賑やかなお茶会
屋敷に戻ると、私が眠っていた部屋に案内された。
「この部屋は君の私室として好きに使うといい。」
煌熙はそう言ってくれるが、この広い部屋で落ち着いて休むことができるのだろうか?と考えていると、常護が私に向かって微笑んだ。
「斎桜姫様、お疲れのようですね。もしよろしければ、お茶の用意でもいたしましょうか?」
「そうだな。少しお茶でも飲んで、ゆっくりするといい。すまないが、俺はこれで一旦失礼する。」
煌熙はそう言うと、私に背を向け、扉に向かう。煌熙は皇帝なのだから、いろいろすべきことがあるのだろう。数時間前に出会ったばかりではあるが、この世界では、私の知り合いはここにいる二人だけだ。私は急に煌熙と離れることが心細く感じ、咄嗟に引き止めていた。
「あの煌熙さん。煌熙さんも一緒にお茶しませんか?」
煌熙は名を呼ばれると、ぱっと振り返り一瞬目を見張るが、すぐにもとの表情に戻った。
「ああ。構わない。」
「ではすぐに準備いたします。少々お待ちお待ちくださいね。」
そう言うと、常護はそそくさと準備のため部屋から出て行ってしまった。
私と煌熙は部屋の中央にある椅子に腰かける。私はふと先程の煌熙の表情が気になった。
「あの…皇帝をお茶に誘うのは失礼にあたるのでしょうか?」
私は自分なりに考え、思い当たることを聞いてみる。
「いや?何故そう思う?」
煌熙が首を傾け、逆に問い掛けられた。
「お茶に誘ったとき、一瞬驚いたような顔をしたから、どうしてだろうと思って。」
素直に話すと、煌熙は納得したようだ。
「俺のことを名前で呼ぶ者は少ないのだ。臣下は俺を王や君主と呼ぶし、民とは直接会話をすることはほぼない。特に女性で私のことを名前で呼ぶ者はいない。だから少し驚いたんだ。」
彼は遠い目をすると、何かを思い出したように優しく微笑み、寂しそうな顔をする。彼は皇帝だ。そう簡単に声をかけるのも、名前を呼ぶのも控えたほうがよかったのかもしれない。私はそう考え、頭を下げた。
「すみません。次からは気をつけます。」
「いや。名前で呼んでくれて構わない。」
「でも…いいのですか?」
「実は少し嬉しかったのだ。だからそう呼んでくれ。」
少しはにかんだように微笑まれる。
「わかりました。では私のことも名前で呼んでください。」
父親と兄以外で異性に名前で呼ばれることはない。そんなに親しい異性はいないので、みんな苗字で呼ぶのだ。いきなり名前で呼んでくれと言うのはどうなのだろう、と言った後に恥ずかしくなり、俯いていると、意外にもあっさりと返事をされた。
「わかった。俺も君のことは愛優美と呼ばしてもらおう。」
名前で呼ばれ、少しどきどきしていると、一つ疑問が頭をよぎる。彼の母親からは名前で呼ばれないのだろうか。そんなことを考えていると、扉がノックされ、「失礼します」と声がかかり、常護が戻って来た。
常護が押しているワゴンにはティーポットと焼き菓子が置かれ、美味しそうな匂いがする。常護は手際よく机にお菓子とお茶の用意をしてくれた。
「どうぞ、お召し上がりください。」
美味しそうな匂いにワクワクしながらお茶を手に持ち、「いただきます。」と言ったときだった。
バンッと大きな音をたてて、勢いよく扉が開いた。音に驚き扉に目を向けると、とても綺麗な女性が目に涙を溜めながら立っていた。女性はそのまま部屋の中に入ると、私達の目の前で声をあげた。
「居た!やっと見つけた!煌熙くん助けて!!」
私はついじっとその女性を見つめる。ブロンドよりさらに白に近いサラサラな腰までの髪に宝石のように綺麗な緑色の瞳をしている。女性物の艶やかな和装は、着る者によっては間違いなく着物負けしそうなほどきらびやかであるが、それを見事に着こなし、彼女の美しさをより引き出している。
