第9話 真打登場 前編
お読みいただきありがとうございます!
すいません!まとめて1話にしたかったのですが、予想以上に長くなりまとめきれなかったので、
前編後編と分けて出します( ; ; )
白光と黒瘴が衝突する。
轟音が大地を揺らし、爆ぜた衝撃波が瓦礫と砂塵を空へ巻き上げた。
やがて──
煙がゆっくりと晴れる。
そこに立っていたのは。
ユウジだった。
一方。
ティナは地面に崩れ落ちていた。
口から血を吐き、斧を握る力も残っていない。
顔は地に伏し、呼吸も浅い。
ユウジは空を仰いだ。
そして、恍惚の表情を浮かべる。
「ハハハ!!!」
腹の底から笑い声を響かせた。
「やっぱ殺し合いは最高だなあ!!!!」
血に濡れた剣を肩に担ぎながら、ゆっくりとティナへ歩み寄る。
ティナの意識は薄れていた。
それでも、彼女は震える指で地面を探る。
少し離れた場所に落ちた、斧。
――まだ戦える。
その意志だけで腕を伸ばす。
だが…ユウジがそれを許さなかった。
「おいおい、まだ生きてたのか」
目の前で剣を持ち上げる。
刃が、夕日の光を反射する。
「じゃあ……これで……」
視線の先は、ティナの首。
「終わりだァ!!!」
剣が振り下ろされた――
その瞬間。
世界が、止まった。
……いや
違う。
ユウジの動きだけが、ありえないほど遅くなっていた。
刃が落ちる速度が、まるで粘ついた水の中のように鈍る。
ユウジの目が細くなる。
そして
ふと、違和感に気づいた。
地面に伏していたはずのティナが――いない。
視線を地面から前方へ移す。
その瞬間
ユウジの口元が、ゆっくりと歪んだ。
満面の笑み。
「よう【兄貴】!!久しぶりだなあ!!!」
声を張り上げる。
「待ちくたびれたぜ!!」
その視線の先に立っていたのは。
ユウトだった。
彼は片腕でティナを抱え、もう一方の腕をだらりと下げたまま。
ただ一心に、ユウジを睨みつけている。
静かな怒気が、空気を震わせていた。
ユウトの口がゆっくり開く。
「ユウジ……やっぱりお前やったんか」
ユウジは肩をすくめ、笑う。
「ああそうだよ!!」
そしてわざとらしく耳に手を当てた。
「まだ母さん譲りのダセエ訛りで喋ってんのか!!」
その瞬間、ユウトのこめかみに血管が浮かび上がる。
「なんやと?」
怒気が滲む。
だが
その腕を、弱々しい手が掴んだ。
ティナだった。
視線は朦朧としている。
それでも必死にユウトを見上げる。
「ユウ……ト……」
呼吸が乱れる。
「逃げ……て……」
「カハッ!!」
血が口から溢れる。
それでも、ユウトの腕を強く掴んでいた。
そのとき───
遠くから叫び声が響いた。
「ユウトさぁーーん!!」
「置いてかないでくださーーい!!」
振り返ると、砂煙の向こうから、アスミが全力で走ってきていた。
そしてユウトの腕の中のティナを見て、顔色を変える。
「ってこの子大丈夫ですか!?」
ユウトは一瞬だけティナを見つめる。
そして、アスミを真っ直ぐ見た。
「アスミ……ティナを任せたで」
「安全な所で回復してくれな」
「ってええ!?」
驚くアスミ。
だが、ユウトの目を見た瞬間。
言葉が止まる。
そこにあったのは、これまで見たことのないほどの覚悟だった。
アスミは唾を飲み込む。
「……はい」
小さく頷いた。
「分かりました!」
ユウトはティナをそっとアスミへ渡す。
そして、ゆっくりと振り向いた。
目の前には
ユウジ。
ユウジはニヤリと笑い
「こうやって兄貴と戦うのは」
指を折りながら考える。
「6……いや7年ぶりか!?」
だがユウトは答えない。
ただ、静かに問いかける。
「なんで……」
声が震える。
「なんでこんなことしてるんや」
ユウジは一瞬ぽかんとした。
それから。
腹を抱えて笑う。
「なんでって……」
目を細める。
「俺が俺であるためだよ!!」
満面の笑み。
しかし、次の瞬間。
その表情が歪んだ。
