Phase.3-0
グループ毎に目的地が異なり、そこまでの道のりの難度も異なっていたと思われるが、聞こえてくるその時の状況の友人同士の会話から鏡介達のグループが最も過酷であったらしい。
勿論、他のグループも死ぬかもしれないという恐怖に陥った事があるのかもしれない。
しかし、良くて絶叫マシーン程、悪くて凶暴な原住生物に襲われた、と言った具合だ。
流石に騎士の領域に踏み込んだという話は聞こえてこない。
むしろ、聞こえてきた時点で、オリエンテーションに参加した生徒の数人が永遠の眠りに旅立っているであろう。
誰かの話した言葉を聞いている時点で鏡介は、このクラスでの二人いる部外者になっていた。
いじめられると言うものではない。
ただ、誰もが近寄りがたいというか、友人達との談笑をわざわざ割いてまで彼と話したいと思っている訳ではないのだ。
特に鏡介自身も気にしていない。
もう一人の方は、貧乏ゆすりをしながら、分厚い本を読んでいる。
傍から見れば、誰かに話しかけてもらいたいとしか見えないが、鏡介以上に好き好んで話したいとは思えないのだ。
教室の扉が、開き哀愁漂う担任教師がいつも通りのペースで教卓の上に立つ。
すると、タイミングを見計らったように始業のチャイムが鳴り、黒板に記された日直が号令をかける。
「皆さん、おはようございます。
久しぶりです。
今年も誰一人欠ける事がなかったのは嬉しく思います。
皆さん、オリエンテーションはどうでしたか?」
何時になく饒舌の多田野の言葉に鏡介は反応してしまう。
今年もと言う事は誰かが死ぬという事故が遭ったこと他ならない。
それがなかったと言う事は、やはり喜ぶべきことなのだろう。
しかし、そんな事が遭ったのであれば、オリエンテーションそのものが自粛されるのではないか、と考えるが、魔導を学ぶ上で危険は付き物でありそしてヘタをすれば死ぬこともある。
そう考えれば、自粛まではいかないのだろうと思う。
「さて、話は変わりますが、来週の頭辺りから生徒会選挙活動が始まります。
まだ、皆さんは1年なので関係はありませんが、その活動が始まる事を頭に入れておいて下さい」
生徒風紀委員会―通称生徒会と呼ばれている、普通の学校の生徒会と風紀委員会を合体させたような生徒の集まりである。
これに参加するというのはこの学園において、一種のステータスである。
しかし、それでも参加を希望する生徒の数は多くない。
座学、実技共に優秀且つ生活態度が良いという条件で参加が出来ると言ういつの間にか存在している生徒会への参加の条件が生徒の参加を阻んでいる。
少しでも素行が悪いと、投票する生徒がその人物への票を拒んでしまう。
その為、大抵は生徒会会長と副会長辺りしか決まらないので救済処置として、会長職に無事就任された生徒が、自分で役員を選ぶ事が出来るようになっている。
むしろ、その方法で選ばれる可能性に掛ける生徒の方が実際は多い。
故に立候補者もしくは推薦された者と親しい関係になる事を画策する方が楽だからというのが大抵の理由だ。
だからと言って自分が選ばれるとは限らないので友人同士の水面下での抗争が勃発しているのも事実である。
勿論そんな事に興味のない鏡介は外を眺めている。
中には立候補しようかと友人と話す者も少なからず存在する。
教師の話によると立候補自体は1年生でも可能なのだが、調子に乗っていると上級生に思われがちになるので当選率がガクンと下がる。
「フッ」
鼻を鳴らす陽はもう自分が当選したかのようなオーラを放っているが相手にする様なモノ好きはこのクラスには存在しないので誰も相手にしてくれない。
一種のイジメではあるが、彼自身は自分に他の人物が嫉妬していると言う自分にとても都合のよい解釈をしているので気にする様子もない。
果たしてそれでいいのか問題ではあるが。
そして一週間が過ぎ、生徒全員が収容出来る程の広さを誇る行動で生徒会会長に立候補した神崎 神哉が壇上に上がる。
「引退した先輩方、お初にお目にかかる一年、そして俺様を知らないはずのない同級生諸君、俺様が生徒会会長に立候補した神崎 神哉だ。
いや、立候補ではないな。
これは既に決まっていた事であり、今、諸君らを見下ろしているのは単なる俺様の顔見せに過ぎない。
信任投票と言う形を取る必要は本来はないはずなのだが、この学園の規則である為にやっているに過ぎない。
だからと言って、俺様に投票しないという愚行をする者はいないと俺様は信じている。
これは決定事項、規定事項でしかないのだ。
しかし、そんな事を言っても詰まらないも確かだ。
だが、何故俺様以外に会長職の立候補者がいないのだ。
俺様の記憶が確かなら、一年に会長職の立候補者がいたはずだが、何故そいつを出さない。
…なるほど、一年には会長職に立候補出来ないということか、済まない、その事を調べ忘れていた。
わざわざ、済まないな。
ふむ、どうやら一年の中にこの俺様のありがたい話を聞いていない不逞の輩がいるようだな」
講堂の椅子に座り欠伸をしていた鏡介は、神哉の発言にほんの少し眉を動かす。
顔を上げると何百人にもいる中、聞いていない自分をその見下すような、強い視線で彼を貫く。
その強い視線に怯える事はないものの、自然と警戒心が高まっていくのを感じる。
アレは天才と呼べるような、そんな雰囲気が彼にはある。
自分のような紛い物ではなく、陽のような味噌っかすでもない。
出来ない事はないと言っても過言にならないようなそんな雰囲気。
だからこそ、鏡介は彼の言う愚行を犯す。
例え、鏡介が不信任に投票したとしても他の人物は勝手に信任へ投票し彼の当選は決まるであろう。
だが、神哉は一目見ただけで彼が愚行を犯すと踏んでいた。
雰囲気が他の生徒や教師達と異なっているのが見ただけで分かったのだ。
ある意味それは勘と言っても過言ではないが、確証もなしにそうだと確信出来るのだ。
彼は他の生徒とは違う、どちらかと言えば、救護教師のような。
本音を言えば、薄気味悪い。
自分が天才であるから、他者の才能が自然と見えてくる。
だが、彼の才能は目を見張るものではない。
確かに高いとは思うのだが。
例を上げるとしたら、五輪や世界大会に出場出来るものの活躍までは出来ないような、そんな中途半端な才能。
だからこそ、恐ろしく感じる。
彼を見下しながら、背中を流れる一滴の冷や汗を感じながら自身の演説を続けていた。
最近忙しかったので、更新遅れてすみません。
読んでいただき有難うございました。




