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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第4章 ブレイピア決戦
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第1話「ギルドマスター【シン】没後」


 日中だというのに、空は重く沈んでいた。


 雨は静かに、だが絶え間なく降り続いている。


 ブレイピアの中心にある教会には、かつてないほどの人が集まっていた。黒衣に身を包んだ冒険者たち。王国兵士。街の民。貴族。位の高い王族までもが、等しく頭を垂れている。


 祭壇の前には、一つの棺。


 中に眠るのは、ギルドマスター――シン。


 この街の守護者。

 人々にとっての盾。

 そして、希望だった男。


 嗚咽があちこちから漏れる。声を押し殺して泣く者もいれば、膝をついて号泣する者もいる。ただ立ち尽くす者、虚ろな目で棺を見つめ続ける者。


 その光景は、英雄の死がどれほどの重みを持つのかを雄弁に物語っていた。


 ユウトもまた、その中に立っていた。


 視線は棺に向いているが、焦点は合っていない。胸の奥にぽっかりと空いた穴が、現実を拒絶していた。


 ついこの間まで、ギルドだけでなくブレイピアそのものを支えていた存在。

 叱ってくれて、笑ってくれて、背中で示してくれた人。


 それが、もういない。


 隣ではティナが、微動だにせず祭壇を見つめている。瞳は真っ直ぐで、強い意志の色を湛えていたが、その奥には確かな悲しみが滲んでいた。


 ユウトが視線を巡らせる。


 少し離れた場所に、レッカとラセツの姿があった。


 レッカは顔が崩れるほど泣いていた。肩を震わせ、子供のように声を上げている。その姿を見て、胸が締め付けられる。


 ラセツは、ただ俯いていた。大きな体が小さく見えるほどに、静かに。


 ――俺は。


 拳に力が入りすぎていた。


 無意識のうちに爪が掌に食い込む。


 その拳を、そっと包み込む手があった。


 ティナだった。


 優しく、温かい。


 ユウトははっと息を飲み、彼女を見つめ返す。


 心配そうに見つめるその瞳に、無理やり笑みを作る。


 ……そうだ。俺が正気を失ってどうするねん。


 歯を食いしばり、心を引き戻す。


 やがて、葬儀は終わった。


 祈りの言葉が終わり、人々は静かに教会を後にする。誰もが重たい足取りで、それぞれの日常へと戻っていった。


 雨は、まだ止まない。


 教会近くの石階段。


 ユウトはそこに座り込み、濡れた石を気にもせず俯いていた。胸の奥に渦巻く無力感が、身体を押し潰そうとする。


 ティナは少し彼の様子を見つめた後、静かに言った。


「水、買ってくる」


 そして、雨の中へ消えていった。





 しばらくして、隣に大きな影が落ちる。


 ラセツだった。


 無言のまま腰を下ろし、しばらく雨音だけが二人の間を流れる。


 やがて、低い声が落ちた。


「……先日のレッカのことなんだが。悪かった」


 気まずそうに、だが誠実に。


 ユウトは顔を上げずに答える。


「……ええよ」


 暗く、短い。


 レッカとシンの関係は、察していた。


 ラセツはゆっくりと言葉を選ぶ。


「察しているだろうが……レッカは、シンさんの一番弟子だ。魔王軍との戦で両親を失った孤児でな……。シンさんが見つけてから、ずっと世話をしていた」


 雨音の中、低く落ち着いた声が続く。


「小さい頃から稽古をつけてもらっていた。乱暴で、学もないが……根は良い奴なんだ。許してやってくれ」


 ユウトは無言のまま聞いていた。


 ――あいつは悪うない。


 ――俺が。


 ――俺が、弱いから。


 喉の奥が焼ける。


 抑え込んでいた言葉が、こぼれ落ちた。


「俺が……弱いせいや」


 それが、彼の第一声だった。


 ラセツはわずかに目を見開く。


 その横顔、声の震え。そこに滲む自責の念。


 すぐに察した。


「……無理するなよ。何かあったら言ってくれ」


 それだけ残し、立ち上がる。


 重たい足音が遠ざかっていった。


 ユウトはその場に座ったまま、腕で顔を覆う。


「無理するなよ……か。そんなん、自分が一番分かっとるわ」


 吐き出すように呟く。


 雨は、冷たく降り続く。


 街も、空も、心も。


 ……ブレイピアには、雨が止まなかった。

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