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1話

「旦那さん、残りは何匹かな」

「ざっと見て十匹。後列の六匹は引き受けるよ。凍てつく刃よ我が前の敵を貫け、アイススピア!」

 あっという間にゴブリンの数が減る。私も頑張らないとね。逃げ出そうとするゴブリンに近付いて二匹の首を飛ばす。

 むう、切り口が美しくない。切れ味の落ちた剣に内心で舌打ちしてから、叫び声をあげて背中を見せる二匹を斬り伏せる。

「劣化してきたね。研磨に出した方がいいね」

「スパッといく予定が断面ギザギザだよ。美しくないわあ」

 三十匹を超えるゴブリンの死体を集めながら旦那さんと話す。楽しくない作業だけれど依頼料をもらうには、依頼者に見てもらわないと。

 朝も早くから山間にある小さな村で村長さんに見守られて、畑を荒らすゴブリン討伐を完了させる。


「こんなに沢山居るとは思ってなかっただべ。有名な冒険者に来てもらえたのはラッキーだっただ」

「巣穴も焼き払っておきました。近くには一匹もいないから暫くは大丈夫だと思います。ギルドに出す書類にサインをもらえますか?」

 村長さんは依頼完了と書き込んでくれた。後はギルドカードと一緒にギルドへ提出して報告しないとね。集めた死体は疫病予防でまとめて燃やす。

 山火事にならないように監視をしている私の耳に子供の声が聞こえる。

「ケイ様、フミ様。いつもの人が来ました。逃げましょう!」

 嫌そうな顔でコボルトが走って来る。村長さんが驚いていたけれど、魔物ではなく私達の仲間だと説明する。

「気持ちは解るけれど焼却処分が終わってない。もう少し我慢してね、マロ」

 怯えてウルウルした瞳で見上げてくるマロを抱きしめた時に、現れなくていい人物が視界に入る。


 何かを叫びながら土煙をあげて近付いてくる。嫌だなあ…どうして来るのかなあ。旦那さんを見ると首を振りつつため息をつかれた。

「見つけたあああああ!今日こそは首を縦に振ってもらうよ。俺と一緒に魔王を倒して楽しい勇者ライフを満喫しよう!」

「またお前か、ユウキ!その話は断ったはずだ。他を当たれ」

 走って来たのは高そうな鎧を着た若い男、ユウキ・コウザカ。どこかの国が召喚した勇者らしいけれど、何を思ったのか魔王退治に誘ってきたのだ。

 何度も断っているのに、こいつは周りをうろちょろする。今回のように依頼先に押し掛けるわ、買い物中に話し掛けてきて五月蠅いわで困っている。

 仕事の邪魔になるし何よりも問題なのは、私と旦那さんの楽しいラブラブ異世界生活に支障が出ること。


 ユウキの自己紹介によると高校生最初の夏休みに海に出掛けて、波に飲み込まれると同時に召喚されたとか。そして王様から魔王退治を依頼されたとか。

 訓練をするまでもなく神様?からもらったチートで戦えるらしい。勝手に出掛けていけと言っているのに、仲間がいてこそ勇者の旅だと寝言を言う。

 ギルドで私と旦那さんの噂を聞いたのだろうと思うけれど、二週間程前からストーカーになっている。

「同じ日本人だろう?協力しよう。あれだけの高レベルな依頼を引き受けている君達なら、きっと活躍してくれると思っている」

 いつものように寝言を言いながら私の肩に腕を回す。嫌がる程ウブじゃないけれど、止めた方がいいと思うな。この後にユウキを襲うだろう不幸?について考える。

「気安く触るな、誰の嫁さんだと思っている?一昨日来るんだな、全てを凪払えウインドウェーブ!」

「え、ちょ、わああああ!ケイ、フミ!俺は諦めないからなあああああ!」


 上空に巻き上げられてから遠くに飛ばされるユウキ。

「何だべ今の兄ちゃんは。あれも仲間だべか?あんなに飛ばされて大丈夫だべか」

「無関係の変質者です。頑丈なので平気でしょう。関わると不幸になるので忘れて下さい」

 村長さんはユウキが飛んでいった方を見て、変なことを言うから全力で否定しておく。普通の人間にやると生命の危機だろう。

 色々チートだと自信たっぷりに言っていたから、大丈夫かな。どうせ三日後位にまた来るだろうな、あれ。

「我ながらきれいに飛ばせたな。しかし困ったね…」

「本当に困ったね…魔王なんていないのに。どうしてこうなったのかな?」

「あの人には極力会いたくないです」

 私と旦那さん、そしてマロは互いを見てため息をついた。


 邪魔が入ったけれど依頼は無事に完了。ギルドへ報告に向かうとお気に入りの職員が、冒険者に成り立て風の柄の悪い奴に絡まれている。

 ひと仕事終えた後だから構いたくないのが本音。でも私に気付いた受付嬢ミアちゃんが、助けてという目を向けてくる。

「仕方ないな…手のかかる娘さんだ」

「イラついているのと、あの娘が猫の獣人で頭触らせてくれるからでしょう?」

 旦那さんの鋭い突っ込みは無視させて頂く。私は頭の悪そうなガキなんて、見えていませんとばかりに歩く。

「手加減してあげなよ?」

 背中に投げられた旦那さんの呟きには、手をヒラヒラさせておく。書類と討伐証明データが記載されているギルドカードをカウンターに置く。


「ミア、手続きお願いね」

「お帰りなさい。依頼料の支払いですね」

 言葉にはしていないけれどミアちゃんの顔には、来てくれてありがとうお姉さま!と書いてあった。嫌な事を忘れる為に、助けたお代は身体で払ってもらう事にしよう。

 可愛いなあと思っていたら横から肩を押された。そう来るだろうとは思っていたけれど、テンプレ過ぎだよな。

