復帰戦
次回は9/8日に更新です。
ジェルポーン、生まれたばかりのモンスターというのは総じて弱い。
それはモンスターもまた成長することの証左。
しかし、生まれたばかりとはいえ、おそらく俺よりもレベルが高い。
ジェルポーンは推定レベル30-50であり、ジェルナイトと比べ、体の大きさと扱う技術、生成武器の性能、魔色素の保有量が劣るものの、油断は出来ない相手だ。
先に動いたのは俺だった。
一番近くにいたポーンに向かって、走る。
あらかじめ施しておいた強化魔導のおかげで身体は軽い。
それでもいとも容易く反応され、俺の動きに合わせて剣が突き出される。
鋭い突き、狙いは心臓を目がけており、だが、何の捻りもないカウンターだ。
予測していた動き、剣先からさらりと体を逸らす。
身体を逸らしながら、剣を突き出した。
互いに同じ行動を取ったが、俺の剣だけが敵を捉える。
ジェルを腕に感触を伝えることなく、突き破り、頭蓋骨を貫く。そのまま斬り上げると糸が切れたように崩れ落ちた。
「まあ、これで……終わりなはずがねえよなっと」
引き抜いた剣で首と背骨を切り裂く。これでやっと1体目。
チラリと目を辺りに向けると、残りのポーンがこちらに向かってくる。
出現直後の硬直はすでに解けたようだ。動きにぎこちなさはない。
焦らず、冷静にを努めて心がける。
動きを誘導し、敵が一直線に並ぶように下がる。
そして、戦闘の敵に斬りかかる。
一足で距離を詰める。
急な攻勢に対応が遅れている。僅かな隙だが、そこを突くには十分だ。
狙いが少し上にずれる。そこをさらに広げるように屈んで柄で押し上げる。
剣から手を意図的に離す。落ちる剣をもう片方の手で掴む。受け流すのと同時に攻撃動作に入っている。
腰を捻り、斜めに斬り上げる。
そのまま跳躍し、崩れ落ちるポーンの後ろから現れた新たな敵に全体重をかけて、剣を振り下ろした。
いくら俺が非力とは言え、武器の性能差がありすぎた。
黒い剣を斬りおとし、勢いを減ずることなく頭の頂点から切り裂く。
この一連の動作で一気に残り2体。
亡骸ごと蹴散らしがらの突撃を横に跳んで躱す。後ろに回ると最後尾の敵に向けて、手を向ける。
距離はもう触れ合えるほどしかない。しかし、この距離だからこそ威力が上がる。
強化魔導を掌に集中させる。魔道とは言い難い、拙く、ただの力任せに放つ。
「喰らっとけ!」
施していた強化魔導は風属性のもの。それを魔力をつぎ込み暴発させる。俺がしたのはそれに指向性を持たせただけ、これならばごくわずかな時間で発動することができた。
風船が破裂したかのように突風が巻き起こる。それはジェルを剥がし、体勢を崩すことに成功した。
掌を引き、逆の腕を剣を突き入れた。それは人で言えば、ちょうど心臓部、細かく痙攣しながら力が抜ける。
後ろを向くと、最後のポーンが体勢を整えていた。
数が互角になったことで警戒しているのか、すぐさま跳びかかってくることはなかった。
じりじりと空いた距離を詰めてくる。
魔導を準備しながら、円を描くように様子を探る。幸運なことにこれまでの戦闘で俺自身の力が増したようだ。
同時に使える魔導が2つに増えていた。
一つ目は、燃え盛る炎を出現させた。しかし、現れたのは一瞬。
だが、ポーンは炎を見て足を止めたこいつらが纏うジェルは燃えやすく、それを見ると慎重にならざるを得ないのだろう。
そして、消えた炎は俺の中に在った。
先ほどは強化魔導を暴発させたが、今度は逆だ。多めに込めた魔力を発火させる。それを取り込み、身体を強化する。火属性は攻撃力を増強させる。それは筋力の強化、加えて体力も増加させている。
疲労は取れた。
一呼吸で勢いよく大上段から振り下ろした。
炎に恐れをなしたポーンの動き出しは遅い、攻撃に先んじて側面のジェルごとを削ぎ、片腕を斬りおとした。
剣撃の衝撃がポーンにたたらを踏ませる。ふらつくポーンの側面に回ると二つ目の魔導を行使した。
時間はかかったが、今の俺が使える魔導の中ではトップクラス。
「魔色素は黄、鞭よ奔れ」
指先から雷光が奔る。光が収まるとポーンは砕けていた。
「ふぅー、何とか終わったか」
辺りを見渡し、ただ一点を凝視するエンマを見つける。
「まだ終わりじゃないみたいだねえ。面白くなってきたよ、ダーリン」
なんだか楽しそうに言うエンマの前にはポーンを喰らい、取り込んだジェルナイト、いや、別の化け物が立っていた。