これほど綺麗な女性が目に涙を溜めている姿は女の私から見ても、切なくなり、守ってあげたくなてしまうほどだ。すると私の視線に気づいたのか、こちらに目を向けると、少しずつ顔が強ばってくる。
「えっと…お客様?どうしよう?しかもこんな格好で…し、失礼しました。」
みるみる青い顔になっていき、急いでこの場を立ち去ろうとする女性に煌熙が声をかける。
「待て。確かに客人ではあるが、これからここで共に生活をしていく者だ。お前にも紹介しなければと思っていた。だから少し落ち着け。」
「そうなんだ…?でみ初対面でこのような格好を…」
女性は私から目を背け、項垂れる。
「大丈夫ですよ。とても良くお似合いです。」
常護がにこやかに、話かける横で、何故だか煌熙が頭を抱えている。
「似合うわけないじゃないですか!こんな格好!常護もどうせ馬鹿にしてるんだ。煌熙く〜ん。」
女性は本格的に泣き出し、煌熙に抱きついた。煌熙は仕方ないという表情で抱き留めているが、二人とも美形であるので、とても絵になっている。彼女は煌熙の大切な人なのだろうか?普通に抱きつき、煌熙も抱き留めているのだから、相当深い関係なのだろう。そんなことを考えると、少し胸の奥がチクリと痛んだ気がした。
煌熙が彼女を落ち着かせようとしていると、また扉がバンッと開いた。
「こんなところにいやがったか!麗癒!探したぞ。」
荒々しく部屋に入って来た男性は、三十代半ばくらいだろうか?筋肉隆々で身長も見上げるほど高い。服装は煌熙や常護とは異なり、動きやすそうで、まるで戦闘向けのような出立ちだ。刈り上げられ赤みがかった髪、光の加減によっては金色にも見える茶色の瞳は彼を野性的に見せる。凄みのある顔立ちではあるが、精悍でかっこいい。呆気にとられ眺めていると、隣から悲痛な声があがった。
「ひぃ〜煌熙くん助けて〜。」
「麗癒落ち着け。剛毅も追いかけ回すのは止めろ。」
「そうですよ。お客様の前です。」
常護がにこやかに言うと、その場にいた全員の視線が私に向く。
「ちょうどいい。お前達に紹介しようと思っていた。彼女は愛優美、俺がずっと探していた斎桜姫だ。」
男性と女性が興味津々の顔で見つめてくる。
「へ〜このお嬢ちゃんがずっと探してた斎桜姫様か?」
「本当に見つかったんですね!昨日煌熙くんが女性を連れて帰ってきたって聞いてたけど。煌熙くんよかったね。」
私は二人の目を見つめ、姿勢を正す。
「桜木愛優美です。本当に私が斎桜姫であるのか、私もまだ納得できていません。でも、私にできることがあれば協力したいと思っています。これからお世話になります。よろしくお願いします。」
私が挨拶をすると、二人は顔を見合わせた後、ニッコリこちらに向かって笑った。
「えらく元気そうな嬢ちゃんだな。いきなり別の世界に連れて来られたんなら、えらく取り乱してるかとも思ったが…面白い。こちらこそよろしく頼むぜ。俺はこの国の警備の長を任されている剛毅だ。」
挨拶と共に私の頭に手をのせるると頭をガシガシと撫でられた。
「だ、駄目ですよ。剛毅。女性にそんな乱暴に触れては。麗癒と申します。よろしくお願いしますね、愛優美さん。」
麗癒はそう言うと、撫でられて乱れた髪を優しく治してくれた。
「この部屋は今日から愛優美が使うからな、先程のようにいきなり入るなよ。」
煌熙が釘を指すように二人に言うと、麗癒が侵害だとばかりに声をあげる。
「僕はいつも人の部屋に入るときは、確認してから入るよ。今日は剛毅から逃げるのに必死になっていたからだよ。」
僕?私は微かな違和感を覚えながら話を聞く。
「あれくらいならいいだろ。たかが着替えて酌してくれってだけじゃねえか。」
「着替えてって…しかも何でそれが女物なんだよ。」
麗癒が顔を赤くして訴えるが、剛毅は飄々としている。
「そのほうが、美人に酌してもらっているみたいでいいじゃねぇか。」
