Phase.5-23
自分よりも強い人間とは何度も戦ってきた。
声変わりもしていないときには女の子に扮して敵を油断させたことも。
それが普通だった。
騎士と戦うこともあった。
その時生き残ったのは自分一人。
結果は辛勝。
それが数年前。
数ヶ月前には一人で戦った。
時間稼ぎだったが、ほとんど自分のペースで戦えた。
今殺り合っても恐らくは勝てる。
高慢でもなく事実。
目の前の人物は自分と同等かそれ以上の力を保有している。
才能も自分とは違って、あるのだろう。
それでいて、自分と同じような過程を通り過ぎている。
それだけでも、絶望的な状況と言える。
自分には才能はない。
その才能の無さを実力で補う為に薬物や暗示と言ったありとあらゆる方法で身体を作り替えられたのが自分、白銀 鏡介という人物。
「Drive」
その一言で、彼を包む雰囲気が重く苦しく変化する。
呼吸などから取り込んだ魔力素が勝手に魔力に変換され、CTに流れ込んでいく。
それに取り込めない余剰分が彼の周りに放出し、押し出される形で、更に魔力素が彼の中に取り込まれていく。
そんなおかしな現象が起きている事に疑問を浮かべつつも男のすることと言えば、彼を楽しんで殺すだけ。
なんの躊躇いもなく、彼に向かっていつもの魔導式を打ち込む。
回避されても問題はない。
今までの行動からは避けるだけが精一杯だったのだから。
だからこそ。
だからこそ。
彼が目の前に立っていることが信じらない。
信じられなかった。
先程のような瞬間移動をしたかのような動き。
慌ててバックステップで距離を取り魔導式を打ち込む。
だが。
大きな衝撃が男を襲う。
さながらの暴風。
そんな魔導式を彼が使った形跡はなかった。
だとすれば、これはただの自然現象ということになる。
風と言うものは気圧の高いところから低いところに流れる大気の流れを言う。
空気が冷やされ、気圧が下がったとしてもここまでの現象にはなるまい。
と流されぬように踏ん張りながら周りの様子を見る。
「余所見してても良いのか」
声が聞こえた気がした。
それに反応する前に、男の身体は中に打ち上げられていた。
上からの衝撃と、下から引っ張らられる感覚が男を襲い、受け身すらとる時間かさえないまま、地面に叩きつけられた。
肺から押し出されていく空気を取り込もうと必死に呼吸を試みるも、一向に空気は吸い込まれていかない。
胴部部分に圧迫感。
それが鏡介の右足だと気づくのに数秒の時間を要した。
銃口が男の額を向いていることから、ここで確実に殺そうとしているが、その瞳は何も映していない。
彼の写真を見た時と同じ感情はおろか、人間らしいささえ失われたソレ。
しかし、それに引き換え、銃口は殺人を躊躇っているかのように揺れており、彼の本心を如実に表している。
その甘さが命取りになると分かっていたとしても、彼の心は人殺しを躊躇ってしまうように変わっていると言うことか。
地面に向かって魔導を起動させ、横たわっている範囲を押し出す。
その前に右腕が何処かに消し飛んだ。
余りにも一瞬過ぎたことから、切断された神経は痛みを脳へ伝わることを遅延させる。
ただ、当たり前にあった腕の感覚が消え去ったということだけがはっきりと理解できた。
自覚した事により、ようやく、痛みが脳へと押し寄せ、顔が自然と苦痛に歪み、冷や汗が流れ始める。
「腕を飛ばしたくらいで、止められるとでも思っているのかい?」
鏡介を取り囲むように、魔導が配置されている。
一歩でも動けばふたりとも蜂の巣状に肉体が繰り抜かれることは見えている。
自爆特攻でもするつもりなのかと、考えてしまうが、そんな非効率なことをするとは思えない。
何らかの方法で、効果範囲または防ぐ手段があるということだろう。
脅しにしろなんにしろ、彼は今度は左腕に向かって引き金を引いた。
それを皮切りに停止していた魔導が起動し、彼らに向かって放たれる。
魔導同士の干渉により、衝突したものは破壊の光と衝撃を辺りにまき散らした。
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