「俺様が話していたのに割り込むんじゃねえよ。女だからって許してもらえると思うなよ?ああ?」

 あいつ命がいらないのか?とか、これだから素人はなどの言葉が聞こえてくる所までがお約束だ。

「居たの?気付かなかったなあ。私の目はイケメンしかロックオンしないから、見落としたのかもね」

 因みにそいつは普通の顔立ちだと思う。私がイケメン好きというのは嘘なので、おいたをしなければストライクゾーンに入る。


「何だと!これでも俺様は村じゃ一番モテたんだぞ?」

「君で一番だと?どんな山奥だ、いや山奥の人に失礼か。オークの村か?」

 計算だとここら辺でキレて、剣を抜くか殴りかかってくるかだな。ストレス解消の一環として、殴り倒したいので抜刀は止めて欲しい。

「冒険者だから女として扱わねえ!後悔しやがれ!」

 よしよし殴りかかってきた、分かっているねえ。体重は乗っていそうだけれど、遅いパンチをガシッと掴んでやる。

「え?何で止められるんだ?」

「き・み・が弱いからさ!嫌がる受付嬢に絡むのは感心しないよ?お姉さんが教育してあげよう」

 掴んだ拳ごと引き寄せるとガラ空きの腹に、ひねりを加えた一発を入れる。掴まれていないなら、吹き飛んでいるだろう。

「おい、あいつ足浮いたぞ?内臓平気か?」

「いや、まだ手加減している。何か嫌な事があって憂さ晴らしがしたいんだろう。女帝のお気に入りに手を出したのは運がなかったな。間の悪い新人だよ」

 ギャラリーから何やら聞こえたけれど気にしない。さてもう二、三発いこうかと見ると、泡を吹いて気絶していた。


 本当に弱かった。物凄く手加減したのに、まさか一発で沈むと思わなかった。手を放すと当然崩れ落ちるけれど、マロが支えて隅へ運んでいく。

 古参の冒険者が回復魔法をかけてから数分後。目を覚ましたそいつが見たのは、ミアちゃんの頭を撫でる私のデレ顔だった。

「よく見ておけよ?新人。ああ見えてこの国、いや世界一と噂される女帝があの娘だ。年は若いが夫婦揃って高ランクの冒険者だ。動物好きだから次からは注意しろ」

「何者ですか、あのバ、お姉さん」

 惜しいな。バケモノって言ったらもう一回気絶させてやるのに。

「うにゃあ、ケイさん?今、舌打ちしましたよね?それは置いといてご機嫌斜めですね」

 ピタリと手を止めた私に皆の視線が集まる。いくらマナーが悪かったとはいえ、新人に絡んだ理由が知りたいのだろう。

「今日の依頼中にさ?ユウキに絡まれたんだよね。というわけでもう少し撫でさせてね」

「またですか…仕方ないにゃあ」

 周りからは納得する声と新人への同情の呟きが聞こえた。


 依頼を終わらせてミアちゃんをモフッた昼下がり。旦那さんの為にパンケーキを焼く。廊下ではマロが掃除を頑張っている。

「大分慣れてきたけれどこの世界も悪くないね。また大物狩りにでも行く?今日は畑を荒らすゴブリンしか狩っていないし」

「新人も狩ったでしょう?まいいか、長期旅行も行きたいからな。そうだね、そうしようかな。お金も必要だけれど、そろそろネタも作らないといけないし」

 旦那さんと話をしているとモップ片手のマロが、こっちを見て目をキラキラさせている。

「どうしたの?」

「お二人がここに来た時の事を詳しく教えて下さい」

「話した事なかったかな。少しは知っているでしょう?それでも聞くの?」

「お願いします」

 追加で三人分のパンケーキを焼きながら、この世界ジャルミン・チュアレに来た経緯を思い出して話す。


 何だか呼吸が出来ない気がする。目を開ける事も困難だ…ああ、そうか、自分は死ぬのだな。

「嫁さん、だめだよ!一人で旅立つなんて。待ってくれ」

 誰かが体にすがりつく。毎日聞いていた声で、必死に呼び掛けてくれる。見えなくても知っている、長年連れ添った愛しい旦那さん。

 きっと泣いているのだろうな、置いていかないって約束、守れなくて本当にごめんね。先に逝くけれど待っているからさ、離れているのは少しの間だけだよ。

 ああ、考える事も出来なくなりそう…老衰だし旦那さんに出逢えて、とても幸せな人生でした。


 おかしいな。老衰で人生のグランドフィナーレを迎えたのに。何で私はこんな何もない場所を歩いているのかな?

「おーい誰かいないかな、答えてくれそうな人」

 私が歩いているのは、見渡す限りの雲の上。パジャマ姿だったはずが、デニムのシャツにGパンでスニーカー。若い頃に好きだった服装で。

 さっきまで病院にいたはずだ。心臓の鼓動が弱くなって、意識がなくなったところまでは覚えている。

そして目が覚めたら雲の上に寝転がっていた。

 ずっと寝ていようと思ったけれど、やることないから歩き始めたんだった。下がふかふかの雲だから感触面白い。

 疲れないから歩き続けても良いけど、天国なのか地獄なのか、はっきりして欲しいな。

「あ、何か見える!走ったら転ぶかな?いいや走っちゃえ」

 むう。門に見えるけど、いかにも地獄に続いています、といわんばかりなデザインはいかがなのか。まあ、清廉潔白なんて嘘でも言えんがな

 私がぼやいていたら、勝手に扉が開いた。入れっていう事だろうなと思う。でも入ったら確定だよな?

後から来る旦那さんと逢えなくなっちゃうよな?扉の前でうろうろして考え込む。


「あれ?足元が揺れている、地震?って下は雲やないかーい!うきゃあ!」

 雲が盛り上がってきて、一人ボケツッコミをしている間に、私は派手に転んだ。そして後ろで響く音。

ギイィ、バタン!

