Phase.3-6
自習時間と言う名の休み時間を終了するチャイムがスピーカーから鳴り響き、教室にいた生徒は一度時計に視線を移すと、特に気にした様子もなく友人達との会話に意識を戻す。
やはり、本当の休み時間だからか、心なしか声のボリュームが上がっているような気がする。
「さっきの言葉の意味を説明してくれないか」
鏡介が席に着くと、彼を律義に待っていたのか、陽は机を叩き、鏡介を睨みつける。
さっきの言葉というと、目を付けられた事だろうか。
自分でも目を付けられた明確な理由は知らない。
強者は強者を知る、もしくは、自身の入学の際の不正がばれかかっているので神哉にマークを付けるようにさせたのか。
前者ならば、自分は少なくとも、彼のお眼鏡に適うような強者ではないと思っているし、後者の不正に関しては自分が行った訳ではないので、どうするべきか、自分では判断出来ない。
「言葉以上の意味はないと思うがな」
本心を告げると、彼は再度鏡介の机―正確に言えば、今回は閉じられたノートパソコン―を叩く。
普通に使っている分には発生しない軋むような音がパソコンから響き、少しばかり机が沈んだかように鏡介は見えた。
「なんで、お前が目を付けられるんだ?
生徒会長の目は腐っているな。
ボクのような天才にこそその席はあるべきなのだ」
少なくとも、お前よりは相応しいよ。
目で訴えても、それは伝わらない。
ただ単に鈍いのか、それとも気付かないフリをしているのか。
「なんだ、その目は。
ボクの言っている事が間違っているとでも?」
自分を天才だと思い込んでいる人物と、自分が天才であると自覚している人物は人として面倒くさいのは何故だろうか?
鏡介には理解出来ない世界だ。
溜め息を小さく漏らす。
「お前が入れるのであるなら、ボクでも入れるな」
そんなふざけた事を平気で言える彼の精神を疑ってしまう。
鏡介も出来るならば、誰かに変わってもらいたい。
だが、あの神哉の事だ、既に自分の生徒会へ入る為の書類は教師側に提出されていることだろう。
今から職員室に行って取り消して貰うにも、自分がそういう行動をとると見越して動いていると思えるので諦めの溜め息を吐くしかない。
「何で、何でボクが生徒会に入れず、その下の執行部にしか所属出来ないんだ?
白銀のような大した力もない奴よりもボクの方が上手くやれるはずなんだ!」
放課後、教室を出るなり、生徒会室へ足を運んだ陽だったが、あっけなく撃沈した。
「何だ貴様、俺様に何の用だ?」
「ボクを生徒会に入れて欲しい」
ほう。
神哉が言葉を漏らし、目の前の陽を奴隷を見るような目で眺め、一言、
「貴様は生徒会よりも雑用である執行部の方がお似合いだ」
生徒会では処理しきれない業務や雑用といった細々とした仕事を追っているのが、有志で形成された生徒会執行部という部活が存在するが、基本的に生徒会役員は、完全に便利な雑用としか見ていない。
しかし、教師受けがいいので、成績等のボーナスを目当てに入る者も多くない。
それでも今年の執行部の人数は過去最低である。
ある意味思い込みの部類ではある。
あの人に任せておけば問題ない。
そんな考えが他の生徒にはあった。
故に入部希望者は過去最低になったと考えられている。
元々執行部の部員は神哉の為人を知っている者も多かったので、彼が生徒会長になったと同時に退部届を提出らしい。
その人物も彼の万能さは認めているようで、選挙時の投票は彼に入れているというのが何とも言えない。
「ボクと同じ天才とされながら、見る目が無い」
そう吐き捨てて、陽は生徒会に背を向ける。
誰が同じ天才だ。
目の前から消えていった陽の背中に呟くように言葉をぶつけるが、自称天才には届かない。
「世の中にはナルシストと言うものがいるのですね。
私は始めてみましたね。
それに天才ではありませんでしたし」
神哉程でもないにしろ、天才と呼ばれてもおかしくない真琴は自身の席でいなくなった執行部が行うはずであった書類に目を通しながら、神哉に話しかけていた。
返事は返ってきてくるとは思わないので、ほとんど独り言のようなものだ。
「たまにはいいのではないか、この俺様に盾突く人物がいても」
本当ならば、腸が煮え繰り返りそうなのだが、まれにない機会なのでそれを楽しもうと思っているので、無理矢理怒りを押さえている感が声に含まれていると長年付き合って来た経験で理解出来る。
これ以上は何も言わない方が良いだろうと思い、書類作業に意識を集中させる。
その間、神哉は椅子の上でふんぞり返って何もしていない。
「やっと来たか。俺様を待たせるとは言い度胸だな」
「ここまでわざわざ、来てやったことに感謝しろよ」
本当の事を言えば、鏡介に来る気はなかった。
HR終了後の放課後に生徒の呼び出しさえなければ。
向かう途中、生徒会に呼び出される程の事をしたのではないかと、いらぬ憶測が彼の与り知らぬ所で立ち、彼の姿を見た生徒は後ろ指を指し、内心でほくそ笑む。
彼の姿が見えなくなった所で、自分達も移動しようとすると、動かない。
足が縫い付けられているかのように、床から靴底が離れない。
慌てて下を見ると、床から氷が生え、足を綺麗に包み込んでいた。
自然と冷たくないので今の今まで気付く事はなかった。
「嘘だろ?」
言葉に出すことで動揺を抑えようとしても、実際氷に包まれた足を動かす事は出来ない。
力尽くで破壊しようにもビクともせず、心なしか氷と空気の境界が上がって来ている。
「―――!?」
声にならない叫びを上げ、その者達は自らの意志とは関係なく意識を手放すはめになった。
その後、何もない所で発見された生徒は氷漬けにされたとかなんとかとうわ言を呟いていたと言う。
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