依頼探し
俺たちがやってきたのは言わずと知れた冒険者ギルド。
一獲千金の夢を胸に秘めた愚か者たちが集う場所である。
勇者をやってた頃は、小銭稼ぎに傭兵ギルドをよく利用していたが、あの頃はここを使うことになるとは思えなかった。
傭兵ギルドが対人専門業者だとすれば、冒険者ギルドは対モンスター専門業者である。
この両者の違いは何と言っても死亡率だろう。
例えば、傭兵ギルドが年間200人死ぬとすれば、冒険者ギルドは1000人は死ぬ。
危険度が段違いに増すのだ。まあ、その分需要もあり、稼ぎもいい。
それにこの敷居の低さも重要だ。学も、礼儀も、地位もいらない。
傭兵ギルドで上にのし上がろうとするならば、地位、コネが必要となる。依頼を受ける上でどれだけ多くのお得意様を作ることが重要なのだ。
かく言う俺も勇者としての名声を使って美味しい依頼を受けたものだ。
だが、今の俺があそこを利用することは出来ない。身分の証明時に、職業欄も開示する。勇者でなくなった俺などお呼びではないはずだ。
それに勇者というしがらみから逃れるいい機会だしな。
そんなこんなで、冒険者ギルドに入ったわけだが、相変わらずの環境の悪さにため息が漏れる。
中には昼間だというのに酒を飲んでいる者は当然のこととして、喧嘩をしている奴らだってちらほらと見える。
できるだけ目立たないように、それでいてカモだと思われない程度に堂々と乱雑に貼られた依頼書を眺める。
「ファイアドレイク、ハイオーガ、ソードスライム……どれもレベル80はねえと厳しいな。もっと手頃なのは」
「ヤマト、あれだけ動けて80もないのかい?」
驚きを露わにしたエンマが俺にしなだれかかる。そっと後ろに体を引いて離れ、頭を掻いた。
「まあ……な。色々あってな、今は弱えんだよ」
「ふうん、今はねえ」
面白いものを見つけたというような流し眼から、逃れるように言葉を紡ぐ。
「んなことはどうでもいいんだよ。今が重要だ。仕方ねえ、適当に情報仕入れて、依頼を選べるくらいまで力をつけるか」
とは言え、そこいら奴らに話しかけても、面倒事になるに決まってる。依頼書を見て集めるか。
ここで注目すべき点は二つ。依頼の期限と、モンスターの種族が被っている依頼の数だ。
まずは、依頼の期限。これは、近場かどうか割り出す。この乱雑さだ。上に貼ってあるのが新しい依頼だと思っていい。それなのに他の依頼と比べて、期限が短いものってのは近場か、需要があるかどうかを教えてくれる。
次に、その期限が短いものの中から似たようなものを探す。需要の高さと、この辺りに生息しているモンスターを教えてくれる。
それに俺の知識と経験を加えれば。
「つまり、サフィアドレイク、ブルーホーク、ジェルナイトがいるのか。これなら、いけるか?」
「へえ、依頼書見ただけで分かるのかい?」
その鋭い視線は俺の目をじっと覗き込んでいる。
ただの脳筋ってわけじゃなさそうだ。
「とりあえず、ジェルナイトの取り巻きであるジェルポーンを狙う」
「なんだって、そんな雑魚を」
「さっきも言ったろ?そういう奴らでも倒さねえと鍛えられねえんだよ」
「まあ、いいさね。ダーリンの身の安全が第一だしね。あたいはその考えに従うよ」
弱いうちはエマが頼もしい。色々とリスクはあるが、知り合っといて良かったかもしれん。
「じゃあ、ジェルポーンが出てくる夜までしっぽりと過ごそうじゃないかい」
前言撤回だ。そうそうに手を切ろう。