祝福の行方
散策したり、スキル使ったりした所為か、凄く疲れた。かなり眠い。
けど、このまま地べたで寝るのは、色々マズイような気がする。安全面とか、衛生面とか、寝心地とか。
まぁ、獣になったからには、野宿くらいでは動じないよ?本当。ふかふか布団で寝たいなんて………思ってるけどさ。思ってるだけよ?うん。我儘は言わない。此処には無いものを欲しても仕方ないし。あるなら欲しいけど。
木の根本に身を寄せて、丸って寝る。起きたら人が住む所を探してみようかな。カーバンクルが嫌われてなきゃ良いけど…
おやすみー。……ぐぅ。
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時は少し遡り、カーバンクルが木の実を探しながら、探索を楽しんでいた頃、その森を守護する大精霊は弱りきっていた。
かつては、希少な植物が豊富に育つ聖なる森として、この『ジュネリアの森』は広大な地に存在していた。多くの木々で雨水を蓄え、豊かな実りがたくさんの動物達の命を支えていた。
しかし、全ては過去の事。希少な植物は根こそぎ奪われ、動物達は乱獲され、蔓延した死の気で聖なる森は穢れていった。近隣の国に住む人間が、『森を荒らさない』という盟約を忘れて、全てを蹂躙した所為で、森は半分にまで縮小し、希少な植物はもはや絶滅寸前。森の動物達は餓えに苦しんでいる。
大精霊『ジュネリア』は、弱った身体に鞭を打つ。
森を守らなければ。例え、聖なる森として存在できなくても、森が残るなら、もうそれで構わない。
私の持てる全てで、この森の現状くらいは維持しよう。消えそうな種を守護しよう。小さな精霊達を守護しよう。例え、私が消えてしまおうとも…!
身に宿る神力を全て放ち、大精霊は倒れた。
「大精霊様!?何て事を…!」
幼い若木の精霊が、大精霊を抱き起こす。
「いいのです…これで、皆が助かるのなら…」
「嫌です!こんなのは嫌ですっ!大精霊様…っ!誰か、誰か助けてっ!」
徐々に透けていく大精霊の身体を、若木の精霊はきつく抱き締めて、泣きながら懇願した。自分の少ない神力を分け与えようとして、大精霊にやんわりと拒絶された。
森中の精霊達が集まる。大精霊の消滅を阻止しようと、手を尽くそうとして、やはり大精霊に拒絶された。
大精霊はゆっくり目を閉じる。このまま消滅し、あとは森に還るだけ。また長い年月を経て、精霊として生まれて来たいな…と、最後の瞬間を迎えようとして、
「…えっ?」
森中に溢れんばかりの魔力が駆け巡ったのを感じた。
その魔力に触れただけで、植物は活力を取り戻し、動物達の体力が回復し、淀み始めていた湖は清らかな水に戻っていった。
そして、大精霊を始めとした精霊達もまた、全盛期の頃の神力を取り戻していた。
「き、奇跡が起きたのですか…?」
若木の精霊は、呆然として呟いた。
「これは…」
大精霊は思い当たる事があった。
通常なら魔力が神力に変換される事など有り得ない。けれど、希有なスキルを使った際に、この現象が起こる事を、大精霊は知っていた。
そして、その希有なスキル『祝福』の持ち主…魔物にして神獣、カーバンクル。いつの間に、森にやって来たのだろう。神獣の来訪すら感知できないほど、私は弱っていたのか。
「…皆さん、ご迷惑をお掛けしました。この通り、生き永らえる事が出来たようです」
「大精霊様…っ!」
「この奇跡を起こしてくださった神獣さんが、この森にいらっしゃいます。皆さんで歓迎してあげてくださいね」
「神獣様が?あの、神獣様は今、何処に…?」
「今は…西のカレットの木の根本ですね。あら、寝ちゃいましたね…」
「わ、私、お礼に行ってきます!」
若木の精霊が、元気よく駆け出した。
と、言うことで、祝福は森そのものと大精霊を助けてました。
魔力が減りまくったのは、森全体を祝福しちゃったからです。