私の中でますます違和感が大きくなる。何故麗癒は女物の着物をいやがるのか?剛毅はああ言ったが麗癒は美人であるし、どんな服であっても、あれだけ美しければそれは変わらないのではないのだろうか?そんなことを考えていると、麗癒が叫んだ。
「僕は男だ!何で女物なんか着ないといけないんだ!」
「お、男?嘘…」
私はついびっくりして叫んでしまった。皆が目を見開き驚いている。麗癒にいたっては目を見開いたまま固まっている。
「確かに何も知らぬ人が見ると、麗癒様は中性的なお顔立ちですから、女性に見えるかも知れませんね。しかも今はそのような格好ですし。」
常護が少し震える声で話終える。明らかに何かを堪えているような話し方だ。確かに落ち着いて見てみると、身長は一般の女性より頭一つ分は高いし、肩幅もあり、がっしりしている。声も少し女性にしては低めである。どうしてその可能性に考えが至らなかったのか、そしてどれほど麗癒に失礼なことを言ってしまったのかと申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。
「す、すみません。あまりにも麗癒さんが美しかったもので。てっきり女性だと思ってしまって…」
麗癒の表情がさらに強ばっていく。私は焦るあまり、さらに傷口に塩を塗っていることにも気づかなかった。
「それに煌熙さんととてもお似合いで、お二人はお付き合いされてるのかと…」
これには煌熙も焦ったように言い返す。
「ち、違うからな!俺には断じてそちらの趣味はない。」
「ぼ、僕も違うよ!この服は無理やり剛毅に着させられただけだし、僕の好きになる人は女性だからね。」
二人は必死に私に言い募り、その奥では常護がこちらに背を向け肩を小刻みに揺らし、剛毅はお腹を抱えて盛大に笑っている。麗癒は剛毅の前に行くと、ポカポカと体を叩きだす。
「笑うな!剛毅がこんな服を無理やり着せたせいだぞ。」
「煌熙様と麗癒様は従兄弟同士で歳も近い、実際、仲良がよろしいですから余計にそのように見えたのかもしれませんね。」
常護はやっと笑いが止まったのか、目の端に涙を溜めつつこちらに向き直る。私は何故か煌熙と麗癒が恋人同士ではないということにホッとしている自分の気持ちに頭を傾げたつつも、二人に謝罪しなければと頭を下げた。
その後、お茶の途中であったことを思い出し、常護がお茶を入れ直してくれた。剛毅は俺は優雅に茶を啜るタイプじゃないからと出て行ったが、麗癒は一度部屋に戻って、男物の服を着て戻ってきた。
「でも本当に無事斎桜姫様が見つかってよかったね!愛優美ちゃんの世界に行く前にねちょっとトラブルが起こっちゃったんだよ。」
「トラブルですか?」
私が質問を投げ返すと、麗癒は難しい顔でうんうんと頷き語りだす。
「世界を渡るにはある特別な鉱石が必要なんだ。でもその鉱石は一度しか使えないから、一度渡ると、また新たな鉱石がないと渡れなくなってしまうんだ。しかもその鉱石はとても貴重な鉱石でね、なかなか見つからないうえに、さらにある一定の大きさがないと世界渡ることはできないんだ。渡る人間の数も限られてて、ほんの数人しか渡れないし、繋がっている時間もそう長くはないからね。」
「ではそう頻繁には世界を渡ることはできないんですね。」
私は少しがっかりする。もしかしたら家族に会いに帰ることができるのではないかと思っていたのだ。
「そうなんだよ。この国で残っているのはあと一つなんじゃないかな?」
「一つですか…」
私は朝のことを思い出していた。だから家族との挨拶ができなかったことを謝られ、力を発揮してからしか帰れないと言われたわけかと思い当たる。
「だからね皆凄く焦ったんだよ。」
麗癒が続きを話しだしたので、私は急いで自分の思考を切り替えた。
