表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3話

 こうやって思い出してみると突っ込みどころ満載だな。約束した日に転生をしてから既に一年くらいが過ぎている。

 旦那さんと私とシンちゃんは魔物に襲われた村の、生き残りの家族ということにしてある。大きなレンガ造りの家で暮らしているが、三か月くらいしか住んでいない。

「そういえばシンとジョニーはまだ町から戻っていないの?パンケーキ出来たらしいよ、こっちおいでマロ」

「もうそろそろだと思う。そこのバター取って、旦那さん。マロも一緒に食べようね」

「ありがとうございます。ケイ様、フミ様」

 私と旦那さんの名前については、転生前の名前の一部を使うことにしていた。いかにもな名前は抵抗があったから。

 思い出話をして三人でのんびりパンケーキを食べていた。そして入口の扉が勢いよく開かれる。


「大変だよケイ、フミ!もうすぐ徴税官が来る!こっそり追い越してきたんだ」

「ふぁん、どあと?」

「ケイ様。飲み込んでからお話しして下さいにゃ、シン様が真似をされますので」

 緊急事態を告げるシンちゃんに返事を返したら、ジョニーに注意されたのでコーヒーで流し込んでもう一回言う。

「なん、だと?」

「嫁さん。何で二回言ったの?」

「何となくお約束でしょ?」

 いつものように話してはいるけれど、私と旦那さんは席を立つと色々な物を魔法の鞄に放り込んでいく。

 ジョニーも荷物を置くとマロを連れて、他の部屋から色々持ってくる。シンちゃんは後で食べるつもりのパンケーキを食べている。

「こらあ!何してんだシン、それは私と旦那さんとマロのおやつだ!」

「美味しい!これも見つかるとやばい類でしょ?果物は魔改造品ばかりだし、砂糖は貴重で贅沢品だもんね。こんなに甘いパンケーキは王様だって食べていない。だから片付けているんだよ。僕のお腹にね」

「この邪神が。覚えていろよ?食い物の恨みは怖いんだからな」


 横取りされたことに文句は言うが、本当に時間がないと思うからそこまでにする。地球から持ち込んだ種や苗で育てた作物、道具類にその他贅沢品を集めた。

 急いで見て回って問題ないことを確認すると、冒険の道具一式が入ったダミーの魔法の鞄を壁に設置して一息つく。

「ケイ、まだダメだよ。美味しい香りが残っているから流さないと」

「え、嘘?そうか、シンとジョニーは外から帰ってきたから感じるんだ。もう疲れた、旦那さんよろしく」

 仕方ないなという顔で旦那さんが小さく手を動かす。家の中を風が抜けていくのを感じた、優しい旦那さんで助かる。

「これで消えたと思うよ?何かな嫁さん、そのニヤニヤが気になる」

「冒険中みたいに風よとか、技名をカタカナで言ったりしないの?」

「言わなくても発動するんだから必要ない。他の人がいる場合は言わないと不自然だからだよ」

 もっとからかいたいけれど本気で拗ねちゃうと困るし、ドアをたたく音が聞こえるからね。何をしに来るのか知らないけれど、徴税官なんて大嫌い。


「こちらは夫婦作家兼冒険者である、ケイ殿とフミ殿の家で間違いないですかな?この度新しく徴税官として着任したポンチョと申します。納税額が多く町への貢献度が高いということで、ご挨拶をと思いまして。今後ともガンガン稼いできっちり納税をお願いしますぞ」

