Phase.5-21
最悪な方法しか取れなかった主人公を救わなければ。
↑今更何を言っているのでしょうね、自分は。
「y9ouganuya,vmiaujemikbhvois」
音が聞こえた。
音が聞こえた気がした。
空耳かと思うが、徐々にその音の羅列が慣れていくように、次第にはっきりと聞こえてくる。
テレビやラジオの大きな砂嵐から、少しずつ、少しずつ小さな物へと変わっていき、誰かの声のようなものさえ混じり始める。
人の声なのだろうか?
人の声のようなものにしか、まだ聞こえない。
「gじrmrにおcrmつrぬbふrんsrでrぇうjv」
彼の目の前にボヤけた輪郭のようなものが浮かび上がる。
立った人間の形をしていることから、少なくとも生物であることには違いない。
「空間転移?」
他の場所からこの場所に来るような魔力の流れはなかった。
にもかかわらず、その人物は目の前に立っている。
視覚が発達しているからこそ、目の前の人間が自身の恐怖を引き起こしたと判断し、自身の魔導を起動させる。
しかし。
「起動しない?」
魔力の流れは確かに存在していた。
しかし、肝心の魔導が働かない。
CTが無くとも発動出来るものを選択したはずだった。
「…………法則が……違うからだ」
雑音が混じりながらなので、所々聞こえ辛い箇所もあったが、聞こえてきたのはそんな言葉だった。
法則?
訳が分からない。
法則が異なるだけで、魔導が使えなくなるようなことがあるのだろうか?
そもそも、何故法則が異なるのか。
「ようやく、次元を合わせられたか」
目の前に立っていたのは黒い男。
◇
色素の薄い髪に、不自然な蒼白い瞳。
裾の長い白衣を真っ黒に染めあげ、何故か右肩口がバッサリと切られて右腕が露出している。
スポーツ用の白いグローブを右手に嵌めていて、逆に左手には何も嵌めていない。
「そう堅くなるな」
堅くなるなち言われても、堅くなるような雰囲気を放っている男を前に、堅くならないようにするのは難しい。
「お前は誰、いや、何だ?」
「へぇ、分かるのか」
蒼白い瞳が鋭く光る。
鏡介にも分からないが、目の前の男は人間ではないと直感で言葉を言い直す。
男は人外扱いした鏡介に怒りといった感情を見せずに、むしろ人外であると理解したことを褒めているようだ。
「取り敢えず、オレは始めからこんな存在だった訳じゃないからな。
ある意味自業自得か」
何が言いたいのか分からない。
彼は元々は自分と同じ人間であったらしいが、それでも雰囲気が人間らしくない。
人外になったからなのか、それとも、元々こうだったのか。
「お前の状態を説明すると、死ぬ一歩手前で止まった時間軸から切り抜いている。
まだ死んではいないが、このまま元の時間軸に戻したら確実に死ぬ。
それが覆ることはない」
やはりかと思う。
記憶が断絶しているのであれば、ある程度の説明が付く。
自分が死んだとすれば、死んだ時の記憶があるわけがない。
「そこで、だ。
オレが一度だけ、お前の死を覆す。
まぁ、その後死んでも知らないが」
どういう意味なのか。
男が自分を助けることになんのメリットが存在しない。
驚いた顔をしていると、それこそどうでも良いような顔をされる。
「お前にメリットが合って、オレにはないって言う訳じゃない。
正確にはオレがお前を助けることそのものがオレにとってのメリットだと思ってくれればいい。
納得出来ないか?」
男は面倒臭そうに溜息を吐く。
「この空間だってそこまで長く持たない。
お前と会う為に次元の狭間に作って、死にかけるお前を引っ張りあげ、急に元の時間軸に戻して記憶の混乱があっても困るから、次元を下げて会話を試みた」
これ以上面倒をかけるなと言わんばかり。
鏡介は俯き、必死で魔導の発動を試みる。
効率の悪い方法さえ取りながら、少しずつ形になっていくのが分かる。
どれほど法則が異なるかまでは分からないが、それでも、数秒後には魔導は完成しており、いつでも発動出来る。
しかし。
「その程度でどうにか出来るとでも?
構成も視えてるし、打ち消すのも容易だ」
構成が崩され、呼吸をするように打ち消される。
本来、構成を崩されると、呪詛返しと呼ばれる現象が起こる。
呪詛返しとは、生じるはずだったエネルギーが暴発し、発動者にその時に発動した魔導によって異なる現象を引き起こす。
それさえ無いということは魔導の構成からすべてを逆算したことになる。
鏡介でさえ、そんな馬鹿げたことは出来ない。
出来たとしても、魔導の構成を少し弄って威力の弱いものに変換するくらいである。
不自然な蒼白い瞳は彼をただ見下していた。
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