スライムインザボーン
後付け設定てんこもり。
「……なぁユルユル。」
「なんですボンヘ?」
とあるダンジョンのとある一部屋、宝箱どころか罠もない空き部屋に二匹のモンスターがいる。
スライムとスケルトン。
初心者向け洞窟ダンジョンの定番の雑魚モンスターの二匹がだらだらとしゃべっていた。
「俺たちってけっこうな雑魚だよな〜。」
「……まぁ、そうなるね。」
「どうしたら強くなれるかねー。」
「敵を倒す。とか?」
「敵って冒険者のことか?」
「他のモンスターと争わないならそうなるね。」
「やだよ、仲間割れなんてさ。でも冒険者を倒すったって俺たちだけで勝てるか?」
普通ダンジョンのモンスター同士では種族の相性が悪くない限りめったに同士打ちは起きない。ダンジョンの宝の守り手やダンジョンマスターと言われる上位モンスターの配下として役割がありそのために造られる者がほとんどだからだ。
「でも俺たちの力じゃあ冒険者に勝つのは難しいよな。」
「他のモンスターと協力すれば弱い冒険者は倒せるでしょうが…」
「でも倒した敵の魔力ってさ、止めを刺したやつに一番吸収されるんだろ?」
「まぁ、そうですね。」
「ここのダンジョンめったに冒険者来ないのにそう上手く止め刺せるかね?」
「…運が良くないと無理だね。」
「だろ。そこで俺は考えた。」
「??」
「俺たちが手っ取り早く強くなる方法を。」
「そんな都合のいい方法があるのですか?」
「ああ、それは…」
「それは?」
「……合体だっ!」
「………はぁ?」
「スケルトンの特徴は人間の武器を使えることと関節を無視した動き。そして欠点は筋肉かないゆえに瞬発力が無いこと。そしてスライムは打撃を吸収しある程度のダメージは再生する事。で、欠点は核を攻撃されると弱いことと炎や氷、電撃などの魔法に弱いこと。」
「だか、おまえが俺の骨を溶かさす包みこんで、核を肋骨の内側に隠せばお前の生存率は上がる。」
「溶かさずって…やったことないけど…」
「まあ聞け。そしておまえが俺の骨に疑似的な筋肉として動ければ俺たちは瞬発力を得られる。俺が人間の鎧や盾を装備すれば打撃以外の攻撃にも対応できるはずだ。」
「…出来ればね…」
「なんだょ。乗り気じゃねえなぁ。とりあえず試してみようぜ。」
「…まぁ、試すだけならね…」
しかしそうすんなりとはいかなかった。スライムのユルユルは骨に限らず取り込んだものを溶かさす包みこむことなどしたことがなかった。そしてスケルトンのボンヘは痛覚が無いため溶かされていることに気がつきにくかった。
「…やっべー喰われるところだった。」
「僕だって友達を食べたくはないよ…」
「やっぱり無理かー。」
「…いや。なんかつかめそうな気がする。」
「そうなん?」
「途中で気がついて君を吐き出した時、異物の識別っていう感覚?がわかった気がするんだ。」
「マジで?じゃあもっぺんやろうぜ」
かくして二匹のモンスターは変異種〔スライムインザボーン〕となった。何人かの冒険者を倒してランクが上がり、討伐依頼の対象となった。
「「やっべー。強くなることしか考えてなかったから人間倒しすぎた。」」
「「ふむ……マスターに相談しよう。」」
そしてダンジョンの最下層でダンジョンマスターであるリッチーのアビスマンのもとを訪れた。
「「お久しぶりです。ダンジョンマスター。」」
「ほう。さすがに下級種らの名を全ては覚えておらんがお主らの活躍は聞いておるぞ。」
「「ありがとうございます。この度我らが降りてきたのは人間に個別の討伐目標にされた件について相談しようと思いまして…」」
「ふむ。せっかく力を得たにもかかわらず、未だに人間は脅威であるか…」
「「はい。我らは強くなったとはいっても未だに魔法攻撃には弱く、多くの人間に狙い打ちにされては生き延びることが出来ません。どうかマスターのお知恵を授けて頂きたいのです。」」
「……ふむ。強くなったお主らじゃ、下層の他のモンスターらと連係すれば生き延びることだけはできるだろうが…だがしかし、それでは面白くはないのう。」
「「いや、生き延びれるならその方法でもいいのですが…」」
「そうじゃ!お主のそのお互い共存したままの合体能力。いや合体技術か。その技を他のモンスターでも使えばよい。」
「「他のモンスター?」」
「そうじゃのう。例えばリビングアーマーなんかどうじゃ。」
「「リビングアーマー…ですか?」」
「もともとお主らはダンジョンモンスター。自然発生のモンスターや人間の怨念から生じるアンデットよりも魔法生物よりの存在じゃ。もっともランクが上がれはダンジョンの呪縛からのがれられるがの。ともかくお主らは他の魔法生物系統のモンスターとも相性はよいはすじゃ。」
「「なるほど。ですが我らは生み出されてから今日まで友人として共に生き延びてきたもの。ここに見知らぬ3匹目が入っても連係がとれるかどうか…」」
「いや、それには及ぶまい。わし自らリビングアーマーの調整するからな。」