「もちろんですわ、夫と共に頑張りますわ。どうぞ冷めない内に召し上がって?」

 一応はお客さんだから仕方なく薄いコーヒーを出す。日本で買い物中に飲んだコーヒーを気に入ったシンちゃんが、歴史を改ざんして存在したことにしたから問題ない。

「おお、流石は売れている大人気の作家夫妻ですな。自分の給金ではとてもとても」

「おほほ、クエストの報酬で手に入れたものですから。普通に買うことは出来ませんわ」

 真っ赤な嘘だけれどね。秘密の農場で獣人達が育ててくれたんだよね。市場の豆は質が悪いからな。あ、クエスト自体は本当だったりする。

 贅沢品が報酬というだけあって、難易度がそれなりに高かった。カモフラージュの為にクリアしているけれど。

 コーヒーを飲み終わった徴税官ポンチョは帰っていった。次見ても顔覚えていない自信がある。


「もう、わざわざ挨拶に来なくていいっての。ジョニー、パンケーキ焼いて?」

「分かりましたにゃ。マロは鞄から取り出した物を片付けるのですにゃ」

「はーい」

 所得を誤魔化しているだろう?家探しだ!って流れだと思ったから頑張って隠したのに。目立つ物や存在するはず無い物があるから結果は同じか。

 マロには後でおやつをあげよう。そんな事を考える横では、シンちゃんがパンケーキを待っていた。まだ食べるつもりなんだ。

「ケイ。町で仕入れてきた情報で妙なのがあるんだよ。魔物が強くなったから上級の冒険者達に依頼が殺到しているとか」

「一部は身に覚えがあるけれど、甚大な被害は出ていないでしょう?」

 そう。強くなった魔物の一部は私が配置しています。ギルドの討伐依頼を受けてお金稼ぐ為と、旦那さんと一緒に書いている小説のネタ用に。

 初級者が近寄らない場所に大型を少数だけ配置しているから、死人は出ていないはず。自作自演だけれど、それを私と旦那さんで狩りに行く。


 世界を巡る夫婦冒険者で物書きって注目されているから、狩りの話を書くとまあまあ良い収入になる。獲物は独り占めにならないように注意するよ?

「魔物を配置する事が問題じゃないよ。魔物が強くなったのは魔王が現れるからだって、倒さないといけないって噂になっていてさ」

「噂では他の国で魔王と戦う人物を召喚したらしいですにゃ」

 魔王なんて生まれるはずがない。世界そのものがそういう設定じゃないのに。町の人達も何を考えているのかな。

 下らないなと思ったけれど、ジョニーの言葉が引っかかる。ユウキの事を思い出した。

「そういえば聞きたい事があったんだよ?シンちゃん」

「な、何かなあ?ケイが優しく聞いてくる時は禄な事がないからな」

「まあまあ聞きたまえよ。少し前から勇者だって寝言を言う奴に、追いかけ回されているんだが。神様からチートをもらったらしいよ?シンの仕業かな?素直に認めるのなら罪が軽くなるよ」

 自分で創った世界だから面白そうだと召喚した可能性を聞く。盛大に首を振りつつ否定された。


「そんな事になっていたの?それは僕じゃないね。召喚は人間達が勝手にやった事だと思うけれど、チートについては少しだけ心当たりがあるかな。待って!無言で刃物とか怖いよ!聞いてからでも遅くないから!」

 シンちゃんが必死なので仕方なく手にした剣を壁に戻す。

「それで、心当たりって何さ」

「僕が気に入って長く存続させる世界には、庭師を派遣するんだ。面倒な管理を押し付けて、僕は眺めて楽しむだけなんだけれど。その庭師が色々な能力を与えた可能性はあると思う」

 シンちゃんが言う庭師は管理代行者の事で、怠け者のシンちゃんの代わりに、増え過ぎた人口を調整したり、科学が進み過ぎないようにする人物らしい。

「枝葉を剪定するように調整するから庭師か。どこに居る?ちょっとシバきに行くから教えて」

「僕やケイ達と違って死んじゃうから教えられない」

 ちょっとシバくだけなのに大袈裟な。ギリギリの手加減をするつもりなのに。どうやって聞き出そうか考えていると、ジョニーが私の前にカップを置く。


「ケイ様のお好きなダージリンですにゃ。庭師をシバき倒すのは簡単でしょうが、勇者殿を遠ざける事は出来ないでしょうにゃ」

「う、それはそうなんだけれど。仕方ないな。ジョニーがそう言うならシバかない方法で、落とし前をつけさせよう」

 私がそう言うとホッとした表情になるシンちゃん。

「シン、安心するのは早いぞ。僕達がどれだけ説明しても、ユウキは魔王が居ると信じ込んでいる。件の庭師が召喚時に何を話したかで、嫁さんの考えが変化すると思えよ」

 ギギッと音がしそうな動きで旦那さんを見るシンちゃん。笑顔が引きつっている。

「脅さないでよ…フミ。勝手に言った事まで僕の責任になるの?もう潔くハラキリでもしようかな」

「痛くも痒くもないだろう。意味がない事をしている暇があったら、今後について真剣に話し合うんだ」

 シンちゃんだけじゃなく私も首を傾げる。マロはつられて首を傾げてジョニーは思案顔だ。

「フミ様が考えているのはこういう事ですかにゃ。何をどれだけ言ったとしても、中二病の重症患者である勇者殿は、事実を受け入れないだろうと?我々も巻き込まれるから、心の準備をした方が良いという事ですかにゃ」