苦悶…そして怒り。
「俺は!!!苦しかった!!!」
叫びが空気を震わせる。
「兄貴みたいに頭も良くねえ!!!」
拳を握る。
「とりえの剣だって……前世では振るえなくなった!!!」
歯を食いしばる。
そして、ゆっくりと笑う。
「……この世界で魔王サマに会ったのは運命だ」
「全て俺の足りないものを満たしてくれた」
少し間を置き。
小さく呟いた。
「ただ、それだけのことだ」
ユウトは目を大きく見開く。
だが、数秒後
苦虫を噛み潰したような顔になった。
◆
ユウトとユウジは兄弟だった。
東京出身の真面目な父親。
大阪出身の明るく大雑把な母親。
笑い声の絶えない、ごく普通の家庭。
ユウトには、1つ下の弟がいた。
ユウジ。
小さい頃はいつも一緒だった。
ゲームをして。
喧嘩して。
また笑って。
だが──その時間は長く続かなかった。
母親が死んだ
通り魔に刺された。
死因は――失血死。
葬式…そして白い花の匂い。
棺の中の母親。
「オカン!!なんで……なんで……」
ユウトが泣き叫ぶ。
「……嘘やろ……嘘やろ……」
隣でユウジも泣いていた。
そして、二人は
同じ言葉を口にした。
「俺……強くなるから!」
ユウジが拳を握る。
「ぜったい……ぜったい大切な人を守るために……強くなるからあ!!!」
ユウトも頷く。
「俺もや……」
涙を拭う。
「もう誰も失いたない!!!」
⸻
数年後。
剣道中学生全国大会・決勝。
会場の中央にて
防具をつけた二人が向き合う。
「今度は勝つで!兄貴」
ユウジが笑う。
ユウトは黙っていた。
ただ、弟を見つめる。
審判の声。
「始め!」
竹刀がぶつかる。
鋭い踏み込み。
ユウジの面打ち。
ユウトが受け流す。
激しい攻防。
そして、一瞬の隙。
ユウトの足が踏み込んだ。
鋭い一撃。
「メェェン!!!」
乾いた音が響く。
竹刀がユウジの面を捉えた。
審判の旗が上がる。
「一本!!」
静寂。
ユウジの竹刀がゆっくり下がる。
試合終了。
それからもら二人は剣を交え続けた。
中学、そして高校
だが、ユウトが負けることは一度もなかった。
そして、悲劇が起きる。
「ユウジ!!大丈夫なんか!!」
病室に駆け込むユウト。
ベッドの上。
そこには──
右腕と右足の無いユウジがいた。
ユウトの顔が歪む。
「あ……あ……ユウジ……」
ユウジは笑った。
「兄貴、心配すんなって!!」
明るく言う。
「今はこんな体でも……体を治して……」
拳を差し出す。
「次は……次こそは……」
ニヤリと笑う。
「必ずっ!!兄貴に勝ってみせるから!!」
ユウトは涙を拭う。
そして、拳をぶつけた。
だが
現実は残酷だった。
「屋上から飛び降り……即死でした」
医者が静かに言う。
父親とユウト、二人が立っていた。
父親は無表情だった。
「そうですか」
それだけ言う。
「分かりました……おい、ユウト……帰るぞ」
ユウトは目を見開く。
「帰るって親父……ホンキで言っとんのか!?」
だが、父親は振り返らない。
「帰るぞ」
それだけだった。
ユウトの言葉は消えた。
⸻
一年後。
高校剣道大会。
ユウトは試合場に立っていた。
観客席から声が上がる。
「わあ〜あれがユウトくんだってー!」
「かっこええ〜」
「また今年も優勝かな〜」
審判の声。
「始め!」
その瞬間、ユウトの竹刀が
手から落ちた。
床に転がる音。
審判が叫ぶ。
「選手!竹刀を拾いなさい!」
「試合続行です!」
だが、ユウトは動かない。
四つん這いになる。
そして
「……っ」
口を押さえる。
次の瞬間
「ォェ……ッ……!!」
胃液が床に吐き出された。
観客がざわめく
ユウトは震えていた。
剣が握れない。
◆
そして現在。
目の前には佇んでいるのは、ユウジ。
フラフラと立っている。
そして満面の笑みを浮かべ
「さあ〜!」
腕を広げる。
「兄弟喧嘩始めようぜ!!」
その言葉が…戦場に響いた。




