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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

箱庭シリーズ

我楽多の箱庭

作者: あにゃん

ファンタジーって素敵な言葉だと思います

重厚な扉に佇む子供の姿。


「教えて。箱庭の事」


そっと扉が開く。


「おいで」



過去の箱庭に光が灯される。


「どーしてここにいるの?」

「とても危険な存在だから」

「何の事?」


静かに微笑むその者はぽつりぽつりと記憶の扉を開ける。





「・・・我楽多の中の宝物は一際輝いていた。


そして美しい人形たちの中でも輝いていた人形(・・)があった。


ある島国、島国であるが故に諸外国とは違う独自の閉鎖された国。


箱庭の主は見つけてしまった。




大切な何かを守り汗に泥に血に塗れた真っ直ぐな存在がとても美しく思えて・・・


手を差し伸べてしまった。




その危うい均衡を崩しかねない愚かな行為。



あれは消滅してしまう運命だった。






『・・って、なんて弱いんだ。僕は力が欲しいぃぃぃい!!』


動けない、声も出ないはずのどす黒くなった塊が此方に叫んだんだ。


愚かにも箱庭の主は目が合った事に胸が高鳴った。


見えるはずもない目が、出るはずのない声が、動けるはずのない体が全身で此方に訴えてくる姿に震えた。




常軌を逸した愚行。



彼に救いの手を差し伸べてしまった。


未だかつて手を入れた事などなかったのに。


病気に苦しみ嘆く者にも幼いながらに必死に生きていたのに無惨に殺される命にも凡ゆる命に手を掛けのうのうと生きた者にも箱庭の主は平等に静観していただけだった。


何の感情もなかったかと言われれば何の感情もなかった。



美しい箱庭の我々にそっくりの人形が我々とは違う短い命を懸命に箱の中で生きているだけだから何の感情も沸きようがなかった。


なのに。




初めて心を動かされたのは灯火の様な生にしがみ付き真っ直ぐに力を求める事切れる寸前の塊と化した少年だった。

ちぐはぐだらけのこの状況が箱庭の主の判断を狂わせた。






生命の源となった涙を一粒零す。





そこにはポカンと口を開けた傷一つない少年が仰向けに倒れていた。


あれ?と体を起こし自分の体を確認してもやはり理解出来ない。


一つ違う事は・・・自分の上にだけ雨雲に土砂降り。


少年が何を思ったかは計り知れないが目が点になり空いた口は実に間抜けな姿だった。






彼に意識はなかった。


何が起こったのかも理解出来ず目の前の同じ年恰好の少女に話しかけた。


『君は見ていたかい?』


すると少女は怪しげな笑みを浮かべ答えたんだ。


『君の生命は私が預かったんだよ』


って。





なんとも可笑しな会話だろう」




くっくっと身を細め笑うその者に真剣に聞き入っていた子供がニカッと何とも屈託のない笑顔でハッキリ結論付けた。


「恋をしたんだね!」


驚いたと言いたそうな顔でその者は子供の頭を撫でる。


「賢い子だね」


「知ってるよ。箱庭で不毛の恋をしたんだよ。でも誰しも経験した事のない感情を理解するのは難しいんだよ」



「・・・箱庭の主も君くらい頭が良ければ恋はしなかったし決して手を差し伸べなかっただろうね」


「それで??箱庭はどうなったの?」


「君は、どうなったと思う?」


「・・・?・・・箱庭の主の涙が生命の源だったのなら自分を創った箱庭の主を愛するのは人形の自然の摂理よね?」


「そんな事はないよ。

彼らは彼らなりに自由な感情を持ち1人で歩き始めてたからね。



少年はやがて成人と呼ばれる年になり再び少女に出逢うんだよ。


何かが繋がる気がしたそうだよ。


それはそうだよね。

全ては少女が握ってるんだから当たり前なんだ・・・けど彼は勘違いしたんだ。

彼女を愛でも恋でもなく自分を自由にできる恐怖の存在として遂には閉じ込めてしまったんだよ。


硬く閉ざされた扉の前で元に戻る事も出来ず嘆く事もせず佇んでいたんだ。


それでも良いと思っていたんだ。


『こんな我楽多ばかりの箱庭、欲しいのならばお前にくれてやる』


本気でそう思ってしまった」



「そんな事あるの?何かを願ったり相手を想うなんて難し過ぎる」


「本当に?では、何故、君はこの扉を叩いた?」


「あ・・・」











『君の生命は私が預かったんだよ』


長い黒髪に黒い瞳の可愛らしい少女が無邪気混じりの妖しげな笑みを浮かべていた。


少年は思いの外賢い人形だったのか納得顔で向き直った。


『そうか。ならお前は俺のモノか?』


少女はフフッと少年に面白いモノを見るかの様な視線を向ける。


『哀れな、お前が私のモノなのよ』



少年は思った。

ならば、この少女を手に入れ囲い込んでしまおうと。


少女があまりにも愛らしい容姿をしていたからか本能か好奇心か、そんなものはわからない。

ただ自分の生命ごと姿を消されたら探せないと確信していた。


『今は小さくて情けないくらい弱い存在だが・・・必ず力を手に入れる。


また、逢えるか?』


精一杯の懇願の眼差し。

再会を切に願う。




『お前の時間軸と私の時間軸は重ならない。

盲目的に信じるお前の「力」がどこまでのものか測りかねるが、私はお前の側にいるよ。姿など仮初めのモノではなく言葉通りの意味だ』


不意に姿を消す少女。





それからは鍛錬に鍛錬を重ねた修行に苦行。

少年が成人する頃には立派に力を付けた有力者となっており、その中でもズバ抜けた権力を誇っていた。

「神」に近い方と崇められる。


そんな折、再び成長し美しい姿となり、かつての少女が突如として目の前に現れた。




『お前は俺のモノか?』




懐かしいような先ほど聞いたような台詞。

彼女は薄く笑みを称え答える。


『哀れな。ちっぽけなお前の真っ直ぐ天までも貫きそうだったあの輝きがあったから確かめに来た』


『ありがと、神さん。俺にそんな事は関係ない。お前を手に入れたい!・・・捕らえろ』


周囲でただ柱の様に立っていた部下たちがいっせいに取り押さえようと動き出した。


それに抵抗せず囚われる美しい女性。



その後、仮初めの夫婦の契りを交わされお屋敷の一室に閉じ込められる事となる。


彼は神だと益々崇め奉られ政治を支配した。


死ぬまで彼女が惹かれたその輝きは消える事はなかった。


『こんな我楽多ばかりの箱庭、欲しいのならばお前にくれてやる。こんな我楽多の箱庭がお前を作り上げたのならこの箱庭も少しはマシになるか?』
















「名前も知らずに添い遂げる事も出来ず遂には滅びたその想いはどこへ行けば良い?」

ここまでお付き合いありがとうございます!

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