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妖しノ夢物語  作者: 琴吹 リン
7/8

琥珀ノ夢


風鈴が鳴る。

店のドアが開かれる音がした。すると、風に乗って、一人の"妖"が姿を現す。


「待たせたなぁ、お客さ〜ん♪」


楽は店の奥から出てきた。頬は赤く、樽酒を手にぶら下げている姿はいつもと変わらないが、もう片方の手には 琥珀色に輝く夢玉があった。


「最高の夢を、用意したぜ〜」


ニィっと笑う。夢玉を持つ手を妖へと伸ばすと、妖の目の前で夢玉はスゥーっと消えた。

そして、その妖は目を閉じた。





高い空。

空は、綺麗なべっこうあめのような色をしていて、糸のような雲は一つ一つが綺麗なクリーム色で、繋がったり離れたりを繰り返す。

視線を少し下に移すと、白く輝く塩のような山があった。

その下を流れるのは、三色の川と、虹を作る巨大な滝。

滝から流れてくる酒は、綺麗な透明色だ。ザーザーと滝の力強い音と、流れ落ちる水の勢いで吹くほわわんとした甘苦い風が脳髄を刺激する。


三色の川はそのすぐ近くを流れる。

一番左は川底が見えないぐらい白く、少しどろっとしていて甘酸っぱい香りが時々風に乗って漂い

真ん中は薄い琥珀色をしており、鼻を刺激する涼しい香りが甘い香りと絡み合って絶妙のハーモニーを奏で

一番右は宝石のように、光に反射しキラキラと光り、視覚的にも刺激を与えてくる。

その周りに散らばる、無数の光る湖。


嗅覚からくる刺激と、視覚的刺激が混ざりあって、頭がクラクラした。



「あぁ…ああ!これこそ酒の楽園!私が探し求めてたワンダーランド!」


妖は、すぐ近くを流れる川に口をつけ、ぐびっと一口呑む。

夢だということを忘れるほどのリアルな味の感覚に、鼻を、脳を、つーんと刺激する香りが五感に伝って身体中に染み渡った。


川に一飛びすると、顔までを川の中に沈める。

見えてくるのは、綺麗な琥珀色に光るダイヤモンドのような眩しい世界。口をあけると、自然と入ってくる酒に逆らわずごくごくとそれを呑む。身体がフワリとした。

妖は夢中で酒を呑んだ。


「ぷはっ、はははは!うまい…うまい!」


川から顔をあげる。

ゴゴゴゴと川が鳴る音が聴こえた。

洪水だ。

先程まであった滝は消え、白く輝く山は綺麗に真っ二つに割れていた。洪水は瞬く間に三色の川を飲み込み、ざぶって音と共に妖は洪水に飲み込まれた。


自然と湧き上がってくる感情は


狂喜と、満悦。


どこまでも続く洪水の中で、妖は酒に酔い、世界に酔い、全身が酒と一体になったような気分に陥った。



妖は、何時間も夢の世界にその身を預けた。



***



「ふぅー、ははっ。仕事後の酒は更にうまいなぁ〜♪」

しかも、月見酒ってのは最高だぜ〜


楽は、寝息を立てて眠っているその妖の向かい側に座り酒を呑んでいた。

あたりはすっかり暗くなり、薄い三日月が夜空で怪しく輝く。


「仕事中は酒飲むなって言ってるだろ、ラク」

「あ〜?あ、コウ。いいじゃねぇかよ、もう仕事は終わったんだし、さっ♪ごく、ごく…ぷはーっ」

「お客さんが目覚めるまでが仕事だ」

「なにそれ、遠足ネタのパクリ?」

樽酒を揺らして言うと

「お前本当は酔ってねぇだろ」

皐は不機嫌そうに呟いた。

「酔ってねぇよ〜♪俺はいつだって〜」

そう言うと、また酒を飲んだ。


「酔っ払いは皆そう言うな。…はぁ、もういい。それより、まだ起きねぇのか?いつからだ?」


皐は額に手を当てると、向かい側で死んだように寝入っているその妖に目をやり、少し心配した口振りで言った。


「ん〜、八時間ぐらいまえだっけ?」

