1話 臨時収入 ・プレゼント
ギルドの受付嬢は、今日も書類や伝票の山に囲まれて忙しそうにしていた。
「ユウトさんティナさん、今日の物資運搬の手伝い、お願いできる?」
「おお、任せときや!」
俺は大きく返事しながら、ティナの方を見た。
ティナは肩に斧を担ぎ、静かにこちらを見つめるだけ。口数はほとんどない。
「…やる…」
「ほな、荷物はこっちの馬車に積むで。数は多いけど、二人なら大丈夫やろ」
受付嬢は荷物の一覧表を俺たちに渡す。
馬車の荷物は半分ほど積み終わり、俺たちは息を整えながら休憩がてら荷物の整理をしていた。
ティナが斧を肩にかけ直し、じっと俺を見つめる。
「…あの時…戦いで使ってた魔法…」
「ん?」
「…時を止めたり…敵の動きを遅らせてたやつ…あれ、何…?」
俺は箱の隙間に視線を落とし、軽く笑う。
「…なんや、そんなこと気にしてんのか?」
ティナは斧を握り直し、少しだけ目を細める。
「…気になる…」
俺は肩をすくめ、関西弁でごまかす。
「まあ…別に…教えんでもええけどな」
ティナは少し顔を傾け、疑わしそうにこちらを見つめる。
「…なんで…教えてくれないの…」
『…こいつ、まだ俺のこと全部信じてへんな…』
俺は心の中でそう思いながら、荷物の箱を手で押し直す。
「ほら、そんな深刻な顔せんでええって。俺の魔法は…便利やけど、使い方は…言うたら色々めんどいねん」
ティナは斧を肩に担ぎ直し、黙々と作業を再開する。
「…めんどい…か…」
そのわずかな言葉の裏に、怪しむ気持ちがにじんでいる。微かに眉をひそめたり目を泳がせたりすることで、疑念が読める。
俺はにやりと笑い、箱を整理しながら肩を軽く叩く。
「まあ…お前には、いずれ必要になったら教えたるわ。今は荷物積む方が先やろ?」
「…うん…」
ティナは短く答え、また黙々と作業に戻る。
少しバツが悪くなった俺は、冗談で口を滑らせた。
「まあ…※魔竜と戦うときには教えたるわ〜」
※(魔竜とは)ただの巨大な竜とは違い、自然界や魔法の力を異常に宿しており、一国を滅ぼすほどの戦力を持つ存在
ティナは一瞬、肩の斧を握り直して俺を見つめる。
「…魔竜…?」
「戦ったこと…あるの…?」
俺は思わず息を呑む。
『ま、まさかな…』
心の中で固まったまま、でも表情は平然を装う。
「…いや、まあ、話半分でええわ…今は荷物積む方が先やしな」
俺は心の中でそう自分に言い聞かせ、軽く肩をすくめた。
ティナは無表情のまま黙々と荷物を整理し、でも目はどこか遠くを見つめている。
『…あの子…一体どんな過去を背負っとるんや…』
疑念と興味が入り混じった思いを抱えつつ、俺は荷物を押し直す手を止めなかった。
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荷運びの作業を終え、ギルド受付嬢から報酬を受け取った俺とティナ。
「お疲れさん。今日はちゃんと馬車の荷物、全部運べたね」
「…当たり前…」
ティナは肩に斧を担ぎ、無表情のまま俺の隣に立つ。
俺は小さく笑いながら財布を取り出した。
『まあ、今日はティナに奢りたかっただけやけどな』
「ほな、せっかくの臨時収入やし、装備を見に行こか」
「…必要…?」
「せや、せっかくの収入やし。せやけど俺の金で買うんや」
ティナは斧を肩に担ぎ、黙って俺の後ろに付く。街の人混みに紛れると、まだ少し落ち着かない様子で目をきょろきょろと泳がせる。
露店に近づくと、俺は早速関西弁で値切り交渉。
「おばちゃん、このバッグ、ちょっと安うならへんか?」
「まあ…いいけど…」
「そやろ? ほな二つでこれくらいにしてくれや!」
おばちゃんは少し困った顔をしながらも、笑って折れてくれた。俺は上機嫌でバッグを受け取り、ティナに手渡す。
ティナは受け取り、ぎこちなく手で触れながらも荷物を肩にかけ直す。
「…使える…」
「せやろ、やっぱ俺の目利きやで」
商店街を歩いていると、街ゆく人々がちらりとティナを見て、小声で囁き合っている。
「…隻腕…」「村出身の変わり者らしい…」
俺の胸の中で怒りがじわりと湧き上がる。
『いやいや…なんで俺、ティナのことでマジメにキレとんやろ…』
でも目の前のティナを守るため、声を張った。
「おい、誰が何言おうと関係あらへん! ティナに口出すんやったら、俺を通ってからや!」
ティナは無表情のまま俺の後ろに立つが、わずかに目を細める。
「……」
何を思ったのか分からないが、ちらりと俺を見た。
俺は肩に軽く手を置き、ティナに小声でささやく。
「…ほら、もう大丈夫や。安心して歩けや」
「…うん…」
ティナは短く答え、また黙って俺の後ろを歩く。
街の雑踏は賑やかだが、俺たちの間には少しだけ静かな空気が流れた。
今日の臨時収入で買う装備は、ただの道具以上に、二人の距離を少し縮める時間になりそうだった。




