第8話 「強者の提案」
「遅え!!」
ユウジの怒号と同時に、ティナの斧が弾き上げられた。
甲高い金属音が戦場に響く。
ガキィンッ!!
火花が散る。
二人はすでに数分間、互いに一歩も譲らない激戦を繰り広げていた。
ティナの斧術は鋭く、無駄がない。
低い姿勢から一気に踏み込み、斧の重みを乗せて斬り上げる。軌道は洗練されており、一撃一撃が確実に急所を狙っていた。
だが――
ユウジの剣は、それを力でねじ伏せる。
荒々しく、野性的な剣術。
型などない。ただ圧倒的な膂力と反射で振るわれる刃が、暴風のようにティナへ襲いかかる。
ドォンッ!!
斧と剣がぶつかるたび、地面が震えた。
ティナは身を低くして横薙ぎに斧を振るう。
ユウジはそれを剣の腹で受け流し、そのまま蹴りを叩き込んだ。
ティナは後ろに跳び、瓦礫を蹴って再び突っ込む。
斧が唸る。
ユウジは笑う。
ガキィン!!
ガキィン!!
ガキィィンッ!!
斧と剣が何百回もぶつかり合う。
火花が散り、石畳が砕け、周囲の建物の壁が衝撃で崩れ落ちていく。
だが――
ユウジの口元が、ゆっくり歪んだ。
「おいおい」
剣を弾きながら言う。
「この程度でへばってもらっちゃあ……」
ティナの呼吸がわずかに荒い。
肩が上下している。
そのわずかな変化を、ユウジは見逃さない。
「困るぜっ!!」
その瞬間。
ユウジの姿が消えた。
――否。
消えたように見えただけだった。
次の瞬間には、ティナの背後にいた。
振り下ろされる巨大な剣。
ティナは反射的に斧を構える。
ガキィン!!
だが――
受け止めたのは、隻腕の右側だった。
体勢が崩れる。
「ぐっ……!」
ユウジの剣がそのまま押し込まれた。
ドォンッ!!
ティナの身体が吹き飛ぶ。
建物の壁を突き破り、瓦礫の山へ叩き込まれた。
粉塵が舞い上がる。
ユウジはゆっくりと剣を肩に担いだ。
顔には、恍惚の笑み。
「はぁ〜……」
心底楽しそうに息を吐く。
「最高だなァ……」
瓦礫の山へ向かって、大声で呼びかける。
「なあティナ!!」
数秒の沈黙。
そしてユウジは笑いながら言った。
「俺様は今!!とても面白い事を考えた!!」
瓦礫の中。
白い髪が揺れる。
ティナがゆっくり立ち上がる。
その姿を見て、ユウジは満足そうに笑った。
そして――
ゆっくり口を開いた。
「ティナ……」
「お前も【魔王軍】に入れ」
ティナの目が見開かれる。
ユウジは構わず続けた。
「お前は強え……」
「だが、もったいないんだよなあ」
視線が下がる。
ティナの右腕。
――そこにあるはずのない腕。
ユウジはニヤリと笑った。
「その【右腕】」
「元に戻したくないか?」
ティナの拳が強く握られる。
ユウジはそれを見てさらに言葉を重ねる。
「もし腕が戻ったなら……」
「それはとても嬉しいことじゃないか?」
ゆっくりと歩きながら語る。
「簡単に飯が食える」
「物が持てる」
「周囲の目が気にならなくなる」
そして笑った。
「そしてなにより……」
剣を肩に担ぐ。
「最高の状態で戦える」
「それは強者にとって素晴らしいことだ!!」
一瞬。
ユウジの目が遠くを見る。
「かつては俺もそうだった……」
だがすぐに視線を戻した。
「ティナ!!」
腕を広げる。
「お前も来い!!」
「そして俺と――」
瞬間。
閃光が走った。
ガキィィン!!
激しい金属音。
ユウジの剣が斧を受け止めていた。
ティナが目の前に迫っている。
鬼気迫る表情。
殺意そのものだった。
そしてティナは言った。
「なるわけ……ない」
剣と斧が弾かれる。
火花が散る。
二人は一定の距離まで下がり、睨み合った。
ユウジは――
笑った。
「だよな」
その声には、どこか満足そうな響きがあった。
数秒の沈黙。
だがその膠着を破ったのは――ティナだった。
瞬間。
姿勢を極端に低く落とす。
斧を構える。
それを見て、ユウジの目が輝いた。
剣に黒い魔力が集まる。
「技のぶつかり合いか!!」
狂気の笑み。
「おもしれぇ!!」
ティナは静かに息を吐いた。
全神経を研ぎ澄ませる。
「……これで決める」
そして――
二人が同時に踏み込んだ。
「轟閃波!!」
「黒瘴斬!!!!」
白き少女と黒き剣士が――
世界を揺るがした。




