。

「最高級の紅茶を用意させました。さあ、参りましょう」

「本当ならば参加しないといけないのですが。ケイ、フミ。頼んだからな?」

 マリナ王女に手を引かれていくユウキに、笑顔で黙って手を振ってやった。バン国王はと見れば眉間を揉んでいた。お父さん大変ですね。


「さて。打ち合せをしようと言いたいが、アレがいなくて丁度良い。俺ではなく話を聞いてもらいたい人物がいる」

「公式な場じゃないと俺って言うんだ、ちょっと意外だな」

 別室に移動してお茶を頂く。オリバーさんにずっと堅苦しい話し方をされると思っていたから、気分的に楽になるのは歓迎だ。

「下流貴族の三男で騎士団も、これで下っ端からのし上がったからな。そろそろだな」

 壁際にいて腕を叩いてみせるオリバーさんの後ろで、ゴトリと音が聞こえて隠し扉が開く。何となく予感はあったけれど、現れたのはバン国王だ。

「驚かせてすまんな。気楽にしていれば良い」

「何の為にこちらへ?」

 お茶を飲みたいからなんて理由じゃないことだけは分かる。おおう、犬歯むき出しにして何て顔するんですか。

 国民には見せられない表情だったのも一瞬で、バン国王は真面目な顔になった。口から出た理由は真面目なのか疑わしいけれど。


「ケイとフミを渡り人と見込んで頼みがある。あいつを、ユウキ・コウザカを元の世界に帰すか、いっそ葬り去ってはくれないか」

 謁見の間で冒険中にユウキを、なんて話していた事は棚に上げてしまおう。国王直々に殺人依頼をされても困る。

 ユウキが気に入らないのは、痛い程理解出来るけれどどうしようかな。首を傾げる私にバン国王は違うことを思ったようだ。

「渡り人が分からんか。この世界とは異なる世界から流れ着く者達のことだ。中には素晴らしい知識や技術を持つ者がいて、国の要職に就いていることもあるらしい。幼い頃に能力に目覚めるようだが、大人の姿で現れた者は皆無だ。そなた達は特別な渡り人だろう?だからユウキを抹殺して欲しいのだ!」

「待って、落ち着いて下さい!渡り人でも何でも良いから変な依頼をしないで!」


「いいや、依頼する!奴はな?マリナの求婚を受け入れたのに、城の若いメイド達を食い散らかしておるのだ!手が付いていないメイドが一人もいないのだぞ?いくら勇者でも度を超しておるわ!」

 全員、だと?結構な人数居たよね?チラッと後ろを見ると控えていたメイドさんが、頬に手を当てて恥ずかしそうにしている!

「見たか、見たか?嘘ではないのだ!」

「ユウキが最低なのは分かりますが離れて下さい!鼻息荒くて怖いいい!」

 掴みかからんばかりに近寄られて、急いで旦那さんの後ろに逃げ込む。ギュッと抱き締めてもらって落ち着く。

 血走った目のバン国王は、オリバーさんが羽交い締めにして宥めていた。

「陛下、落ち着きましょう!そんな言い方では引かれてしまいます!」

 もう十分引いています。国外逃亡しなかった自分を殴りたい程度には。


 五分後に何とか落ち着いたバン国王と話をする。

「見苦しい物を見せて悪かった。抹殺は言い過ぎたな、不慮の事故は起こる物だとしておこう。儂はマリナが可愛いのだ、一生嫁に行かせたくない程可愛いのだ。王族であるから百歩譲って他国の王子ならば諦めも付く、だがユウキの毒牙に掛かる事だけは我慢ならん。無事に何事もなく魔王退治が終わってしまえば、マリナとの結婚を認めなくてはならん。断じて認めたくないのに、だ!」

「認めないと言ってしまえば良いじゃないですか。例え勇者でも貴族ではないとか言って」

「そんなことを言えばマリナに嫌われてしまうではないか。秘密裏に葬ってもらえば仕方ないだろうと、マリナを慰めることが出来る。そして儂の株が上がる」

 そんなに消えて欲しいですか、しかも嫌われないようにとは。ダメなお父さん節全開ですよ。さっきの話を聞くと理解出来るけれど。

 マリナ王女を過保護に育てて、周りから男性を遠ざけていましたね?その反動で夢見がちな考えなんじゃないかな?

