Phase.3-2
「これから、先程行われた生徒風紀委員会選挙の投票結果を報告します」
教室に備え付けられたスピーカーから、演説の司会進行をしていた生徒の声が聞こえてくる。
自然と教室内の生徒はそこから聞こえてくる結果を聞く為に友人同士の会話を止め聞きいる。
結果が分かっているはずなのに、何故こうもわざわざ聞きたがるのか、鏡介には理解出来ない。
そもそも、選挙と言ってもその人物を信任するか、不信任するかの二択なのだ、競争ではない。
「生徒風紀委員会会長職立候補、神崎 神哉。
投票率は100%、無効票はなし、不信任票は一名、よって信任」
不信任の票が一つしかない結果は生徒全員に動揺を与える。
普通ならば、御遊びもしくはその人物が嫌いと言った個人的な理由である為、そこまで不信任への投票はない。
不信任票を入れた鏡介はこれは自分に対する挑発なのだと考え、いずれ何らかのアクションがあるであろうと長年の経験から予測し、警戒心を高める。
不信任票をいれた奴―人―誰だろう?
そんな会話が周りから流れ始め、静かだった教室を賑わらせる。
スピーカーから流れだす結果を知らせる内容は誰の耳にも届かずただのBGMに成り果てている。
担任もその不信任に投票を入れた人物が気になるのか、放送を最後まで聞けとは言わずに生徒の会話の方に聞き耳を立てている。
放送が終了した事にも気付かず、会話は弾む。
HR終了のチャイムが鳴ることでそれはいったん終了し、担任が簡単な連絡をし、解散すると中断していた会話が再会する。
中には部活動で途中で切り上げる生徒はもっと話していたいと言う顔をして、鞄を持ちあげる。
そういった活動をしていない鏡介はその中に入ることなく一人で教室を出る。
昇降口までの道のりで会話していた生徒の話題は生徒会長の不信任を入れた一人の人間で持ちきりであった。
確かに不信任にいれたのは鏡介であるが、誰も彼に対して何も思わなかったのかと考えざるを得ない。
中には誰でも良いと言う考えで信任の票を入れた生徒もいるかもしれない。
彼にはあの男は自分の別の側面を垣間見られたような気がして、あくまで自分を守る為に信任しなかったのだ。
昼休み。
鏡介は食堂にいた。
黒い木目が印象的なプラスチックのトレーを持ち、その上にカルボナーラが盛りつけられた皿が載っている。
それを選んだのはパスタのコーナーには人が少なかった為だ。
この学園の学食は量も多く、値段も安く、何より美味しいという贅沢極まりない三拍子が揃っている。
それ故に常にこの学食には昼食時には生徒教職員が一斉に集まる。
出遅れしてしまうと、何も食べる事なく午後の授業を迎えることもあるそうだ。
ちゃんと食料を調達出来たはいいが、今度は食べる場所がない。
一応所々空いているのだが、少し観察してみると仲間内で食べる為に席を前もって確保しているのがほとんどである。
仲良く食事を取ることのない彼にとっては未だに良く分からない感覚なのだが、そういうものだと無理矢理納得している。
学食の外で食べる事が出来れば、そうしているのだが、認可された場所以外での食事は校則で禁止されており、違反した場合、何らかの処分が下されるので、目立つ事は避けたい。
トレーを持ちながら席を求めて食堂を行ったり来たりする彼の光景は滑稽だったかもしれない。
三階席の隅の方が空いているのを見つけ、誰かが座る前に自身がそこにトレーを置く。
置く時に少し強くしてしまった所為かフォークが跳ねる。
床に落ちる前にそれを掴み、自分も席に座る。
少し冷めてしまったが気にすることなくパスタをフォークに巻き付け、口に運ぶ。
ブラックペッパーの香りが鼻孔を突き抜けるが、彼にとって食事とはただの栄養補給の行為でしかないのでそんな事を気にせず、黙々とパスタを口に運ぶ。
半分程平らげた所で自分に向かってくる人の気配を感じ取り、パスタをフォークに巻きつける動作を中断する。
中途半端に巻かれたパスタは、フォークからずり落ちて皿の上である程度の形を保ったまま崩れてしまう。
人が自分の後ろに立つ前に後ろを振り向く。
「なんだ、井上か」
まさか気付かれるとは思わなかったのか少し驚いた顔をして一歩後ずさる。
しかし、服の裾を強く握り、彼の目を見る。
「あの、その、白銀君を探してる人がいるんだけど」
何故、自分で探さずに人を使うのかとそんな疑問が浮かぶが、自分に用があるというだけで、ある程度そんな事をする人物に心当たりが出来る。
だが、一応誰が探しているのか事務的に聞いておく。
佐々木 真琴と言うらしいが、全く覚えがない。
そんな様子に栞もやや呆れ気味に生徒会副会長だよと付け加える。
そんな奴いたか…いや、選挙の時に自分の事を見ていた女性がいた気がする。
それが彼女ならば、探す理由にも当たりが付くと言うか確定する。
「それは良いとして、俺を探す理由でもあったのか?」
「え、ううん、ここに来る途中でその人にあって、探して、自分の前に連れて来いって言われて」
それを聞き、少し冷めたパスタに向かい、フォークを使い麺を口に運ぶ。
先程とは違い、口に運ぶ速度が早食いのものと同等もしくはそれ以上ものとなり、すぐに皿の上には何も残らなかった。
あまりの早技に茫然と見入る彼女を何時まで見ている積もりなのかと横目で見ながら戻し口へトレーを乗せる。
固まっているようにも見えたので、座っていた席に行くと、特に何もする訳でもなく未だに突っ立っている。
「当の本人は何処にいるんだ?」
身体中にバネを上手に利用し、立ったまま上へ垂直飛びで彼女は自身の驚きを表した。
彼からすれば何をしてるのかと疑問に思うところだ。
彼女が言うには自分が声を掛けられたのは食堂を入る前の渡り廊下だけれども、今もそこにいるかまでは分からないらしい。
どうせ自分にとって、ロクな話ではないと分かってしまうので待たせても問題はないと自分勝手に判断し取り敢えず、渡り廊下の方へ歩を進めた。
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