序文
東の果ての、とある島国のことをご存知でしょうか。
まことに不思議な国です。
なんとその国では、空気が一番偉いのです。
空気と言っても、いわゆる大気のことではありません。雰囲気や場の流れといったものを表す一種の例えです。
その空気が、人よりも神様よりも偉いのです。
いいえ、空気こそが神様だと言ってよいでしょう。何しろこの国の人たちときたら、いつだって空気を気にかけ、決して逆らおうとしないからです。
彼らの多くは、口では自分たちは無宗教だと言います。
「私は宗教や神様みたいな迷信なんて信じていない」
そう言います。
そう言いながらも、目に見えない空気というものに対し、自分が何か楯突くようなことをしていやしないか常に注意を払っています。誰かが空気に逆らおうものなら、まるで戒律を破った不信心者を目にした神官のように「空気様のお心を読め!」と不快感をあらわにします。
実に不思議な人々です。
いったい、いつ、どのような理由で、この国の人たちはそんなにも空気を怖れ敬うようになったのでしょうか。
そこには、一人の女の子を巡るこんな物語があります。