第11話 時空間魔法の理
――重い一撃が、空気を裂いた。
ユウジの大剣が唸る。
振るわれるたびに、地面が抉れ、瓦礫が弾け飛ぶ。
だが
「……っ」
ユウトの姿は、そこにはない。
紙一重
わずかな差で、すべてを躱していく。
「おいおい!!」
ユウジの口元が歪む。
「躱すしか脳がねえのかよお!!」
「……チッ」
だがその言葉に、ユウトは返さない。
いや――返せない。
ただ、避ける。
避け続ける。
それだけで、限界だった。
⸻
数秒の静寂。
そして。
ユウジの気配が変わる。
大剣に、どす黒い魔力が絡みつく。
空気が歪む。
「――黒衝斬!!」
振り下ろされた刃から。
無数の斬撃が放たれる。
一つではない。
二つでもない。
幾重にも重なる、暴力の奔流。
空間ごと切り裂くような斬撃が、ユウトへと殺到する。
「……ッ!!」
ユウトは歯を食いしばる。
掌を組み、印を結ぶ。
――間に合うか。
いや、間に合わせる。
「時空間魔法――」
世界が、軋む。
「――加速神域」
瞬間
ユウトを中心に、空間が歪む。
時間の流れが、変質する。
遅くなる世界と速くなるユウトの身体。
だが───
「させるかあ!!!」
ユウジが叫ぶ。
大剣を地面に突き刺した瞬間――
加速する世界の中に、無数の魔法陣が展開された。
「……ッ!?」
空間の内側。
逃げ場のない領域。
そこに、無数の斬撃が“生成”される。
「躱し……きれない……!」
遅くなった世界の中で。
それでもなお、数が多すぎる。
回避が、追いつかない。
――一閃。
「ぐあぁっ!!!」
脇腹を裂かれる。
衝撃が体を貫く。
意識が揺れる。
加速神域が、音を立てて崩壊した。
⸻
地面に伏すユウト。
荒い呼吸。
滲む血。
その前に、影が落ちる。
ユウジだった。
大剣を肩に乗せ、ゆっくりと近づく。
「おいおいどうした?」
ニヤリと笑う。
「逃げてばっかりじゃあ、つまんねえなぁ!」
ユウトは、震えながら立ち上がる。
視線だけは鋭く、ユウジを捉えていた。
その瞬間
ユウジは足元の剣を蹴り上げる。
カラン、と音を立てて。
ユウトの前に転がった。
「ほら、構えろよ」
静かに
だがどこか、懐かしむように。
「昔みたいに戦おうぜ……兄貴」
剣を構えるユウジ。
その姿は。
かつての、あの日と同じだった。
⸻
ユウトの視線の先。
そこにあるのは、ただの剣。
だが
――重い。
まるで、茨のように。
触れれば、心を抉られるような。
震える手で、柄を握る。
握ろうとする。
だが、
――カラン。
乾いた音が響く。
剣は、再び地面に落ちた。
「……っ」
握れない。
腕が、動かない。
身体が、拒絶している。
「……あ?」
ユウジの目が見開かれる。
剣と、ユウトを交互に見る。
「もしかして……握れねえのかよ」
その声が、低く落ちる。
そして。
次の瞬間。
表情が歪んだ。
怒り、憤怒そして狂気。
「……ふざけんじゃねえ!!!」
大地が震えるほどの咆哮。
「オレは……兄貴を超えるために……」
拳が震える。
「アンタに勝つ為だけに剣を振るってきた!!!!」
叫びが、空を裂く。
だが。
ユウトは俯いたまま、何も言えない。
「なのにアンタはソレかよ!?」
「何のために今までオレたちは戦ってきた!?」
怒りが、ぶつけられる。
叩きつけられる。
「……そうか」
ユウジが、低く呟く。
「アンタがソレなら……仕方ねえなぁ!!」
瞬間─────
消えた。
次の瞬間には。
ユウトの懐。
「――ッ!!」
魔力を纏った拳。
躱せない。
「がっ――!!」
直撃。
体がくの字に折れる。
そのまま
瓦礫を突き破り、壁へと叩きつけられる。
粉塵が舞う。
崩れる音。
静寂。
⸻
「……そう……だよな」
崩れた視界の中で。
ユウトは呟く。
「俺のせいで……ユウジは……」
意識が、遠のく。
───残るのは、後悔だけ。
⸻
――その瞬間。
世界が、消えた。
⸻
「……は?」
現れたのは、ただ白い空間。
音も、風も、温度もない。
「ここは……どこや……?」
見渡す。
どこまでも続く白。
ただ。
コツ、コツ……
時計の針が落ちるような音だけが、響いていた。
数秒。
いや、数分か。
時間の感覚すら曖昧な中。
――足音。
誰かが、歩いてくる。
白の中から、影が滲む。
形を成す。
現れたのは。
紺色の長髪。
そして――
凛々しい目と整った目鼻立ちをした女。
ユウトの目が見開かれる。
女は、微笑んだ。
どこか懐かしむように。
「やあ、初めましてユウト君」
一拍置いて。
「……いや、久しぶり、かな?」
「アンタは……確か……」
記憶の奥。
ぼやけた輪郭。
だが確かに、知っている。
女は軽く頷く。
「そう」
静かに。
そして確信を持って。
「君をこの世界に呼び寄せた者」
一歩、近づく。
「そして――」
時計の音が響く。
「君に“時空間魔法”を与えた者だよ」
白い空間に、ただその声だけが静かに残った。




