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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第4章 ブレイピア決戦
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第2話 弾ける思い

ティナと合流したユウトは、重たい足取りでギルドハウスへと入った。


 いつもなら笑い声と怒号が飛び交い、酒の匂いと鉄の匂いが混じり合う活気に満ちた場所。だが今は違う。広間には人影こそあるものの、誰もが声を潜め、俯き、沈黙が支配していた。


 シンという支柱を失った空間は、まるで魂を抜かれたようだった。


 扉を閉めた瞬間、受付嬢が慌てて駆け寄ってくる。


「ユウトさん、ティナさん! アルナさんが……目を覚ましました!」


 その言葉に、ユウトの胸が強く締め付けられる。


 ――目を、覚ました。


 時が経ち、二人は療養室の前に立っていた。


 ユウトは、正直言えば会うつもりはなかった。


 イデアとの戦いで、シンだけではない。

 幼なじみで、長い時間を共に過ごしてきたライトも失った。


 あの場にいた自分が、生き残った。


 それが、どうしても許せなかった。


 重い手で扉を押す。


 軋む音とともに開いた室内。そこには、ベッドから身体を起こし、明後日の方向を虚ろな目で見つめるアルナの姿があった。


 普段は活発で、堂々としていて、誰よりも強気な少女。


 その面影は、今はない。


 ユウトとティナは息を呑む。


 その瞬間だった。


 アルナの視線が、急にユウトへと合う。


 そして――奇妙なほどに、嬉しそうな目をした。


「ライト、生きてたのね!……良かったあ〜!」


 ベッドから勢いよく立ち上がり、こちらへ駆け寄る。


「受付嬢から聞いた話と全然違うじゃない! 心配させないでよ〜!」


 ユウトとティナは、言葉を失った。


 彼女の精神状態が異常であることは、一目で分かった。


「いや……俺はライトじゃない……」


 苦しげに否定する。


 だがアルナは首を傾げる。


「? 何言ってんのよ、ライト。面白くない冗談ね!」


 その認識は、固定されていた。


 ――いや、違う。


 ライトでなければ、彼女の心が壊れてしまうのだ。


 ティナが不安げにユウトを見る。


 それでも、ユウトは逃げなかった。


「……ライトは死んだ。俺の名前はユウトや。ライトじゃない」


 真実を、口にする。


 次の瞬間。


「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ!!!!」


 アルナの声が、室内に響き渡る。


「ライトは……ライトは……ライトライトライトライトライトライトライトライト――!」


 壊れたように叫び続ける。


 ティナが、そっとユウトの袖を引いた。


「……行こう」


 ユウトは動けなかった。だがやがて、アルナの悲鳴から目を背け、療養室を後にした。


 背後で、泣き叫ぶ声が続いていた。


 


 夜。


 ブレイピアの状況とは裏腹に、空には澄み渡る月と星が輝いていた。


 静かな部屋。


 その静寂を、怒声が破る。


「クソッ!!!!」


 壁に頭を打ちつける。


「クソッ!! クソッ!!!!」


 鈍い音が何度も響く。


 シン、ライト、守れなかった仲間たち。


 耐えきれなかった。


 扉が乱暴に開く。




 ティナが飛び込み、ユウトを押さえ込んだ。体術で腕を封じ、床に組み伏せる。


 抵抗するが、虚しい。


「止めさせんなや! ティナ!!」


「嫌だ」


 短く、強く。


「離せ!!」


「嫌だ」


 繰り返すうちに、ユウトの動きは次第に弱まっていった。


 


 やがて二人はベッドに座る。


 沈黙。


 ティナが静かに問う。


「……なんで、あんなことしたの」


 ユウトは俯いたまま答える。


「……俺は生きとる価値ない。お前と違って強くないし……なんにも守れへん」


「そんなことない」


 即答だった。


「ユウトは、守れてる人がいる」


「じゃあ誰が!!」


 叫ぶ。


「ギルドマスターも……ライトも!!!! あの戦いで俺は……!」




「私」




 その一言で、空気が止まった。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 戦闘技量も経験も、ティナの方が遥かに上だ。


 彼女が守られる側?


 ティナは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「私も……師匠も、友達も、家族も……大切なもの全部失った」


「……力だけが、残った」


「だから、力任せに魔物や魔族を……狩って、狩って、殺して、殺し続けた」


 淡々とした声。


「……限界が来た。その時、いつの間にか右腕が無くなってた」


 静かな告白。


「【ただ戦う】力を無くしかけてた私を助けてくれたのは……ユウト」


 ユウトの喉が震える。


「俺は……俺は何も……」


 首を横に振るティナ。


「ううん。ユウトは、あの時何も無い私に、唯一声をかけてくれた」


「……それだけで嬉しかったのに」


「ユウトは冒険に誘ってくれた。……一人だった私は、とても嬉しかった」


「そんなん……大したこと――」


「違う」


 強く、だが優しく。


「ユウトだから嬉しかった」


 視線が、真っ直ぐに刺さる。


「【強さ】だけじゃない……私の【気持ち】……ユウトに、いつも守られてる」




「ありがとう」




 その言葉で、何かが決壊した。


 頬を伝う涙。


 一度溢れたそれは、止まらない。


「なんでや……なんで俺なんや……!」


 嗚咽が混じる。


「俺、何も出来てへん……! シンさんも、ライトも……守れへんかった……!」


「俺が強かったら……! 俺がもっと……!」


 声にならない声。


 肩が震える。


 ティナは、ゆっくりとユウトを抱きしめた。


 温かい。


「……泣いていい」


 小さな声。


 ユウトは子供のように泣いた。


「悔しい……悔しいねん……!」


「俺、強なりたい……! もう、誰も失いたない……!」


 その夜。


 ブレイピアの一室には、嗚咽と、確かな温もりが残っていた。


 そして、ユウトの中で――


 何かが、静かに灯り始めていた。

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