 ジョニーの言葉に肩を落とす私とシンちゃんを、旦那さんが追い詰めてくる。


「そのうち回避不能な状況で絡まれるだろうね。召喚した国の王様からこの国の王様経由で、ギルドに指名依頼が出るとかさ。そうなると何が考えられるか。シン、ジョニー、マロは僕達のパーティメンバーだから、どこにも居ない魔王退治に付き合わされる。当然だがその間は、地球から持ち込んだ食べ物はお預けだな」

 もう灰になりそう。ジャルミン・チュアレの物が不味いわけじゃないけれど、お気に入りが食べられないのは辛い。シンちゃんも同じ気持ちなのか顔色が悪い。

「魔王退治って言われても居ないのに、そんな存在。それとも用意しないとダメかな」

「本当に勇者が出て来たから用意しないとね。ケイのパンケーキも美味しかったけれど、ジョニーのも美味しいなあ」

 さっきまでの嫌な顔はどこにいったんだろう。シンちゃんはパンケーキを頬張っている。それにしても困ったな。

 気ままに冒険者をして遊びたいから、魔王や勇者は必要ない。そう考えていたけれど魔物が強いだけで、民衆の間に変な噂が広がるとは。

 これからもずっとユウキに絡まれ続けるのは嫌だ、何か対策を考えないと。

「転生という考え方がある世界だから。中には勇者を召喚しようとか考える王様も居ると、そう考えるべきだったね」


 旦那さんの言葉に、フォークを咥えたまま少し考える。そう言えば異世界ネタのお話は、ビックリする位売れていた。連載中のお話も異世界物だったな。

「どうやって勇者召喚とか完成させたのかな?」

「他の国に前世の記憶で内政チートの王様がいるらしいよね?知っている知識にはこんな物もありますとか言ってさ?自分に力がなくても周りと協力して、なんていう流れになった結果じゃない?」

 面倒だな。魔王がいないのに勇者だけ用意されても困るんだよな。何だろうか?シンちゃんの笑顔が気になる。

「どうするの?実はケイが魔王でしたとかやってみる?フミと僕が腹心の配下で、ジョニーは魔王軍の参謀とかさ」

「マロは可愛い側仕えか?やれば出来るけれど、その後がのんびり好きなように暮らせないよ。他の方法で対処して、ここでの生活は維持したいね」


 ある日気分よく町に出掛けたら、騎士団の偉い人からデートに誘われました。なんて素敵な日なのでしょう…そんなわけない!

 ゴブリン退治でユウキに乱入されてから二日後。また来るだろうと思っていたけれど、旦那さんの予測通りになってしまう。

 実入りの良い依頼がないかなとギルドに行ったら、ギルド長アンガスに肩を叩かれた。嫌な予感がしたからダッシュで逃げ出したけれど、回り込まれて土下座をされる。

「頼む!国を敵に回すのは嫌だ。俺の肩には酒場の姉ちゃん達とギルドへの責任が少し乗っているんだ!」

「酒場の姉ちゃんが先なのか!責任少しってダメだろう、他の奴を紹介しろ私は嫌だ!」

 ある意味男らしい言葉に怒鳴り返して脱走を試みる。私が加減しているからだろう、またしても回り込まれた。フットワーク軽いじゃないかおっさん。

 六十才になるのに現役高ランク冒険者だという噂は本当かも知れない。

「他の奴じゃあダメなんだ。レベルが高くて経験豊富という条件だけなら俺だっていける。国王からの勅命だ…諦めてくれ」

 アンガスの言葉を聞きながら床にナイフでユウキの絵を描く。顔の辺りをザクザクとやってから立ち上がる。

「ギルドとしての支援はあるのかな?」

「なるべく頑張ろうとしか言えん」

「そう…取り敢えず話を聞く。後、床は直しておいてね」


 ギルド長の部屋で厳ついおじさん二人と向き合う。一人は部屋の主でギルド長アンガス、もう一人が私を待っていた人物らしい。

「以前から噂は聞いている。貴女がケイ殿か?私は騎士団団長を務める、オリバーだ。今回ギルドに協力を頼む事になったのは…聞いているのかね?」

「ええ、聞いています。お気になさらず続けて下さい」

 オリバーさんはどうして渋い顔なんだろう。

「にゃあ…やっぱり仕事に戻ります。邪魔になってしまうと思うので」

「ミアが居てくれないと落ち着いて話を聞けない」

「にゃあ…オリバー様、続けて下さい」

 どう頑張っても断れない話なんてミアちゃんを撫でていないと、真面目に聞いていられない!アンガスとオリバーさんが、微妙な視線を向けてくるけれど無視する。

「ゴホン、アンガス殿から少し聞いたかと思うが、バン国王陛下からの勅命でケイ殿とフミ殿を王城へ招きたい」

「勅命であれば断れない、断った場合は重い罰が待っているのでしたね?」

「その通りだ。可能であれば明日の午後一番で謁見はどうだろう?都合が悪いのならばいつが良いのか、確認するように言われている」


 はて?勅命なのに私達の都合に合わせてくれるのかな?多少有名になったけれど一般人として過ごしているのに。一方的に呼びつけられると思っていたけれど?

