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Gift  作者: 如月双
Phase.1 入学編
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Phase.1-0

拙い作品ですが宜しくお願いします。

 空は厚く覆われた雲によって灰色に染まっている。

 ここ国立月宮学園高等部の入学式という日にはまったくもって相応しくない天候だと、そんな風に思うものは誰もがそう思っていた。

 式辞の冒頭部が『麗らかな陽気が~』とアドリブを利かせずにそのまま原稿を読み、窓の外から見える灰色の現実とのギャップを心の中で嘆く者も少なくなかった。


 少年の周りでは、船を漕ぐ者や、携帯端末を弄る者、真面目に話を聞く者、隣席の縁から小さな声で会話する者がいた。それらについては少年も同意を得られるものだった。

 まず話が長い。無駄なくらい物事を婉曲的に、そして学者などが喜びそうな専門用語を並べている。半分以上が内容を理解していないだろう。壇上にいる学校関係者は、内容が素晴らしいと何度も頷いているが、これから学ぶ―進路によっては学ばないかもしれないが―ような生徒にはどんな拷問よりも辛いかもしれない。微かに遥か後方から寝息のようなものが聞こえるのは聞き間違いではない。いくらお目出度い席とはいえ、簡潔に済ませば十分も満たない内容に、これほどまで時間を裂く必要はるのだろうか。


 少年を始めとした新入生は次々と自身の感覚に引っかかった事象に顔を上げる。彼は嫌な趣味だと壇上のお偉いさんを軽蔑の意味を含め睨んだ。寝ているなど、自身の話を聞いていない生徒に気付いたのだろう、普通ならこの場では使うことの憚れるものに手を出し、無理に自身の有難い話を聞かせる暴挙に出た。それが悪いとは言わないが、何度も同じことを言っている彼にも非があるのだが。


 予定を大幅に遅らせ終了した時には既に日はもっとも高い所を通過しており、各教職員は色々焦った様子で生徒を校舎の方へ促している。


 西洋風の校舎を始めとする学園一帯の敷地はある意味で日本という極東の島国にいながら何処か知らない別の国や地域に自分がいるのではないかと錯覚してしまう。何処か古く新しい造形は世間や海外の評価も厚いが、その造形こそがそう見せていることに気付くものは多くない。


「…気味が悪い」


 顔の作りは優男に見えるが何処か擦れて事象を俯瞰しているような鋭い眼が、優男ではなく俗に言う不良―何をもって“不”良なのか分からないが―に見せている。それ故か彼の周りには空間(スペース)が開いている。彼は別に他人を拒絶している訳ではない。ただ彼の雰囲気が他人を近寄りがたいと周りが勝手に認識している。


 彼―白銀 鏡介は自身がこれから1年間使う教室へ向かう隊列の一番後ろで蚊の鳴くような声で呟く。今、目に映る全てを否定したくなるような光景が続く通路は、いるだけで気分が悪くなる。


「凄い」だの「綺麗」だの無意識に思った―思わされた―ことを言う他の生徒の口を短絡的にふうじたいとさえ思ってしまう。しかし、ここは昔生きていた―きた―世界とは正反対の世界、行動に移すことは出来ない。


 講堂や造形から、教室も同じような作りであったらどうしようかと無意識に身構えていたが、教室そのものは昔見たものとあまり変わらなかった。とはいえ、過去の教室は無残に破壊されているものであるが。どうやら、無意識にこの校舎は内装も素晴らしいと外見の構造から擦りこむようだ。


「え~皆さん入学おめでとうございます。

 え~私がこのクラスの担任の多田野 仁志です。取り敢えず1年間宜しくお願いします」


 見た目で人を判断するのは失礼に値するのだが、これ程まで見た目で人が判断出来る容姿の人間を1-Aの生徒は初めて見た驚きで教室は静まり返っていた。

 そんな反応をするのが分かっているようで、多田野は教卓の上に置いた自身の鞄からプリントの束を取り出し配り始めた。


「え~皆さん今日は今配布したプリントを受け取ったら順に解散しても構いません。明日の始業式までに登校していただければ」


 そのまま彼は教室を後にする。哀愁漂う声色と背中に誰もが動けず、退室後回復した生徒から1人また1人と教室を後にした。










「どうだった、初めての学校は?」


 小奇麗なダイニングテーブルを挟みで鏡介と天野 凛は座っていた。


「姉さん、これは?」


「どうだった?」


 目の前にある光沢を放つ白米の後方に位置する皿を恐る恐る指差しても、こちらの質問は聞こえていないように振舞われる。どうやら自分でも分かっているようだ。先程から白米のみを口に運んでいる。一応一般家庭の女を目指して料理に挑戦してみたが満足に出来たのは、炊飯器という文明の利器を利用し炊いた白米と、塩で味をつけたスープもどき。キッチンを遠目に眺めれば、料理をしたというより、何かを生み出したと言えるような惨状がそこにはあった。凛自身が目を背けたくなる理由も分かってしまう。ならば、弟としてこれ以上は何も言うまい。

 気を取り直して先の質問に答えようと、口を開くも今日は入学式だけだったので感想も何もない。


「そうだな… 周りは(だる)そうだったかな」


 自分ではなく、あくまで他人の反応を答えておく。素直に分からない。と答えても良かったのだが、彼女の目が妙に優しげだったのでそう答えるのを自分の中の何かが憚った。


「そういう姉さんこそどうだったんだよ」


「私? 顔を見るなり、明らかなヅラのジジイが私をエロい目で見てきたね。視線が胸の辺りに行ったときに残念そうな顔してたのは印象的だったな。それって酷いとは思わない?」


 自分の姉がそんな“どうでもいい”個体差を気にした素振りに思わず目を細め、しばらく見ないふりをしていたモザイクをかけても問題なさそうな何かに視線を移した。

誤字脱字などがありましたらご連絡下さい。

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