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ロスト

 魔竜王ベルセルク。その名に恥じぬ威風を誇り、目を閉じていても伝わる圧倒的な威圧感。

 だが、俺は勇者であり、信頼できる仲間――魔道盾使いのランド、魔導士のコロナ、魔道装甲を纏うルクト――たちともにどんな困難でも乗り越えられる。



 そう思っていた。



 その心に驕りがなかったかと言われれば、無いとは言い切れない。しかし、俺たちはそう思っていいだけの実力もあったし、功績を残してきた。

 その結果、この様だ。

 仲間たちは地面に伏し、身にまとっていた輝かしい武器や防具も見る影もない。

 唯一、俺が持つ神剣スサノオと首飾りであるヤサカニの加護を受けた衣服だけが残されている。


 スサノオを杖代わりにして、立ち上がる。

 それすらもやっとのことだというのに、目前の竜は笑い、哂い、嗤う。


「立ち上がるか、勇者よ」


 その言葉に応える余力はもはやない。ただ必死に、勇者だから、世界を救わなければという使命感だけが、突き動かす。


「愚かなり」


 吐き捨てるように告げられたそれは、まさしく死の宣告。

 

 竜の咢に青白い炎を覗かせた。


 最初は家で用を足しているところで呼び出され、醜態とともに始まった異世界生活。

 ランドとルクトという頼れる兄貴分でもあり、親友たちであり、紅一点のコロナを巡り争ったライバルたち。僅差で、奇しくもランドの恋人となった凛々しくも強い女性のコロナ。

 四人での旅路は辛くとも楽しい毎日だった。波乱に、幸福に満ちていた。


 良い人生だった。


 脳裏を懐かしくも、かけがえのない思い出がよぎった。

 

 印象的だったのは召喚当時に、フルチンを大衆の面前にさらしたことだろうか、それとも、野郎どもで殴り合い、三人同時に手を差し出し、コロナに告白をしたことだろうか、やはり、初めて見た飛竜の威容だろうか。

 どれも甲乙つけがたい。

 忘れたくない、失いたくない記憶。


「ちくしょう」


 そして、業火に包み込まれた。熱さを感じる間もなく意識は闇へと落ちた。




 ◆ ◆ ◆




「ああ、生きているのか?」


 視界良好、顔も、腕も、足も動かせる。多少の倦怠感はあるもののさして問題にならない。


「ここはどこだ?」


 辺りを見渡すと、菱形と円を組み合わせた紋章がでかでかとステンドグラスに描かれている。

 横に長い机と椅子がいくつも置いてあり、俺はそれらを見下ろしていた。

 どうやら、一段高い所にある台座の上に横になっていたようだ。

 

 この光景何度も見たことがある。


「ディスティリア教会か」


 女神ディスティリアを唯一神と崇め、その使いである勇者を支援する団体だ。かく言う俺も何度も世話になったことがある。


 しかし、腑に落ちない。


 確かに俺は魔竜王が吐いた炎で死んだはず。まさか、


「勇者だから、死んでも生き返りますってか?」


 それしか思いつかない。俺自身が生きていること、それが証明だ。

 だが、それもゲームのように甘くはなく、仲間は、ランドたちは居ない。

 生きているということはないだろう。俺よりもひどい怪我を負っていて、防具も形を成していなかった。生き残れるはずがない。

 つまり、俺だけが、一人だけ生き残ってしまった。


「くそったれ!」


 ドンッと台座を叩いても、虚しく反響し、拳に痛みが奔るだけだ。


「ランドは、ルクトは、コロナはっ! あいつらも一緒じゃねえのかよ!

 俺たちは四人で一つの勇者パーティだぞ! 一緒に生き返らせてくれよ!」


 叫んでも耳に返ってくるのは、哀れな男の泣き言だけだ。


「何で、なんでだよ。なんで俺なんだよ、くそったれ!」


 赤い滴が拳から零れ落ち、この激情を表した。

 感情を逆なでするような軽快な音が頭に響いた。


「こんな時に女神さまの神託()かよ」


 教会に来ると受けられる神託だ。これにより、この世界の住人は成長を確認できる。


『ランド=バックス ロスト

 ルクト=コーウェル ロスト

 コロナ=レッツァー ロスト

 神剣スサノオ ロスト

 宝珠ヤサカニ ロスト

 天凛の鎧 ロスト

 天凛の衣服 ロスト

 ヤマト=スサ レベル354ダウン ジョブ勇者 ロスト

 剣術 レベル6ダウン 魔導 レベル8ダウン 拳術 レベル5ダウン

 動術 レベル7ダウン 盾術 レベル4ダウン 鍛冶 レベル3ダウン

 付与術 レベル6ダウン 魔導耐性 レベル6ダウン 状態異常耐性 レベル6ダウン

 破魔 レベル1アップ 封魔耐性 レベル2アップ』


 最初の三行で心が折れる音がした。

 すがっていた希望を根こそぎ奪われ、現実を突きつけられた気分だ。俺自身も勇者として強くなってきたものも失われた。

 それどころか、弱くなった奴は勇者じゃないってか。


「泣きっ面に蜂とはこのことだな。扱いがひどすぎるんじゃねえのか」


 分かっていたことだ。俺は勇者であり、その素質があったからこそ、世界の女神の恩恵を受けてきた。弱者には用はないんだろう。


「くそったれ」


 何もかも失った。俺はどうすればいいんだろうな。

 とりあえずは、そうだな。


「何か着る物を探すか」


 勇者専用装備であった天凛シリーズを失った今、召喚当時と同じフルチンだ。

 人としての尊厳を保つためにも、必要なことだ。まずは人を呼ぼう。幸い教会だし、司祭とかいるだろう。男だといいんだが。


 こうして、俺は再出発する。

現時点でのヤマトのステータス

 ヤマト=スサ レベル10 ジョブ ロスト

 剣術 レベル2 魔導 レベル1 拳術 レベル2

 動術 レベル1 盾術 レベル2 鍛冶 レベル3

 付与術 レベル1 魔導耐性 レベル1 状態異常耐性 レベル1

 破魔 レベル1 封魔耐性 レベル2

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