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Gift  作者: 如月双
Phase.3 生徒会編
38/77

Phase.3-10

 目の前の男は何を言っているのだろうか?

 この状況を打破できるのは単純な力、つまり暴力だと彼は考えている。


 しかし、そんなことが出来るならば公園のベンチの上で黄昏ることもない。

 ならば、どうすればいいのだろうか。

 それが分からないのだから、公園(こんなところ)にいない。


 自分にはどうにか出来る。

 その言葉は甘い蜜。

 甘い、甘い猛毒。

 一度手を出したら、止めることに出来ない麻薬にも似た響きが彼には感じられた。


 彼にも良心がある為に目の前に立つ見るからに妖しい存在に対して警戒するのは当然のことだった。

 いくら、彼を取り巻く状況を簡単に打破出来ると言っても、違法な手段であればそれは個人的にマズイと思ってしまう。


「私を信用出来ないのは当然でしょうが、まずはお試しでいかかでしょうか?」


 懐から一見普通に見えるCTを取り出すと、彼の目の前に差し出す。


「こちらがお試し用のものです。

 何回か使用すると、そのCTは自壊するように作られています―使用する魔導(もの)によって異なりますが―ので、完全版をお求めでしたら、私を呼び出してもらえば結構です。

 その時の私は、今の私の様な雰囲気ではないと思われますが、気にしないでください」


 そう言うと、男はCTを彼に向かって放り投げると、それに気を取られた彼は男の姿が消えた事に気付かない。

 放物線を描き、自分の手元に入り込んできたCTを掴むと、男の事が記憶から抹消された事にも気付かずに、拾った(・・・)それをポケットに仕舞い込む。

 CTそのものに、精神を安定させる薬でも含まれていたのか、自分が下らない事で悩んでいた事実が解決したかのように思え、軽い足取りで自宅までの道のりを再び歩き出した。










「おい、お前今日の税金払ってねぇぞ」


「おいおい、税金は国民全員が払う義務があるんだぜ」


「使い道は俺達が勝手に決めるけどな」


 下卑た笑いを浮かべ、前時代的な不良と呼ばれる格好をしている男達に彼は取り囲んでいた。

 つい昨日、所持していたお金のほとんどを彼らに奪われたので、彼らに渡すような物はもう何も無い。

 もともと、彼らに渡すようなお金はないのだが、彼らの方が、自分よりも才能も実力がある為に、結果的に奪われている。

 お金がない以上、彼らからはもれなく暴力をプレゼントされる未来が目に見えている。

 自分に掛かるダメージを抑える魔導をしようしても、防御貫通の魔導を得意とする彼らには意味がない。

 流石に彼らも、目立つような怪我をさせて教師陣にバレる事を恐れているのか、ギリギリのラインで押さえているのが不幸中の幸いか。






 薄暗い校舎裏。

 構造上何処かしら、こう言った薄暗い空間は出来てしまい、そこにアウトローを装う者達が集まり、自分達の陣地のようなものを形成する。

 この場所もそうだった。


「オラッ!!」


 ここにつき従うように着いていき、到着するなり振り上げる動作からのアッパーで彼の顎を打ち抜く。

 不意打ちであった為に、それを防御する暇もなく、一瞬の浮遊感と共に地面にみっともなく転がる。

 舌を噛まなかっただけ良かったが、背中から落ちたので肺から空気を押しだされる。

 せき込み呼吸がままならないにもかかわらず、彼らは子供のボール遊びの感覚で彼を蹴り始める。

 反射的に身体を丸めるもそれが逆効果になるとは思いせずに、蹴る力が強まる。

 ボール遊びからサッカーにでも変わったのかもしれない。


「ほら、パス」


 ポケットからCTを取り出し、脚力を強化してから彼を蹴り始めたお陰で、彼は完全にボールと同じ状態となり、彼らが飽きるまでされるがままとなるしかなかった。

 予鈴が鳴った所で彼らの暴力(ボール遊び)は終了し、そそくさと教室へ戻って行ってしまう。

 手足を投げ出し、懐から自分のCTを取り出すと、怪我の個所の手当てを行う。

 治療が完了する前に本鈴がなってしまったが、そのまま治療を続ける。

 途中で終わらせたとしても、全身の鈍痛の所為で授業が満足に聞けるとは思えない。







「なんで、お前授業でなかったんだ?

 その所為で、俺達がいじめたみたいな目で見られたんだぜ?

 それで俺達の素行に問題あるって先生方に見られたらどうするんだよ?

 その責任お前取れるわけ?」


 その日の放課後、他のクラスのHRも終わり、生徒のほとんどが校舎内から出ていった時間帯に彼は、男達に囲まれていた。

 格好はともかく、教師陣から信頼されていた事実がほんの少し揺らいでしまった事に対しての憂さ晴らしがしたいのが見ただけですぐに分かってしまった。

 そして、これからの暴力は今までものとは比較にならないと容易に予想出来てしまう。

 それだけで身体が縮こまる。

 意味もなく指の関節に溜まった空気を鳴らす。

 今までそんなそぶりをしなかったので、その音で全身の硬直がほんの少しだけ解ける。

 それでも未だに危険な状態である事は変わらない。


 何かないかとポケットを上から触ると、昨日拾った(・・・)CT。

 どうしてなのか分からないが、それが今の現状をひっくり返してくれるものだと本能的に分かる、分かってしまう。

 そこにどんな魔導式が記録されているが分からないが、ただ、ひたすらに魔力を精製し、それに流し込む。

 それだけではCTは起動せず、正確には起動待機状態でしかないのだが、これは何故か魔導が起動している。


 気分が高揚し、自分の周りにいる生ゴミ(・・・・)を処分しなければならないように思えてくる。

 いや、そうしなくてはならないという使命感だろうか。 この際、そんな瑣末な事はどうでもいい。

 目の前の生ゴミを処分さえできれば。 

誤字脱字がありましたらご連絡下さい。


読んで下さり有難うございます。


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