「本当にこちらの都合で良いのですか。普通では考えられないですが?」

 オリバーさんがこめかみをグリグリ揉み始めた。ミアちゃんと一緒に首を傾げてしまう。

「アンガス殿、ミア嬢も黙っていて欲しいのだが。隣国が召喚した勇者殿が紹介状を持ってきた時に、マリナ王女様が一目惚れをしてしまって…結婚を申し込んでしまったのだ」

 ユウキがじゃなくて、王女様がだと?更に嫌な予感がしてくる。国外逃亡しようかな

「あの、もう一度言ってもらえますか?最近年のせいか耳が悪くなりまして」

「気持ちは分かるが現実逃避をしないでくれ。マリナ王女様が勇者殿に熱を上げているのだ」

 聞き間違いじゃなかった。王女様の気は確かなのか?それともユウキの奴が猫を被っているのか。オリバーさんから続きを聞かないと判断出来ないな。

「その事と勅命の関連が不明ですね」

「勇者殿がマリナ王女様の申し込みを受け入れた。ここまではまだ良かったんだ、勇者殿が他の娘に手をださなければ…」

「うにゃあ…最低だにゃあ」

「まだだよミア。まだ繋がらない」


 オリバーさんは出されたコーヒーを一気に飲んだ。あれじゃあ香りを楽しめないのに。まあ、そんな気分じゃないだろうけれど。

「当然だが陛下はお怒りになった。隣国へ戻るよう勇者殿に言ったのだがな?マリナ王女様が身分を捨てて一緒に行くと言い出して…」

「あ!洗濯物が干したままだったわ。大変、取り込まなきゃ。失礼しますね」

 逃げようとしたらオリバーさんとアンガスが足にしがみついてくる。

「頼むよ、ケイ。逃げないでくれ!ミア、お前も頼め」

「え?あ、お願いにゃあ」

「クッ、卑怯な!ミアを使うとは」

「お願いだケイ殿!ケイ殿達が最後の希望なのだ、この国を見捨てないでくれ!」

 何を大袈裟な。本気で振り払うと大怪我をさせるから大人しく座り直す。


「つ、続きを話しても良いだろうか?」

「どうぞ」

「溺愛しているマリナ王女様を引き留める為には、ケイ殿達にお願いするしかないのだと。詳しい事までは分からぬが陛下はそう言われたのだ」

「だから都合を合わせてくれるんですね。先延ばしにしても避けられないので、明日にしましょう。ちなみに、私達は五人のパーティなのですが?」

 急いで準備しないと間に合わないな。ジョニーとマロはダメかな?そんな事を考えながらオリバーさんを見つめる。

「大変な旅になるはずなので全員で来て欲しいと…明朝に迎えの馬車を用意…何だね?」

 話の途中だったけれど手を上げる。下手に馬車なんて用意されると面倒なんだよね。朝ご飯食べてのんびりしたいから、オリバーさんの話を遮る。

「自分達で移動した方が早いので必要ありません。待ち合わせをして、オリバー様に案内して頂ければ手間も省けます」

「賓客として迎えるように言われているから案内しよう。それから私の事は呼び捨てで構わない、協力感謝する」


「という事で明日はお城に行きます。ジョニー、マロ。全員の服を用意してね。そしてシン、庭師に会いたいと伝えて」

 ギルドから帰って手短に説明をすると皆がため息をついた。それでも準備の為に動いてくれる。

「仕方ないね。でもシバき倒すのはダメだからね」

「マロ、急ぎますにゃあ」

「はい!ジョニーさん」

 話し終わってグッタリとソファーに沈むと、旦那さんがコーヒーとチョコレートをくれる。

「お疲れ。予測よりも面倒な事になりそうだね」

「ありがとう。まあ、自業自得の部分もあるからね。話だけでも聞かないとね…面倒だけれど」

 話を聞くだけで終わらないのは分かっている。分かっているけれど認めたくないことが多いよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