Phase.1-5
友人とクラスが離れてたから、部活の時間までは基本一人でしたね…
はたしてその行為に一体どんな意図があるのか、不意にそんなことを考えてしまう。
そして大して知りもしない他人にメールを送信し自分のアドレスをさらす意味が理解出来ない。
幾つかのキーボードが音を奏で、返事のメールが習志野のパソコンへと流れていく。
返事をするにしろ、しないにしろ今CTのない鏡介には意味のない行為だ。
(キタキターキターッ!!
僕は変わるんだ。
消極的な中学時代と言う黒歴史を封印して高校デビューするんだ!!)
「皆さんが普段使っているのは勿論一般用に作られたもので、他にも法人用、日本では基本的に製造、使用が禁じられている軍用の3タイプあります。一般用と法人用には互換性が一応ありますが、それらと現用には互換性はありません。
この生徒に軍用を使っていた人はいないと思いますが、現存するCTの中ではもっとも性能が高いと言われています。しかしその分用途が殺傷や破壊に限られてしまうと言うのが弱点とも言われています。
ある意味、一般用CTの武器型に近い物ですね。と言っても武器型CTはあくまで非殺傷の攻撃性魔導の無意識強化を自動的に行うものでしかありません」
鏡介の後ろの方から肌で感じる“何か”を後ろを振り返り直接見てみたかったが、今は授業中。
振り向くのは躊躇われる。
それでも教師の話は右から左へと流れていく。
結局それはチャイムが鳴るまでその感覚は無くならなかった。
幾ら時代が変遷しようとも学校のチャイムの音は基本的に変わらない。
スピーカーから聞こえたチャイムの音律に教師が、今日はここまでにしましょうと荷物を纏め教室から出ていくと、授業中という独特の緊張感から解放される。
仲の良い友人同士の会話がちらほら聞こえ始める。
時間割を確認すると次は体育のようで、女子生徒は小さなトートバッグなどを持って教室を出ていく。
それを見送った一部の男子生徒は服を脱ぎ、運動のし易い服装に着替え、グラウンドに向かう。
開始のチャイムが鳴る頃には皆、着替えを済ませグラウンドで整列していた。
「宜しい、皆揃っているようだな。
第一回の授業だから、簡単に君達の実力が知りたい。
取り敢えず二人一組になって模擬戦闘をしてくれ。
ああ勿論おれに向かって来ても良いぞ。出来たら、の話だがな」
頭まで筋肉で出来ていると言われればそう信じてしまいそうな、ジャージの下から主張する筋肉が見ていて暑苦しい。
ピッチリとしたジャージの下で時々蠢く筋肉が不気味でしょうがない。
恐らくは学生時代から筋肉の強化を続けているのだろう。
だが、暑苦しいそれのおかげで灰色の十代を送っていたのは確実だと思われる。
時々、腕を曲げ、ん~この上腕二頭筋が… と呟く姿は見た者を一歩も二歩も三歩も引かせたのは余談。
入学初日から友人作りをしてこなかった為、鏡介はものの見事に一人あぶれていた。
男子と女子がそれぞれ奇数人いるので彼のようにあぶれる者がいた方が調和が取れていしまうのが現実ではある。
別に困っていないので気配を消し、その辺で休んでいようかと思い立った時に、自分の後方から誰かが近付いてくるのを察知し、静かに振り返る。
そうでもしなければ、身に着いた―染付いた―技術で彼女を殺してしまうかもしれない。
仮に殺すのであれば、授業中の事故とする方法を彼は取る。
「貴方もパートナーがいないの? なら私と組んでくれないかな?」
どうやら彼女は鏡介のように友人がいないのであぶれたのではない様子。
彼が後で知ることだが彼女の家はかなりの旧家であり、友人たちはその実力差をギャラリーとして見たいようだった。
「別に構わない」
間髪入れないその返答を意外に取り、少女は間抜け面を鏡介にさらす。
「意外だね。女を傷つけるかもしれないから私の知る限り大抵は断るのに。
サディストなら傷つけるのに躊躇わなそうだけど」
何かおかしなことを言ったのか分からず鏡介は会話を聞き流し、自らの思考に入っていたが、彼女の答えを聞き、
「アンタは怪我が怖くて“ここ”に立ってるのか?
それに俺は同じ舞台に立った人間に手加減出来る程人間が出来てない」
その言葉で十分だった。
少女―御影はニヤリと口角を上げ、彼から距離を取る。
おおよそ5m。
彼女が一瞬で詰められる距離であり、もっとも得意とする距離でもある。
教師はジャージのポケットからカード型のCTを取り出し、体内で生成した魔力をそれに流し込む。
ペアごとの空間が固定され、包囲される。
さらに情報が書き加えられ、目の前の視界がグニャリと変化する。
(戦争もこの中でやれば、良かったのに)
自分にはもう関係のない、世界を無意味に思い出してしまう。
意味のない感想をすぐさま破棄し、目の前の人間に意識を傾ける。
「始め!!」
結界上部から始まりの合図が響き渡り、各々は前に向かって動き出した。
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