「煌熙くんと常護の二人で貴女の世界に行く予定だったんだ。道を開いて、さぁ行こう!とした時にね、どこからか穢れを纏った獣が現れて、二人より先に君の世界に飛び込んでしまってね。まぁ広くて、人がいない安全な場所がいいからって森のほうでしたのがいけなかったんだろうけどね。それでね、穢れを纏ってるうえに、あんな大きいのが通った後だからね。二人とも向こうに行けるかわからなかったんだ。」
「まぁ何とか二人とも行けたわけだが、予定とは違う位置に繋がるし、常護とは違う場所に繋がるし散々だったがな。」
煌熙は眉間に皺をよせ、渋い顔になる。
「まったくです。煌熙様を探し回ってやっと見つけると、遅いと怒られますし。もう少し思い遣りがほしいものです。」
常護は両手をあげ、やれやれと首を振る。
「思い遣りがなくて悪かったな。お前も主が怪我をしていれば、もう少し心配してもよさそうなものだがな。」
煌熙は常護を睨みながら、悪態をつく。
「あの時はね、どうなるかわからないから、皆煌熙くんを止めたんだ。それなのに煌熙くんは構わず行っちゃうし、常護も追いかけちゃうしで、こっちはすごい騒ぎだったんだよ。本当に心配したんだから。」
「でも無事だっただろ。あのまま諦めてたら斎桜姫に会えないどころか、あの獣まで逃がしてしまうとこだった。」
麗癒がやれやれと頭を振りながら話し終えると、煌熙がすかさず主張する。そんな二人を見ていると、つい可笑しくなり、笑ってしまった。
「何がおかしいんだ?」
煌熙と麗癒が不思議そうにこちらを見つめるので、私は慌てて頭を下げる。
「すみません。二人とも本当に仲がよろしいのですね。」
「いや。仲がいいと言うより、麗癒とは歳が近いから昔からよく遊び相手になっていたからな。」
煌熙が少し恥ずかしいそうに応えると、麗癒が悲しそうな表情で煌熙に訴える。目の端に涙をため、煌熙の襟を掴むとぐいぐい引っ張りだす。
「僕は煌熙くんのことは仲がいい友達と思っているよ。煌熙くんもそうでしょ?」
あまりの必死さに煌熙が引き気味でうんうんと首を振る。
「そ、そうだな俺達は友達だ。だから引っ張るな。」
「煌熙様よかったですね。」
「お前はいちいちうるさい。」
常護がにこにこしながら話しかけると、煌熙は常護を睨みつけ悪態をついた。そんな微笑ましいやり取りを見ているうちにあっという間に時間が過ぎていった。
「すまない。長い間邪魔した。もう少しで夕食の時間になるな。俺はそろそろ公務に戻らなければならないから、麗癒と共に夕食は食べてくれ。本来は俺も共に食べる予定だったのだが、すまないな。」
煌熙が申し訳なさそうに頭を下げるので、私は大きく首を振る。
「いえ、そんな、こちらこそ長い時間引き止めてすみませんでした。」
皇帝である煌熙はさぞ多くの仕事があるだろうに申し訳なくなってくる。
「そんなに気になさらずとも大丈夫ですよ。煌熙様の仕事に邪魔が入るのはいつものことですし、今日は良いリラックスになったでしょう。」
常護がそう言うと、煌熙が席を立った。
「そのとおりだ。では失礼する。愛優美、今日はゆっくり休んでくれ。」
煌熙が優しく私に微笑むと、麗癒が口を尖らせ、ふてくされて言う。
「なんか煌熙くん愛優美ちゃんだけに優しい。僕にはいつももっと厳しいのに。」
「お前と愛優美を一緒に考えるな。それに女性に優しく接するのは、当然だろ。」
煌熙はぴしゃりと言いはなつと、私に視線を戻し、「では。」と一言だけ残し、部屋を出て行った。常護も煌熙の後を着いていき、扉の前で一度止まり、振り返った。
「夕食の支度ができましたら侍女が呼びに参りますので、それまでこちらでお待ちください。麗癒様はどうされますか?」
「僕は夕食までもう少し愛優美ちゃんとお話しとこうかな?いいかな?」
麗癒が私の顔を伺うように見る。
「もちろん。」
