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妖しノ夢物語  作者: 琴吹 リン
6/8

夢作リ

時刻は卯の刻。


「やぁ〜、シーン。久しぶりぃ〜」


楽は真の背後から現れると肩に腕を回し、へへっと笑った。

キツイほどの酒の匂いが伝わってきて、頭がくらくらする。


「…何が久しぶりだ、昨日も会っただろ」

「そうだっけ?はは」


(程よく酔ってるな…)

顔が赤い。もう片方の手には樽がぶら下がってあった。


(こんな朝っぱらから…こいつは…)

真はため息をついた。


「あぁー、そーいえばさぁ。昨日、お前可愛い子連れてたでしょー?なに、恋人?」


楽は、二人の間の距離が二センチもあるかないかって所まで顔を近づけて言った。ニヤニヤとした顔は、とてもだらしがない。


「違う。お客さんだ。飲みすぎだぞ、ラク」

「へぇ〜〜そう〜〜〜」

「聞く気ないだろ…」


こちらの言い分など端から聞く気がなかった、とでも言っているかのような適当な返事をした楽に真は再度、ため息をついた。

お騒がせの真も、楽相手だといつものようにはいかない。楽の相手するのは一苦労のようだ。

こうしてる間にも、楽は酒を飲み続けている。




「コウー、酒おかわりぃ〜」

「はいはい」


呼ばれて飛び出るなんとやら。

ふすまの向こうから皐は樽酒を両手に持って現れた。それを下に落とすと、ドンっという大きな音が畳から響いてくる。


「コウ、ラクに甘いぞ」

「………つまりは?」


一応、主旨を聞いてみた。


「俺にも優しくしろ」

「してるだろ」


やっぱりな…

何言ってんだといった顔で、皐は冷たくあしらうと両手を腰に当てた。


皐が一番甘やかしているのは真だ。

俺は家政婦じゃねぇぞ。と、文句は言ってるが、なんだかんだ言ってみんなの世話もやってくれる所が、皐のいい所だ。と、真は言う。


本人は、あまり嬉しくないようだが。


「それより、シン。今日も仕事あるんだろ」


皐は、洗濯物を畳みながら言った。


やっぱり家政婦じゃないか。

と真は小さく呟いた。

皐がこちらを睨んだ気がした。


「う、うん。あるが…、それはラクに任せようと思ってね」


誤魔化しに、お茶を一口飲む。


「ラクに?」


皐は洗濯物を畳む手を止め、確かめるように聞けば、真はコクっと頷いた。

そして、その楽に視線を向ける。楽は後ろに片手をついて、もう片方の手で樽を仰ぎ、酒を呑んでいた。


するとこちらの視線に気づいたのか、楽は樽を口から離し、こちらに瞳を向けた。


「なぁに〜?」


ふにゃりと笑う。


「……シン。任せて平気なのか?」

「言いたい事はわかる。でも平気だ。…多分」

「心配だなおい」


正直な感想だ。


「と、いうことだ、ラク。今日の仕事はラクに任せようと思うんだ」


ことっと茶を茶盆に乗せ、身体をラクに向ける。


「いいぜ〜♪」

「本当に大丈夫なのか…?」


皐は心細げに呟いた。


「だいじょうぶだいじょうぶ〜」

「うん、任せたぞ」


全くと言っていい程、大丈夫な感じがしない。

だが、せっかく楽が珍しくやる気(かどうかも疑わしいが)なのだから、ここは一つ、任せてみよう。


皐は畳み終わった洗濯物を抱え、立ち上がった。




トーン。と鹿おどしの心地よい音色を奏でる。


「で、仕事の内容だが」

「へーい」

「飲んだこともない酒をお腹いっぱいになるまべ飲みたい、とのことだ。お前にぴったりだろ?」

自分で買って飲んで欲しいけどね

「いいねぇ〜夢がでかくて。要するに、死ぬほどうまい酒を呑ませればいいんだな〜」


楽は、酒を一口仰ぎ、そして言った。


「本当に死なれたら困るけどな」

「はは〜、わーってるって♪」

「俺達だと、嗜み程度の酒しか知らない。ラクなら、珍しい酒の味も再現できるだろ?」

「おうー、できるぜぇ」


即答し、自信満々に引き受けてくれた楽に真は目を細め、微笑んだ。


「じゃあ任せたぞ」

「おう〜〜」


そしてまた、楽は酒を口へ運んだ。




夢売りの仕事は、基本、夢を見たい人に売ることだ。だが、その為には夢がないといけない。

夢を凝縮し、小さくしたものが、『夢玉』