「「えっ。調整ですか?」」
「そもそも下級魔法生物系統モンスターに自我や思考力をあたえたのはお主らの住みかの第一階層だけじゃじがの無いモンスターならお主らの命令に忠実な魔法生物を使役して鎧として纏えばよい。そのためにお主らにぴったりのリビングアーマーをこしらえてやろう。」
「「なるほど。ありがとうございます。」」
「ではさっそく作ろうかの魔法防御主体、お主らにシンクロするリビングアーマーをば。名前はガチコンじゃ」
「…ガチコンですか…〔マスターのネーミングセンスって…〕」
「よいよい、おぉそうじゃ。お主らの新しい名前を決め手やろう。」
「お主らの新しい名前は…ガチュルボーだ。」
「「……ありがとうございます。〔やっぱネーミングセンスおかしい〕」」
そうしてダンジョン下層で中級冒険者を倒すようになり、モンスターとして種族のランクも上がった。スケルトンはスケルトンナイトに、スライムはレッドスライムになり、リビングアーマーはシャドウアーマーとなった。しかし新たな問題が生じた。シャドウアーマーが重厚な造りの鎧になり、レッドスライムも肥大したためガチムチ重戦士タイプとなって機動力が失われたのである。ここで再び魔法に弱いことが問題になってきた。
「「「と、言うわけなんです。」」」
早々アビスマンに泣きついた。困った時のダンジョンマスターである。
「……あのな、少しは自分で何とかしようとか思わんのか」」
「「「元がスケルトンとスライムにリビングアーマーですから。バカの考え休むに似たりですよ。」」」
「自分で言ってりゃ世話無いのう。 …まあそうじゃな、機動力と言うなら空を飛ぶというのはどうじゃ。」
「「「空飛ぶんですか!!」」」
「おう。やはり食い付きがよいのう。いいか、今お前たちがもつ合体スキルというのはいわは共存と共鳴により肉体と精神の同調をするものだか、普通は出来ても一度限りの融合になるはず。しかしお前たちは分離も自由自在に出来る。これはわしが普通術によって自動的に動くだけの魔法生物に実験的に自由意思を与えてみたからじゃ。そのなかでお前たちが自分で強くなったことは我が実験の成功であり誇りなのじゃ。そこで、お前たちには空を制するための新たな仲間をわしの生物創造スキルによって生み出してやろう。」
「「「凄いです。素晴らしいですダンジョンマスター。」」」
「そうじゃろうそうじゃろう。ついでに武器型の魔法生物も造って攻撃力も上げてやろう。」
「「「ダンジョンマスターばんざーい。アビスマン様ばんざーい。」」」
「ほっほっほ。まあ、期待するがよい。」
そして…
スケルトンナイトのボンへ
レッドスライムのユルユル
シャドウアーマーのガチコン
ジャイアントフロートアイのギョロン
ダンシングカースドソードのキルリン
の五匹のモンスターは合体モンスターガチュル・ボー・キルロ
となった。背中合わせにジャイアントフロートアイのギョロンが張り付き、正面からはコウモリの翼があるように、後ろの目はバックアタックを防ぎ、怪光線を放つ。またダンシングカースドソードのキルリンは、手から離れても敵を追尾する遠近両方に強い攻撃を繰り出せた。もはや中級冒険者程度では敵わなくなったのである。
「「「「「俺たちは最強だー!!」」」」」
アビスマンには思惑があった。リッチーとは本来魔導を極めるために魔法使いが自らアンデットになったものであり、実験場の一つとして低レベルモンスターの洞窟をダンジョンとしたのだ。そのなかで一つの成果が出来たことでこのダンジョンの役目は彼の中で終わったのである。収集した魔法生物の同調合体のデータはこの先大いに役に立つだろう。そこでいくつかの失敗作の魔道具や魔法生物の管理を彼らに任せ、自分は別の実験場に移動しようと思っていた。
「さて、お前たちは強くなった。このダンジョンではわしの次の強さじゃろう。」
「「「「「はい。光栄なことです。」」」」」
「そこでお前たちにはわしの後を継ぎ、ここのダンジョンマスターになってもらう。」
「「「「「えっ!」」」」」
「わしは旅に出る。」
「「「「「えぇーっ!!」」」」」
「まあ、既存の魔法生物たちは最下層のダンジョンコアの力を使えばある程度は造りだせる。お前たちにはわしは宝とダンジョンコアを守って貰いたい。」
「「「「「……わかりました。」」」」」
そして彼らは新たなダンジョンマスターになった。また、アビスマンも無事新たなダンジョンに旅立った。
しかし、その後人間の冒険者にあっさり最下層到達された彼らは、完全攻略される前にダンジョンから逃げだすことにした。しかし魔法生物はダンジョンから離れられない。そこでダンジョンコアそのものを取り込み洞窟を出たのであった。
その後彼らは大陸を移動するダンジョン〔ガチュル・ボー・キルロの死の領域〕として人々を恐怖させることになるのだが、それはまた別のお話となる…。
とは言え、彼らもいつか召喚された異世界の勇者とかに倒されるんでしょうね。