「あれ?バタン?…あー!扉が…地獄確定だあ…旦那さんに逢えない…嘘でしょう?」

 転んだ直後に後ろで扉が閉まった。あまりの事に、私は茫然自失になる。しばらく体育座りでいじけていたけれど、時間は巻き戻らない。


「このまま座り込んでいても意味ないし、諦めるか?閻魔様に文句の一つでも言うか?兎に角歩こう」

 私が立ち上がると、暗い廊下に明かりがついていく。ご丁寧に左右同時に奥に向かってだ。

「何の演出だよ…絶対文句言ってやる。地獄確定なら、一つ罪が増えたって一緒だ」

 ドスドスと歩いて行く途中の壁に鏡を見つけた。覗き込んだ私は、びっくりして叫んでしまう。

「うわ、若い!何歳の時だろう、これ?十代よりは髪が長いから、二十代初めかな」

 思わず鏡に映る自分を観察してしまう。寿命を迎えたのは確か九十八歳だった。

「もしや自分がなりたい年齢になれるのか?」


 そんなに長く見ていたつもりはなかったけれど、相手は待てない性格らしい。廊下全体が奥へと動き始めた。

「動く歩道ですか。楽だけど、せっかちだな」

 柱にしがみついて抵抗する事も考えた。多分、労力の無駄になるだろうと思うから、そのまま流される。

 結構進むと入口よりも更にごつい扉が見える。獲物を飲み込むように開いた扉に、私は送り込まれた。

「何これ。日本人の管轄は閻魔様が相場じゃないの?…それにしても趣味が悪いな、インテリアに統一性がない」

 同じように扉が閉まって後戻り出来ないから、ぶつぶつ言いながら歩く。天井が高い割には照明が少ないから、部屋全体が薄暗い。

 足元には高級感溢れる深紅の絨毯、その先に豪華な椅子があって誰かがふんぞり返っている。


「本当、趣味悪い。これで妙な事言い出したら…」

 小さく呟きながら歩くあたし私に、空気を読めないそいつは話し掛けてきた。

「よくぞここまで来たな、誉めてやろう」

 イケメンに見えるけれど年齢不詳、ちゃんと日光浴びていないだろう青白い肌。余りにもテンプレ過ぎる台詞。

 歩くのを止めて肩を落とす私。怒りがこみ上げてきた。何だこれは、こいつのせいで旦那さんに逢えないのか?

 私の気持ちに気付いた様子もなく、続く台詞を言おうとしている。私は小走りしながらハモってやる。

「我のものとなれ、そうすれば…」

「我のものとなれ、そうすれば…」

ガターン!