これを与えると、それに凝縮された夢を見ることが出来るって仕組みだ。


夢玉の作り方は二パターンある。


まずは、他の人や妖から夢を買う方法。もちろん、それに値するナニかと引き換えにでないといけない。

人によっては容姿やら地位やらと、引き換えをするのに難しい条件を出すものもいる。

妖とて、万能ではないのだ。


もう一つの方法は、自分で夢玉を作ること。この方法は、前者と比べ比較的簡単なようにも思えるが、実際作ってみると難しい。

まず、夢の具体的な構図を明らかにしなければならない。

楽しい夢なら、どんな風に楽しいのか。

感動する夢なら、どんな風に感動を与えたいのか。

実に様々なパターンの夢を考えなくてはいけない。


色はどんななのか。味は。感触は。匂いは。場所は……。


全てを明確に再現してこその、夢。


作り方は、代々夢売リの人達にしか伝えられないから、他人が作る事はできない。いや、作り方を知っていても作れないのだ。かなりの妖力を必要とする上、夢作りの技術は一朝一夕では到底得ることが出来ないのだから。


相当、強い妖でないと作れない。




「さてと、作るか」


後から皐が追加で持ってきてくれた樽酒を軽く飲み干し、楽は誰もいなくなった部屋の縁側で呟いた。




***



呑んだこともない酒かぁ…。

とすると〜、珍しい酒を沢山いれた方が手っ取り早いな〜



楽は、ぺたぺたと裸足のまま廊下を歩く。

夢作り部屋の一歩手前まで歩いた所で、奥からガシャーンと何かが割れる音がした。

それに一瞬びくっとさせられるも、用がある部屋なのだからここで引き返すわけにもいかず、楽は仕方なく扉をゆっくりと開けた。


「あぁ~!…あーぁ…また失敗かぁ」


すると部屋の奥から、そう嘆く声が聞こえてきた。


「…よしっ、次いこう!つぎ!」


立ち直り早っ。

やる気を取り戻すため、己の頬をバンバンと叩く。


いつかはシンちゃん達みたいに綺麗な夢玉を…

付け足すようにぼそっと放たれたその言葉は、楽の耳には届くことはなく


「よぉ、ヒャク坊〜、修行中?」

という声によってかき消されてしまった。


「わぁっ!?ら、ラクちゃん!?う、うん…でもうまくいかなくて…あはは」


百は、机の上の、無造作に置かれている無数の夢玉の失敗作を横目で見ながら、ため息をつき、そして言った。


「ほぇ〜…こりゃまた沢山作ったなぁ」

「だけど、ぜんぜん形にならないよ…」


今の百に効果音をつけるなら、ショボーンが一番ぴったりだろう。


いつも元気で、ポジティブなヒャク坊がねぇ…


今の百からは、元気の欠片も見当たらない。


「どした〜ヒャク坊!この程度で音を上げるのかぁ?俺の時なんか皐直々の指導だったんだぜ?

形が悪い!つまんねぇ。なんざいっつも言われてたよ」


楽は、少し強引に百の肩に腕を回すと

はははと高笑いをしながら言った。


「あぁー…コウちゃんの指導は凄まじいもんね…」


わっ、とよろけそうになったのを堪えて、百は静かに言った。

それに対し、楽はこくこくっと相槌を打ち


「そーそー。こえーのなんの。何度クソメガネって言ったことか」

と言うと

「え!?コウちゃんに向かって?!」

百はぎょっと驚いた。

「いやいや〜、心の中で」

「な、なんだ……」


一瞬でも、楽が勇者だと思った。


コウちゃんの前でとか……考えたくもない…


百は、起こるであろう情景を想像し、顔を青くさせ身震いした。


「一日や二日で簡単に出来ることじゃない。ヒャク坊もよく知ってるだろ?」

「うん…」

「ちゃんと上達してるぜ〜」


そう言い、百の頭に手を載せた。そして、ぴゃんとはねた、柔らかな髪をくしゃりと撫でる。

「ほ、ほんと!?」

「がんばれがんばれ〜♪」


楽は返事の代わりに軽く笑う。そして、手を離すと部屋の更なる奥へと足を運びながら、後ろ手で手を振った。

すぐに楽の姿は見えなくなった。


「…あれ?ラクちゃん、酔い覚めた…?」

百は失敗した夢玉を手で触れながら言った。








さてさてェ…



どんな風に楽しませよっかな〜…。


正直……今回話書いたこと後悔してる((

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