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Gift  作者: 如月双
Phase.3 生徒会編
29/77

Phase.3-1

 長い、意味不明、結局何が言いたかったのか鏡介には理解出来なかった。

 正直に言えば、最初の方で聞くのを止め、退屈なBGMとして捉えていた。

 わざわざ難しい言葉、普段使わないような特殊な言葉を持ってきたのは何故なのだろうか。

 正直内容を全て理解できたものはごく少数であろうと彼は視界の中に入っていた生徒の後ろ姿からそう判断した。


 中には内容を全て理解出来た強者(つわもの)もいたらしい。

 理解した所を見れば、学者や俗に言う専門家を目指す人だろうか。

 典型的な、学問にしか興味のない人物にも見て取れる。


「以上だ」


 そう言い放ち、神崎 神哉は壇上の台から一歩下がる。

 そうして自意識過剰とも取られても仕方ないのだが、壇上の神哉からの冷たい視線を感じると、彼への投票を不信任へと決めた。

 それを顔に出した積もりはなかったのだが、そうするのが壇上の神哉には理解出来た様で冷たい笑みを彼に送る。






 その場で、投票用のデータがCTに送信され、信任、もしくは不信任のチェック欄を記入し返信する。

 それだけで、まず会長職の神崎 神哉については一区切りとなる。

 次に出てきたのは女性としては背の高い方だと思われる人物。


 肩にかかる黒い髪に普通の感覚であれば、誰でも目を奪われてしまうような顔立ち、スラリとした手足に男子生徒は心を奪われていた。

 礼を一度し、壇上のマイクに近付き予め考え、暗記した原稿を話し始める。

 その言葉は彼女の本心を表しているような声色に心を奪われた男子生徒、尊敬にも似た感情で見つめる女子生徒はしっかりと耳を傾けるが、そんな事に興味のない、やはり鏡介はただ聞き流していた。

 いくら生徒会が校内における学園生活を充実させてくれたとしても、実際に生活するのは結局のところ自分自身なのだから、と考えた結果、そうしていた。

 それに、綺麗なバラには刺があるような、彼女の裏の側面のようなものを声から感じ取り、女って怖いなと改めて思う。

 その頃、仕事中の凛が小さくくしゃみをしたのは別の話。


 あの少年が…


 考えておいた演説文の冒頭を読みながら、生徒の顔を見渡しつつ、神哉が通信で話していた興味深い少年を確認する。

 確かに何処か違和感のような物を感じる。

 どちらかと言えば歯に何かが挟まったかのような異物感。

 纏っている雰囲気が周りと明らかに異なる。

 何故周りの人たちはそれに気付かないのか。

 いや、気付けないのか。


 見た所隠しているとは思えない。

 とすれば、それに気付くだけの才能がないのか。

 自分の考えが正しければ恐らくは後者だ。

 それはともかく、何故彼は自分の演説を聞こうとしていないのかが疑問である。

 確かに聞いてはいるであろうが、聞き流しているようにも取れる。


 自分のだけを聞かないのはまだ許せるが、あの態度では恐らく神哉の演説も聞いていないだろう。

 それだけは許すわけにはいかない。

 

 制服の袖に細工して仕舞ってあるCTを取り出す為の仕掛けを起動する動作をしようと手首を僅かに上げると、


『お前の行動は嬉しく思うが、今はじっと耐えろ。

 それにそんな事をすれば、お前への票が無くなる、それは困るからな』


 頭の中に直接響く最愛の人の声で彼女は思い留まる。

 彼の制止がなければ短絡的な行動を取っていた事だろう。

 とは言え、鏡介にそれが通用するかどうかまでは分からないが。


 鏡介への意識を消し、真正面を向いて最後の一言を告げ、自身の演説を締めくくる。

 一歩下がり、礼をするとそそくさと自分の割り当てられた席へ向かう。


 そこで先程と同様に各生徒に投票データが送信され各々が記入を始める。

 どうしたって当選確実ではあるのだが、信任票が自分に集まるのか不安になってしまう。

 分かっていても、そう考えるのを止められない。


 全生徒からの投票が確認されたようで、アナウンスの後に各クラスから講堂を退出していく。

 生徒が全員退出して選挙管理委員と教師が数人残っているのを確認し、肩の力を抜く。

 彼女―佐々木 真琴を天才と呼ぶ者は多いが、実際は秀才であると本人は自覚している。

 本物の天才である神崎 神哉と比べてしまうと自分は霞んで見えてしまうと彼女は言う。

 その神哉とは婚約者という関係であるが、彼女は彼との結婚を望んでおり普段から彼の側にいるに相応しい人間として努力している。

 だからこそ彼女は不本意ながらもう一人の天才として学園に名を轟かせている。


「どうかしたか、真琴?」


 安堵するように小さく息を吐く彼女の姿を見たのか、天才が声を掛けてくる。

 彼に余計な心配を掛けてしまったことを恥じながらも、終わってホッとしたからだと彼に告げる。


「何を言っている、もう結果は見えてるのだ、安堵する必要なんてない」


 そうは言われても、自分は彼ではないので、彼の様には考えられない。

 それさえも彼女にとっては羨ましく、眩しく見える。


 時間を見計らい、彼らは集計結果が放送される前に選挙管理委員の集まる空き教室に向かい、勢いよくドアを開く。

 勢いが強すぎて、大きな音を立てて枠から外れ、教室の方へ倒れまた大きな音を立てる。

 その光景に視線を向けることなく、真っ先に結果を纏める委員長の襟首をつかみ、集計結果の映るパソコンの画面を覗き込む。


 もう、真琴は彼の無理矢理の行動にやや呆れているものの、それを止める気はないようだ。

 委員長はそのまま投げ飛ばされ教室の壁にぶつかり、それと服を擦り合わせながら、ゆっくりとリノリウムの床に落ちて行く。

 さながらの暴君。

 それを止める者はこの教室の中には存在しない。

 止められないのではなく、止まらないと表現した方が正確かもしれない。


「フッ」


 鼻で笑う。

 画面を覗き込んだ彼の顔は、何か楽しいものでも見つけた子供の様な笑みを浮かべているが、真琴にはそれが彼の堪忍袋が切れそうになっているものだと長年連れ添ってきた経験からすぐに判断出来た。

 どうすれば機嫌が良くなるのか。

 自身の身体を差し出すか。

 いや、それで機嫌が直るかまでは分からない。

 機嫌が良くなるとは思うのだが、その時の彼はとにかく激しい。

 その激しさに自分の理性は保ているのだろうか、そこが心配である。


 嫌な笑みは教室を後にしても続く。

 自分の教室に帰ると思いきや、別の方向へ足先を向け歩き始める。

 何処に向かうのかと彼の後を追いながら進むと、階を降りる事である程度絞り込め、目的の階層でそれ以上降りようとしなかったので、目的地はこれから選挙結果を放送する為の放送室だった。


 扉に手を掛けるとまだ誰も来ていないようで鍵は閉まったまま。

 そこに放送する内容を記したプリントを持った実行委員が現れた。

誤字脱字がありましたらご連絡下さい。

読んで下さり有難う御座います。

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