 派手な音を立ててそいつは椅子ごと後ろに倒れた。私が蹴り倒したからだけれどね。


 びっくりした顔でこっちを見上げる、推定魔王らしいそいつに言ってやる。

「ワンパターンだな。だが断る!半分じゃなくて全部寄越せ」

 愚かな。仕方ないと続けたかったのかもしれないけど、聞くつもりないから先に言ってしまおう。そして目をまん丸く開いて、口をぱくぱくしてから推定魔王は泣き出した。

「泣く位ならやらなきゃいいのに。それで用件は何?」

 直した椅子に座ってメソメソしている推定魔王に問い掛ける。多分だけれど本当の地獄じゃない気がする。

 早めに戻って今度こそ正しい裁きを受ける為に急がないと。時間がないから単刀直入に用件を聞く私に、何を勘違いしたのか笑顔になる推定魔王。

 ポーズをつけながら立ち上がると、パチンと指を鳴らした。薄暗かった部屋が明るくなって、内装まで別物になる。


 まるで建物丸ごと芸術品の、あの美術館みたいだな。そういえば頑張って貯金して、一度だけ旦那さんと一緒に行ったなあ。

 そう思った途端に我に返る、見とれている場合じゃなかった。推定魔王の方を見ると別人が立っている。

 柔らかそうな栗色の髪、にこにこ微笑む顔は可愛らしく、年齢は十数歳位かな。美少年というカテゴリーに入るだろう男の子がいた。

「僕のお城へ、ようこそ!記念すべき百万人目の転生者さん」

 テーマパークの来場者イベントは間に合っています。私は黙ったまま後ろを向いて、入口に向かって歩く。

 推定魔王改め謎少年が、何かを言いながら腰にしがみついてくる。

「ええい、離せ!下らない話に付き合う時間はない」

「待って、待ってよ!話くらい聞いて、お願いだよう!お茶も出すから!」


 余りにしつこいから、話だけ聞いてみる事にした。出された紅茶は香りも味も良かった。

「これ美味しい。それで少年は何者で、どんな用事があるの?」

「えへへ、ありがとう。良いお茶でしょう?実はね、僕は神様なんだ」

 ドヤ顔の謎少年はそうのたまった。思わず目つきが悪くなる私。

「おおう、何て冷たい視線。癖になりそうじゃないか!…嘘です、ごめんなさい」

「さっさと本題に入って欲しいんだけれどね。後、お代わり欲しい」

「今までの人達は神って名乗ったら感激したり、平伏したりしたのに…」

 謎少年はテーブルに、のの字を書いて拗ねている。そうしながらも空いている手で小さく指を鳴らすと、人影が近づいてくる。

 私は危うく叫びそうになった。だって執事服を着た二足歩行の猫さんが、新しい紅茶を用意してくれたからね。


 サイズは人間並だけど何あれ!ファンタジーだ!押し倒してもふりたい!だって生前は猫アレルギーで触れなかったし。

 大きな猫さんを見ながら、変な風に顔がにやけそうになるのを、何とか誤魔化して自称神様に聞いてみる。

「他人の事なんか知らない、私は無神論者だしね。転生とか言っていたけれど、説明してくれる?」

「現実主義だけれど不思議な事には抵抗はないの?」

 首を傾げながら聞いてくる自称神様。

「ああ、その事?私はどちらかと言えば、オタクに分類されるからね。まあ無理に理解しようとしなくて良いよ」

 何となく理解したのか考える事を止めたのか説明に入る自称神様。


「完全に暇つぶしなのだけれど、僕は沢山の世界を創って色々な生き物を創ったんだ。でもね、何というかこう、ね」

「見ていてもつまらないと?お菓子欲しいです、ジョニー」

 生きている間に飼うことが許されたなら、名前はジョニーにしたかった。つい口走っちゃって焦ったけれど、拒否はされない模様。

「ジョニー?自分のことでしょうかにゃ?少々お待ち下さいにゃ。そろそろ別の者が運んできますにゃ」

 にゃって言った!ジョニーがにゃって言った!旦那さんにも見せたいし、やっぱり押し倒したいよう。

「お姉さーん。戻ってきて、話聞いて下さーい」

