第6話 オーク討伐クエスト ・ギルド登録を終えて
森の奥深く、Cランクオークが縄張りを守るように立ちはだかる。
周囲の空気が一変し、森のざわめきも一瞬止まったかのように静まり返る。
「……やっぱり、簡単には行かんやろな」
俺は小声で呟きながら、斧を構えたティナを見つめる。
ティナは斧を肩に担ぎ、微動だにせずオークを見据える。
その赤い瞳は冷たく光り、まるで感情をほとんど表に出していない。
「まずは、俺の魔法をやな…っておい!!」
自分の支援魔法の詠唱をよそに、ティナは一瞬で敵の懐に潜り込み───────
斧を振り下ろす。
一撃でオークの腕が地面に叩きつけられ、次の一撃でその巨体はバランスを崩す。
あっという間に、圧倒的な力で戦場を支配していく。
俺は本来なら全力で支援魔法を使いたいところだが、ティナの動きを邪魔したくない。
ほんの少し、「筋力増強」の支援魔法を使うだけにとどめる。
オークの足が一瞬止まったその隙に、ティナはさらに斧を振る。
しかし、斧がトドメを狙う直前、ティナの目が僅かに揺れる。
オークが子供を背後に隠しているのを見つけたのだ。
その瞬間、幼い村で、守れなかった過去の光景がフラッシュバックする――
師匠の死、村人たちの悲鳴、あの時握った斧の感触……
一瞬の油断。
オークが反撃し、肩に一撃が入る。
「…ティナ!」
俺は慌てて「時空間」支援魔法を重ね、敵の動きをほんの一瞬だけ止める。
…出来ればこの魔法は使いたくなかった。
斧を握り直したティナは、わずかに息を整え、再び冷静を取り戻す。
斧が振り下ろされる。
オークの身体、そして子供ごと斧に巻き込まれて言った。
ティナは微動だにせず立ち、まるで戦闘前と同じ表情に戻る。
その様子を見ていたギルドマスターは、遠くから視線を細める。
「……あの動き……伝説の戦士の面影……間違いない……」
過去の英雄の影が、ティナの冷静かつ圧倒的な戦闘に重なった瞬間だった。
ティナは無表情で斧を肩にかける。
けれど、ほんの僅か――
過去の影を振り切るように、深呼吸しているのが分かった。
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ギルドに戻ると、マスターはにこやかにティナに向き直った。
「ティナ、君をEランク冒険者として正式に登録する。…おめでとう」
ティナは微動だにせず、淡々と答える。
「……わかりました」
「ユウト」
マスターは俺を見て言う。
「君も同行者として認められている」
「おおきに、任せときや」
⸻
その日の午後、俺たちは王都ブレイビアの商店街を歩いていた。
石畳に並ぶ店舗、魔法灯に照らされる人々、冒険者たちの活気――
まさに王都の喧騒と繁栄が混ざった通りだ。
「……いろんな店があるな」
ユウトは笑いながら、片手で地図を見つつ歩く。
ティナは、肩にかけた師匠の斧を軽く握りながら、静かに周囲を観察する。
人混みに慣れないのか、少し緊張した背筋のまま歩いている。
「よし、装備調達や。まず防具屋、次に薬屋、最後に武器屋やな」
「ティナ、何か欲しいもんあるか?」
「……別に」
ティナは斧を軽く肩で支えながら、淡々と答える。
商店街の喧騒にはまだ慣れていないようだ。
⸻
武器屋に着くと、俺は笑みを浮かべて言った。
「せっかくやし、お祝いに新しい斧、奢ったろか?」
ティナは肩で軽く斬るように返す。
「……いらない」
「え? どうして?」
「これは、私の斧だ」
肩にかけた斧を軽く叩く。
「師匠が、私に託したもの。替えは効かない」
俺は少し驚く。
「……そ、そうか。でも、金はあるし、祝いやからなぁ」
ティナは無表情で言う。
「……気持ちはありがたい。けど、譲れないものは譲れない」
ユウトは少し照れ笑いを浮かべつつ、頷く。
「わかったわかった……しゃあないな」
「そやけど、その師匠の斧、ほんまに大事にしてるな」
ティナは軽く斧を肩にかけ、頷くだけだった。
「……当たり前」
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その後も商店街を巡り、ティナは鎧や冒険用の小物を淡々と選ぶ。
ユウトはできるだけ軽口を交わして、彼女の緊張をほぐすように心掛ける。
石畳の上、二人の足音だけが響く――
王都ブレイビアの喧騒に紛れ、少しずつティナが俗世のリズムに馴染み始める瞬間だった。