 ユウキのダメな行動も英雄色を好む、正妻は黙認する器が必要とか。そんな風に考えている気がする。私から見ればただのサルなのに。


「だからと言って葬り去るのはちょっと…ねえ?旦那さん」

「仮にも勇者だから一筋縄ではいかないでしょう…頭脳以外は」

 そんな風に返事を濁しながらも内心でため息をつく。魔王はいません、品切れ中で入荷は未定です。そう言っても信じないだろうな。

 変な歪みについて心配しているみたいだし、本当に困った事態になってきたな。

「ユウキが手強いのは承知しておる。そなた達には裏であらゆる便宜を図ろう。魔王を倒すまでに送り返す方法を見つけてくれ。ネクステン王国が帰還魔法を開発するまで待てないのだ」

 もう自作自演で何とかするしかないのかなあ。方法はシンちゃんと相談するとして、裏で魔族が暗躍していましたという流れにでもするかな。

「私達がユウキを暗さ、ゲフン!不慮の事故は起こらないと思いますが、送り返す方法は探します。ちなみに確認なのですが、歪みの調査をしていたら大事になってしまっても良いですか?」

 バン国王もオリバーさんも首を傾げている。何を言い出すのだという顔だな。


「陛下のお考え通りで、私とフミとシンは渡り人です。私がいた世界の伝承では、そういった歪みは魔界に通じていると言われています。藪をつついて蛇を出す事になるかも知れません」

 ラノベの伝承ではそうなっています。説明する必要がないので黙っているけれどね。

「ケイの話を補足するのですが。調査の旅を進める途中で、国土や国民に被害が出る可能性があります。どの程度まで出ても許して頂けますか?」

 暫く考え込んで唸るバン国王。簡単には答えなんて出ないよねと思っていたけれど、あっさりと認めてしまう。

「国が滅ぶ程は避けなければいかんが、それ以外は仕方あるまい。連絡を小まめに取り合って、ギルドと騎士団で対応していけば良い。頼んだぞ」

 後に引けなくなった。何とか策を考えよう。


「これはパーティ内の仲間で、心話が出来るようになる特別なアイテムだ。予算の都合で一つ足りないが問題ないだろう。それから十日後には出立のパレードを行なうので、戦闘時の格好か礼服が必要になる。資金が足りないのであれば国庫から出るぞ」

 心話?パーティ内チャットみたいな物かな。

「資金や服は問題ありませんが、十日後ですか?それまでに準備が間に合うかな」

 帰る直前にオリバーさんから指輪をもらう。足りない分はユウキのだろうと思うが、予算の都合という点には突っ込まない。

「三つの宝石が付いているだろう?誰かが青い物を押すと、通話をしたいという合図になる。青が光っている時に緑を押せば心話に参加出来る、嫌な場合は赤を押せば良い。誰にとは言わんが、秘密の話にはうってつけだ」

 結構便利だな。二手に分かれて行動する時に役立ちそう。ユウキに隠れて話したい時に?本気で嫌がっていて総力を挙げて帰すつもりなんだね。


そして私の間に合うかなという言葉に、オリバーさんが反応する。

「そういえば二人は作家でもあったな。陛下に頼んで当日までに、小荷物運搬用のキメラを用意しておこう。キメラを使えば旅先からでも原稿を送れるだろう」

 何それ、ソワソワしちゃうんですが。小荷物用という事は肩乗りミニドラゴンとかかな?羽の生えた猫ちゃんでも良いな、夢が広がるな。

「き、希望は聞いてもらえるのかな。可愛い猫が第一希望で、第二希望は格好良いのが欲しい」

 欲望に染まった目をする私に旦那さんとオリバーさんは苦笑する。シンちゃんは自分でも創ろう、そんな事を考えているような顔だ。

「猫型はまだ開発されていないから竜形態の物になるだろう」

「むう、残念。何かあれば連絡してね」

 キメラの話をしている途中からマロが涙目だったので、抱き上げて帰ることにする。意思の疎通が出来るしお手伝いもしてくれる。

 マスコット的にはマロが一番可愛いよ。


 高速飛行の魔法で移動していたけれど、家の方に変な気配を感じたから直前で地面に降りた。マロを降ろしてゆっくりと歩きながら、魔法の鞄から武器を取り出す。

「防具を装備する暇があると良いな」

「結界でも張って時間稼ごうか?」

 戦闘態勢になる私と旦那さんに、シンちゃんがちょっと驚いた声で言う。

「あれ?予想以上に早いな。敵じゃないから安心してよ、二人共」

 スタスタと歩いていくシンちゃんを追いかけて家に近付く。玄関前には執事服姿で、反省中と書かれた鉢巻きをしたおじさんが正座していました。

「誰?旦那さん知っている?」

「知らんよ…いや、待てよ?なあ、シン。もしかして庭師か?」

 旦那さんの言葉に驚いておじさんを見つめていると、シンちゃんがそれを肯定する。

「そうだよ。会いたいって言ったよね、来るように言っておいたんだ」

「そうか、この人が庭師なのか。ユウキにチートを与えた人かー」

 棒読みになってしまった私の言葉に、庭師は心なしか青ざめて震えている。今日までの数週間を思い出す、と自然に拳を握り込んでいた。

「はいはい、落ち着こうね。ほーら、よしよし」

 旦那さんが後ろから抱き締めてくる。離れようと藻掻いていたけれど、頭を撫でられている内にどうでもよくなってきた。

 有耶無耶にしたいのは分かるけれど、旦那さんの大きな手で撫でられるのは嬉しいからな。誤魔化されておくとしよう。

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