「おう、すまんな。いかん、ヨダレが…」

 何故か自称神様が人選を間違えたかもしれない、そんな顔をしていた。ちょっとだけ猫さんに対する愛が、溢れまくっているだけなのに失礼な。


「それでね。指摘された通りで面白くないから新しく一つ創って、それぞれの世界で寿命を迎えた人達を転生させてみたんだ。一部の記憶を持ったままの人もいれば、真っ白な状態からの人もいたよ」

 上手く考えたなと思う。完全なチート状態でも、逆に真っ白でも結果は面白くないだろう。一部分だけ残すことで変化を楽しんでいるということか。

 極端なチートはいないみたいだけれど、同じ世界の人同士なら気付いちゃうかも知れないと思う。

「同じ世界から連れて来ると、知識でバレたり…一度に沢山は連れてこないの?例外は…ないこともないと。バランスを保つのが大変だと思うけれど、面白いだろうね。人口が増えていくと様々な分岐を見せてくれるだろうし」

「そうなんだ。時々戦争に発展しそうな場合もあるけれど、そこは強制的に疫病や強い魔物を放り込んで回避するんだ」


 人同士で争っている暇はなくなるから丁度良いのか、いや良いのか?その世界で暮らす人間にとっては脅威だよな?

「まあ極端に数が減れば、補充するために何かするよね。自分が創った世界だから、生かすも殺すもということかな?」

「まあね。他には技術が発展しすぎないように…色々やったりとかね」

 気軽に言うなあ、神様は神様でも邪神という線もあるか?そうなるとこのまま転生の手続きにサインはしたくないな。

 どんな罠があるのか不明だし、旦那さんと永久に再会できなくなる可能性すらあるし。元の世界に戻してもらうとか、何とか有利に話を運びたいな。

 おや何だろうか、子供?がワゴンを押してくる。


「お待たせしました。チョコレートムースにクッキー、オレンジのシフォンケーキです」

 はっきり言おう、お菓子なんてどうでも良いと。ワゴンから一生懸命、お菓子を移動させている子供が重要だ!

 グリーン系の服を着た二足歩行の柴犬が目の前にいる。しかも黒柴で麻呂眉が可愛い。よし、君の名前はマロに決定だ!内心で宣言する。

 気のせいか自称神様がさっきと同じ顔をしている、本当に失礼だな。猫さんだけではなく犬も好きなだけじゃないか。

 ワゴンを戻そうとするマロを捕まえて抱っこする。ジタバタしたり、どうすれば良いのか分からなくて、キョロキョロするのが可愛くて仕方ない。

「他にも仕事が…何でもありませんにゃ」

 ジョニーはそう言うとワゴンを部屋の隅に運んでいく。

「お姉さん、話を続けても良い?その子は食べちゃダメだからね」

「こんなにラブリーな子を食べるなんて。というかだな、どんな目で私を見ているんだ?」

 仕事をしなくても怒られないと分かったのか、マロが大人しくなった。自称神様は質問に対してちょっと視線を逸らす。


 地球の犬だとチョコレートは毒物になる。でもファンタジーの犬というか、多分コボルトじゃないかなと思うのでムースを与えてみる。

 マロは戸惑っていたけれど自称神様もジョニーも何も言わないから、そっと手を出してきて少し食べてくれた。可愛いな。

「細かいことはいいじゃない。続きなんだけれど最初は良かったんだ。でも、ずっと見ているのも飽きてきたんだよね。それでね、こっそりと入り込んで生活してみようかなって考えたんだ」

「そう、だったら実行あるのみじゃないか。私を元の世界の理に戻してから、頑張れ」

「ううう…どうしたらいいんだよう」

 何故テーブルにのの字を書き始めるのか理解に苦しむ。そこへジョニーが戻ってきて爆弾発言をした。

「僭越ながら…ご一緒に遊んで下さる方を探していらっしゃるのですにゃ」

「はい?何だって?」

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