Prologue
拙い文章ですが宜しくお願いします。
そこは何処までも暗い世界だった。
少年が寄り掛かっているのは、文明の象徴とも言える高層ビルだった物の一部。壁から伝わる衝撃でこれも長くは保たないと経験から理解出来た。しかし、今飛び出せば防ぎきれなかった弾丸が自身を貫き、肉塊へと変えてしまう。音と衝撃から相手の大まかな位置と残弾数を見極めることに意識を裂く。
小さく深呼吸し、彼から見て右側に視線を移すと同じく向かいのビルであった物の影で女性が頷く。成長途中の少年の手には少々大き過ぎる、黒光りするそれは殺しの道具。
3、2、1。
背中からの衝撃が止むと同時に二人は瓦礫の散乱するアスファルトに躍り出、引き金を何度か引く。微かな呻きと鉛ではない鉄の香が風に乗り二人に届く。これでこの辺りは完全に制圧出来たであろう。
「姉さん、この辺りを制圧する必要あったの?」
念の為警戒を解かずに歩く二人はまだ若い。殺した敵の武器を回収しまだ使えるならば手持ちに、使えないガラクタなら今後の資金にすると彼女は言っていた。
現代風に着崩した上に彼女の手でアレンジした軍服に身を包んだ黒髪黒目の生粋の東洋人は辛うじて電源の生きていたホテルに入るなり呟くように問いかける。
「ううん、ないよ」
同じ東洋人はその疑問をあっさり否定した。
「勘違いしないで。確かにこの辺りを制圧する必要性は低いけど、国防軍がいるから意味がない訳ではないよ。だけど民軍にとっても意味は小さい。これには、二人にとって意味があるから。生き延びる為に、ね」
彼女の言い方では自分達は、恐らく死ぬことが近い未来に確定しているようにしか聞こえなかった。
「国防軍の防衛ラインが日に日に下がってきてる? このペースだとあと2、3日で最終防衛ラインに到達出来るか」
最前列で戦っている彼女は補給と言う名目で補給地点に戻り、仲間の武装と一緒に自身のを補給して指令室のテント前を通り過ぎようとしていた時に、自分の手を決して汚さず、私腹と脂肪を一緒に肥やす司令官の、彼女にとって気持ち悪い笑い声が耳に入って来た。
最悪と思いながらも、司令官の言っていた防衛ラインが下がっていることが気がかりになり、仕方なく、テントの中に入り、大きなテーブルの上に置いてある地図を覗き込んだ。
「もしかして誘われてる?」
自分が戦っている前線では民軍側が押しているようなことはない。なんとか均衡を保っているに過ぎないのだ。それはあくまで彼女が前線で戦っているときのことなのでもしかしたら、本当のことなのかもしれない。
しかし、彼女はそれを否定しか出来なかった。武器の数では圧倒的に負け。勝っているのは人の頭数だけ。酷い隊では、その辺の鉄パイプで敵を殴り殺し、武器を現地調達しなければならない。
経験から、誘われているとしか判断出来なかった。それをこの無能司令官は分かっていない。思わず舌打ちしようとしてしまうが意識的に止める。怒りを買えば腰か胸のホルスターから銃が抜かれ殺されるか、もしくは強姦されるかの二つだ。とはいえ、道連れになるだろうが。
「どうした天野、補給が済んだのなら早く戻れ、そして民軍の勝利を掴み取って来い」
後ろから声をかけられ、反射的に銃を抜きつつ振り向く。銃口は心臓の位置。引き金を引く前に指令室なのだからいるのは当たり前だと気付き、
「失礼、しました」
銃を下ろす。殺されると思ったのか司令官は恐怖で顔を歪まし、首のロケットらしきものを握っていた。どうやら彼にも家族らしき人達はいるらしい。
「ですが、女性に話掛けるときは、その人の視界に入ってからにした方が宜しいですよ。心を許していない男性から背中から近付くなり声をかけるのは警戒されるだけですから。私の場合、下手をすれば、引き金を引くかもしれないですよ」
「鏡介、戦場逃げるわよ」
「ああ…」
自分たちで設置したテントごと、国防軍の兵から奪った爆弾で破壊する。仲間も死んだ。生き残っているのは二人。しかし、それを示すデータは何処にもない。この戦いはこれから負け戦になる。より大きな暴力によって。民軍は殲滅される。そうすれば、二人が逃げたという事実がこの場所から消え去る。
二人は走り出す。目的地は取り敢えず東へ。先のことはこれから考えればいい。
ある意味止まっていた時間が動き出す。
日本某所。
「良いですか、御影。貴女はこの水瀬=L家の次期当主となる身。ですから勉学でトップになる必要はないのですよ。ただ貴女はこの家を継ぐ為の実力さえ身に付ければいのですよ」
幼い頃から聞かされた一語一句違わない母からの小言は、もうそらで言える。ただ、彼女―御影という個人ではなく水瀬=L家次期当主の御影としか扱っていないと言う意味にか彼女には届かない。
古いが取り柄の水瀬家に同じくLis家が結婚したことにより、この家は発展に繋がり、成金上がりの家と他の家に揶揄されてる。自分を自分として見てくれない家。そんな揶揄さえもっともらしい。御影はそんな風にしか捉えていなかった。
そして何より、彼女には実力がなかった。いくら座学の成績が良くても実力のない御影に誰も見向きもしてくれない。それは彼女の居場所さえ奪っていく。最近では実力のある者を養子に迎えようとする声さえも聞こえてくる。
「Access」
タロットカード程の大きさの薄い端末を前に繰り出すとそれに赤い線が幾つも走る。彼女から何かが吹き出し、敷き詰められた芝が揺れる。しかし、それ以上の現象は起きない。
「どうして私には才能がないんだろう?」
大きく溜息を漏らし、肩を落とす。何度繰り返しても結果は同じ。自分のやり方が間違っているのかもしれない。しかし、教師や友人のコツを聞いても何も改善しない。所詮は他人が自分にとってやりやすい方法でしかない。故にそれが御影にとってプラスに働くとは限らないのだ。
だからこそ、自分を信じる続ける以外に方法はない。家の人間が完全に御影を諦めるまで。それはそれで辛い話ではあるが。