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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第1章 始まりの日
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第4話 初クエストクリア後



ギルドの扉を押し開けた瞬間、

聞き慣れた喧騒が、少しだけ歪んだ。


「……え?」


最初に声を漏らしたのは、

さっき注意してくれた受付嬢やった。


視線が、俺とティナの後ろ――

何も背負ってないことを確認して、

もう一度、俺たちの顔を見る。


「……ユウトさん?」


「ただいま」


依頼書を、カウンターに置く。


「ゴブリン討伐、終わりました」


受付嬢は、反射的に砂時計を見る。


落ち切ってない。

まだ半分も経ってへん。


「……あの」


声が、少し裏返る。


「この依頼、通常でも往復含めて三十分ほど……」


「せやな」


「それが……」


指が、震えながら砂時計を指す。


「十分……?」


周囲の冒険者たちが、ざわつき始めた。


「は?」

「今出てったばっかだろ」

「もう戻ってきたのか?」


「嘘だろ……」


「……ユウトだぞ」


その一言で、空気が一段変わる。


「ポーション卸してる、あの?」

「Cランクの?」

「前線出ねえのに?」


視線が、今度はティナに集まった。


白髪。

細い身体。

右腕のない斧使い。


さっきギルドを出ていった時と、

印象は何も変わってへん。


――それが、逆におかしい。


「……討伐証明は?」


受付嬢が、ようやく仕事に戻る。


「ほら」


俺は袋を差し出す。


中身を確認して、

受付嬢は一瞬、言葉を失った。


「……四体。

 すべて急所損壊……」


「追加で一体、逃げかけたのもおるけど」

「証明はこれだけで足りるやろ」


「……はい。十分です……」


ざわめきが、確信に変わる。


「Eランクだぞ……」

「どうやったらそんな速度になる……」


その時や。


「――面白いな」


低く、通る声。


人垣が、自然と割れた。


出てきたのは、

大柄な男。

年齢は四十前後。

上等な外套を羽織っとるが、

身体の作りは完全に前衛のそれ。


――ギルドマスターや。


ブレイビア支部の。


「ユウト」


「お疲れさんです」


軽く会釈する。


周囲の冒険者たちが、

息を呑んだ。


「報告は聞いた。

 十分で帰還、か」


「たまたまですわ」


「その“たまたま”が、

 一番信用ならん」


ギルドマスターは、

俺やなく、ティナを見る。


赤い瞳。

無表情。


「嬢ちゃん」


ティナは、少しだけ首を傾けた。


「……なに」


「名前は?」


「ティナ」


「ギルドには、未登録…か」


「……そう」


「登録する気は?」


一瞬、

空気が張り詰める。


周囲の冒険者全員が、

固唾を呑んで見守ってる。


ティナは、答えへん。


代わりに、

一歩だけ前に出て、言った。


「……魔族と、魔物を狩れればいい」


「仕事として、か?」


「……生きるために」


ギルドマスターは、

少しだけ目を細めた。


「正直でいい」


それから、俺を見る。


「ユウト」


「はい」


「こいつを連れてきた責任、取れるか」


俺は、肩をすくめた。


「さあなあ」


一瞬、場が凍る。


「せやけど」


続ける。


「危ない目に遭わせる気は、あらへん」

「俺も、壊れる気ないですし」


ギルドマスターは、

ふっと笑った。


「相変わらずだな」


それから、ティナに向き直る。


「登録は、強制ではない。」

「だが――」


「ブレイビアで戦うなら、

 ここを通した方が、生きやすい」


「飯も、寝床も、情報もある」


沈黙。


ティナは、少し考えてから――

短く言った。


「……考える」


「それでいい。」


ギルドマスターは、頷く。


「ユウト」


「はい」


「次の依頼を楽しみにしておけ、俺からの挑戦状を出す。」


「……了解です」


周囲の冒険者たちの視線が、

完全に変わっていた。


好奇心。

警戒。

そして――期待。


俺は内心、ため息をつく。


――ああ。

もう、静かにはやらせてもらえへんな。


横を見ると、

ティナが斧を軽く握り直していた。


「……うるさい場所」


「今さらやろ」


そう返すと、

彼女は、ほんの一瞬だけ――

口元を緩めた、気がした。





─────────────


ギルドの食堂は冒険者たちで賑わっていたが、俺たちは片隅の小さな席に座る。

戦いの後の疲れを癒す夜食だ。

討伐報告後、ユウトはティナと合流し夜食を共にしていた。



「……食べるか?」


俺は軽く笑いながら、皿に盛られたスープとパンを差し出す。


ティナは斧を壁際に立てかけ、片腕でゆっくりとスープの器を掴む。

右腕は欠損しているため、左手一本で器を支え、スプーンを慎重に持つ。


「……こういうの、あんまり慣れてない」

その声は淡々としているが、普段の戦闘とは違うぎこちなさが滲む。

片腕で食器を扱う動作に、日常とのギャップが見える。


「無理せんでええで」

俺は関西弁で声をかけるが、ティナは小さく肩をすくめ、無表情のままスープを口に運ぶ。


片腕での動作は時間がかかる。

パンも、左手で押さえながら小さくちぎる。

戦場で無双していた姿とは打って変わって、日常の中では少し不自由そうだ。



「……ふぅ」

小さく息をつくティナ。俺は見ていて、自然に守ってやりたい気持ちが湧く。

でも、彼女の瞳はすぐに戦闘時の冷静さを取り戻している。


「……ま、慣れたら早くなるやろ」

俺は笑いながら言う。ティナはわずかに肩をすくめ、無表情のままスープを飲み干す。

隻腕での食事――それもまた、彼女の強さの一部だと、俺は感じた。



「……ところでさ、ギルドマスター、あんなんやったな」


「……うん」


俺が話題を振ると、ティナは少しだけ顔を上げた。

赤い瞳が、薄暗い光に揺れる。


「なんか、怖い感じかと思ったけど……

 意外と、落ち着いてる」


「まあ、そやな。戦場で見てきた目とは違ったわ」

「でも、ちゃんと見てくれてるのは分かったで」


ティナは、箸を置き、スープを見つめたままぽつりと言う。


「……こういう場所、慣れない」

「食べ物も、人も……」


「せやな、都会の暮らしは、ややこしいもんな」

俺はにやりと笑う。

「でもまあ、慣れるもんやで、ゆっくりや」


ティナは口元だけ動かして笑うような仕草を見せた。

微かやけど、少し柔らかくなった気がした。


「……ここの人たち、信用できると思う?」


「んー、せやな」

「ギルドマスターも、受付嬢も、冒険者も、ちゃんと秩序あるで」

「もちろん、あんまり無理したらアカンけど」


ティナは黙ってスープをすする。

その様子が、まるで戦場の休息の時みたいやな、と思った。

静かで、でも神経は張り詰めている。


「……俺、こういう静かな時間、あんまり好きやないねん」

「でも、悪くないな」


ティナが口を開く。


「……私は、慣れるか分からないけど」

「でも、こういうのも、少しは……悪くないかも」


俺はにやりと笑った。


「そやろ。最初は誰でもそうや」


二人で静かに夜食を口に運ぶ。

外の風が窓から入り、食堂の魔法灯が揺れる。


――こういう時間も、悪くない。

ユウトとしては、初めての冒険の夜の、ほんのひとときだった。



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