「長ぇな…。てかお前そんなに飲んでたのか!?」

「あぁ♪……ん?あれ、酒が…」

「没収だ」


樽を口に持っていこうとした所、皐はそれを取り上げ、立ち上がる。


「えぇ〜!コウのけちぃー」

「うるせぇ」




パチッ。

妖は目を開いた。そして、ゆっくりとその身体を起こす。未だに酔いが覚めないのか、ボーッと自分の手を見つめたままだ。


自分達の騒ぐ声で起こしてしまったのかと固まり、ひやひやしている皐をよそに、楽はよっこらしょっと掛け声をしながら立ち上がると、その妖に歩み寄った。


「やぁ、お客さん。目ぇ覚めたか?」

「……あ、あぁ…」

「まだ少し、酔いが残ってるみたいだな。そんなに美味かった?俺の夢は」


意識が朦朧とする妖に、楽は少し嬉しそうに

口元を歪めた。


「……あぁ、美味だった…。すごくね。すっかり時間を忘れて堪能してしまったよ」


酒気のまださめない赤色を目の縁に帯び、はははっと妖は笑う。


「もう少し、夢を見ててもよかったんだぜ?」

「いや、もう十分だ。ここに頼んでよかった…ありがとう」

「…あぁ」


特別すごい夢ではない。突拍子もない依頼ではなかったから、凝って作ってもいない…が、

お客さんに喜んでもらえるのが一番だ。


たとえそれが、一度しかない夢だったとしても。

「ここに頼んでよかった」

この言葉を放った時のその妖の表情には、どこか安らぎがあった。

これでもう思い残すことはない、というような、安心しきった顔。

そんな顔をさせることが出来ただけで嬉しかった。


髪が揺れた。

次の瞬間、その妖は消えていった_




とたんに静かになった。コオロギの羽根を擦る音が庭中に響き渡る。少し蒸し暑い空気をぐっと吸い、楽はどこかスッキリしない気持ちと一緒に空に吐き捨てた。


「……やっぱ今の方がいいと思うぞ」

「…?なにが?」

「…しばらく、禁酒しよっか」

「な…っ!」


楽は驚きをあらわに、空いた口が塞がらない。

酔いが覚めた楽は性格こそ変わるが、やはり、酒を好むというのは変わらないらしい。


何歩か店の中へと歩いていった皐は、体を半分こちらに向け、そして言う。


「…ふっ、なーんてな」


皐はいたずらが成功した子供のような顔をしていた。みんなの保護者的存在にあった皐は、この時だけはすこし幼く見えた。


「っ、なんだよ…」


ムスッとした。

怒る、というよりかは、成り行きでからかわれたかのような感じで、騙された自分が恥ずかしくなってきただけだ…。


「…なら飲んでもいいよな…?」


不安げな声色に、皐はクスリとした。


酔いが覚めた大人で冷静なラクも、酒のことになると動じてしまう。


(やはり酒が好きなのは変わらないか…)


再度、心の中で呟いた。


この事は、真はまだ知らないのだろう。むしろ、知られたくないのが正直なところだ。


灯や百はいつものことだが、真だって本気でいたずらしようとしたら、灯達以上に本格的ないたずら(俺の腹痛の原因)を仕掛けてくるのだ。

この店の酒が根刮ぎ消えさる日なんて来なくていい…。

皐は切実にそんな事を願ってしまった。




「あ、そういえば。あれは何の夢だったんだ?」


皐が思い出したように聞いた。


依頼の内容は聞いていなかったんだ。

その問いに、楽は少しの間を置いてから口の端を少し上げると夜空に浮かぶ薄い三日月を眺め、そして、口を開いた。



あぁ…あれは……


琥珀の夢だよ_




暖かい風が吹き去っていった。


お酒のことあんまり知らないです…(白目)

調べまくりました…

今更ですけど、後悔してます(

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