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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第4章 ブレイピア決戦
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第12話 原初の時空間魔法使い

白い空間に、沈黙が落ちる。


ただ、時計の針が落ちるような音だけが響いていた。


ユウトは、その場に立ち尽くしていた。


目の前の女。


その言葉。


その“事実”。


すべてが、頭の中で噛み合わない。


だが――


「……なんでや」


低く、震えた声。


次の瞬間。


「なんで……何で俺なんや!!」


感情が、爆発した。


拳を握りしめる。


歯を食いしばる。


目の前の存在に、怒りをぶつけるように。


だが。


女は静かに頭を下げた。


「本当にすまない……」


その声は、どこまでも静かで。


どこまでも、後悔に満ちていた。


「この世界を救うには……この方法しか無かったんだ」


ユウトの呼吸が止まる。


「……は?」


思考が、追いつかない。


女は顔を上げる。


その瞳は、まっすぐにユウトを見ていた。


「【私の】時空間魔法では……」


わずかに間を置く。


「君の魂をここに連れてくるのに、精一杯だったんだ」


「なっ……」


言葉が詰まる。


「どういうことや……?」


理解が、拒絶する。


だが。


女は逸らさない。


その視線を、外さない。


「君が――【魔王】を倒す鍵だからだ」


静かに。


はっきりと。


「……だから、君を呼んだ」


「わ……訳が分からん!!」


ユウトの声が、空間に響く。


「大体なんでアンタが【時空間魔法】を……」


言葉が乱れる。


感情が追いつかない。


その様子を見て。


女は、ほんの少しだけ目を伏せた。


そして。


「……そうだね」


小さく息を吐く。


「まずは、最初から話そうか」


くるりと背を向ける。


白い空間の中。


その背中は、どこか遠くを見ているようだった。


「【魔王】が誕生するより……ずっと昔の話」


静かに、語り始める。


「この大陸には、五つの大きな国があった」


「軍事も、経済も……すべてが拮抗していた時代」


淡々と。


だがどこか、懐かしむように。


「ある国に、一人の女の子が生まれた」


「その子は……少し変わっていてね」


ふと、口元が緩む。


「時間と空間を操る魔法を使えたんだ」


ユウトの目が、わずかに揺れる。


「みんな驚いて……怖がるどころか、喜んだ」


「すごいね、すごいねって」


少しだけ、声が柔らかくなる。


「その子は嬉しくて……」


「もっと喜んでほしくて……」


「気づけば、魔法を使い続けるようになった」


一拍。


「……それが、悲劇の始まりだとも知らずに」


空気が、僅かに冷える。


女の目が、細められる。


「その子は、国の【敵】を倒し続けた」


「誰かに頼まれて……じゃない」


「自分から、進んで」


「喜んでほしかったから」


静かに。


だが確実に、声の色が沈んでいく。


「王も、民も……その子を称えた」


「褒めて、褒めて……褒め続けた」


「――そして」


ゆっくりと振り返る。


その瞳に、微かな後悔が滲む。


「その子は、勘違いした」


「この力を使えば……もっと愛される、と」


ユウトは、何も言えない。


ただ、聞くしかない。


「ある日」


女は、再び語る。


「その子は、一人の王子と出会った」


「彼は……何も驚かなかった」


「ただ、楽しそうに話を聞いてくれた」


「一緒に笑って……遊んで……」


ほんの少しだけ。


温かい空気が戻る。


「……その時間が、とても幸せだった」


「やがて二人は恋に落ちて」


「その子は……母親になった」


ユウトの目が、わずかに揺れる。


「小さな男の子」


「三人で過ごす日々は……本当に幸せだった」


だが。


その言葉は、途中で止まる。


「……長くは続かなかった」


空間が、凍る。


「ある日、王は恐れた」


「その女と……その子の力を」


「だから決めた」


「――殺すことを」


「なっ……」


ユウトの声が漏れる。


だが。


女は止まらない。


「次の日」


「家に、兵が押し寄せた」


「抵抗しようとした」


「でも――」


ほんの一瞬。


声が、揺れた。


「背後から、刺された」


ユウトの息が止まる。


「……夫に」


沈黙。


「気がつけば、処刑台の上だった」


「縛られて、晒されて……」


「民衆の前で」


ゆっくりと。


一言ずつ。


「槍で刺された」


「何度も、何度も」


「助かるはずもなかった」


ユウトの拳が、震える。


「……でも」


女の目が、ゆっくりと開かれる。


「男の子は違った」


その声に。


微かな、震えが混じる。


「母が刺されるのを見て」


「怒った」


「――壊れるほどに」


空気が、歪む。


「暴走した魔力で」


「そこにいた全てを、殺した」


ユウトの瞳が、大きく見開かれる。


「それだけじゃない」


声が、低くなる。


「国全体を――覆った」


「黒い魔力で」


「すべてを、閉じ込めた」


沈黙。


「……!!」


ユウトが、何かに気づく。


女は、まっすぐ見つめた。


「そう」


静かに、告げる。


「その子は――」


「やがて【魔王】と呼ばれるようになった」


白い空間に、音が消える。


「そして」


わずかに視線を落とす。


「母は……魔力の欠片となって」


「ただ、漂うだけの存在になった」


静寂。


物語は、終わる。


女は、ゆっくりとユウトを見た。


ユウトは、震えていた。


言葉が、出ない。


それでも。


無理やり、絞り出す。


「なっ……まさか……それって……」


女は、静かに頷く。


「そう」


そして。


微笑むでもなく。


悲しむでもなく。


ただ、事実として。


「それが、私」


一歩、近づく。


「【初代時空間魔法使い】」


「そして――」


ほんの僅かに、目を伏せる。


「【魔王】を産んでしまった存在」


顔を上げる。


その瞳は、揺れていなかった。




「名を――ゼイト・アスガルド」




ユウトの拳が、ゆっくりと緩む。


怒りは、もうなかった。


ただ。


理解できない現実だけが、残っていた。


「……そう……やったんか……」


力なく、呟く。




白い空間に───


ただ、静寂だけが広がっていた

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