私はニッコリ笑うと、力強く頷いた。麗癒はほっとしたように微笑むと、常護に視線を戻した。
「かしこまりました。ではそのように。」
常護は最後に一礼し、部屋を出た。二人が一気に減ると少し部屋がしんみりする。しかし、麗癒は先ほどまでと同じように明るく話しだす。一人では心細くなっていただろうと考え、麗癒に感謝しつつ、私達は侍女が呼びにくるまで、とりとめの無く話し続けた。
侍女がに呼ばれ、麗癒と共に夕食が準備された部屋へ移動し、扉をあけると、私は呆気にとられた。私の部屋と同じか、それ以上の大きさの部屋の中央には大きな長テーブルが置かれ、それには沢山の料理が置かれていた。
「あの、他の方も一緒に食べるのですか?」
煌熙の話から私と麗癒だけの食事と考えていたが、この部屋の広さと、料理の量を考えると、とても二人のためだけとは思えない。
「僕達二人だけだよ。だいたいこの部屋は皇帝用の食事の間だし、高官の人だってそうそう食事には来ないよ。」
麗癒は当然の如く、逆に私が言っていることが不思議だというように返す。
「でも、どう見ても二人で食べきれる量じゃありませんよ。」
私がそう言うと、麗癒はきょとんとした顔をし、笑いだした。
「愛優美ちゃんは面白いね。僕もこの量を二人で食べきろうとは思っていないよ。好きな物を好きなだけ食べればいいんだよ。食べれない分は残して大丈夫だから。」
そう言われ、それぞれ席に着いたが、これだけあればほとんどを残すことになるだろう。どれも美味しそうな物ばかりなのに勿体ない。私はできる限り沢山食べようと、決意を胸に必死で食べ進めた。
食事も終盤に差し掛かり、ラストスパートと必死にかきこんでいると、食事を終えた麗癒が話しかけてきた。
「愛優美ちゃんは明日は何か予定あるのかい?」
私は食事の手を止め、考える。私自身の予定はないし、煌熙や常護からも明日のことは特に聞かされていない。
「いいえ。特に何もありません。」
「そっか。なら、この屋敷を案内しようか?空からこの国を見たって聞いたけど、まだこの屋敷は案内できてないよね?」
ここでしばらく生活するなら、屋敷のことを知っておくことも必要かもしれないと、私はその提案をありがたく受け入れることにした。
「是非、お願いします。」
私が頭を下げると麗癒は嬉しそうに笑う。
「じゃあ明日は僕が屋敷を案内するね。特別に僕の仕事部屋にも案内するから、楽しみにしててね。」
「ありがとうございます。」
私はお礼を言うと、またラストスパートに向けて食事に専念する。
「愛優美ちゃんは沢山食べるんだね。大丈夫?無理してない?」
「大丈夫です。せっかくどれも美味しいのに勿体ないですから。うっ…」
「あ、愛優美ちゃん顔が青いよ。やっぱり無理してたんだね。もう止めておこう。」
遂に胃が耐えられず、青くなる私に麗癒は水を渡し、背中を擦ってくれた。私がそれだけ必死に食べたにも関わらず、机の上には沢山の料理が残されていた。
食事を終え、麗癒と別れた後にお風呂を借り、部屋に戻ると一息ついた。さすがに食べ過ぎて、まだお腹が苦しい。寝具の横の窓際へ移動し、空を見上げる。今日はいろいろな事があった。異世界に連れて来られたことを知り、鴎に乗って空からこの国を見て、お茶会をした。いろいろな事があったが、皆親切で優しい。
「心配してるよね…」
ふと、家族のことを思い出し、寂しくなる。早く帰りたいし、心細い。でも煌熙や麗癒達のことを思い出すと、少し心がほっとする。家族や友達と会えないのは心細いが、あの人達がいれば頑張れる気がする。
「明日は麗癒さんが屋敷を案内してくれるし、早く寝なくちゃ。」
私は頭を振って、気持ちを切り替えるとベットに横になった。思った以上に体は疲れていたのだろう。すぐに睡魔がやってきて、あっという間に意識は途切れた。