表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第3章 浜辺での因縁
19/39

第6話 三魔官 イデア Part2

潮風が止まったように感じた。


「――お待ちしておりましたユウト様〜魔王様がお待ちです♪」




至近距離で囁かれたその言葉に、ユウトの思考は一瞬、真っ白になった。




「……は?」




間の抜けた声が、やけに小さく響く。


イデアは首をかしげ、裂けた口元をわずかに歪めた。


「ああ、失礼。まだご存知なかったみたいデスネ」


意味深な声音。

その“当然知っているはず”という前提が、余計に不気味だった。





「ユウトに……近づくなっ!」


地を蹴ったのはティナだった。


白い砂を巻き上げ、隻腕の少女は迷いなく斧を振り抜く。

風を裂く一閃――だが。




「おや」




イデアの姿は、そこにはなかった。


斧は空を切り、砂浜に深い裂け目だけが残る。


「速い……!」


ティナが目を見開く。


背後。


「危ないデスヨ」


振り向いた瞬間、そこにイデアは立っていた。


だがその肩に、鋭い殺気が走る。


「落ち着け……お前はお前だ」


低く、芯のある声。


シンだった。


その一言で、ユウトの鼓動が正常に戻る。


(そうや……俺は俺や)




魔王がどうとか関係ない。

今は目の前の敵だけを見る。


ユウトは息を整え、瞬時に支援魔法を展開する。


筋力増強。

反応速度向上。

魔力出力補助。


淡い光がティナとシンを包む。



「行くぞ」


「……うん」



二人が同時に踏み込む。


剣と斧が左右からイデアを挟み込む。

さらに背後から、アルナの詠唱が重なる。




「光よ、束ねて穿て――!」




閃光が迸り、砂浜を焼き焦がす。


しかし。


イデアは優雅だった。


剣戟を紙一重で受け流し、斧を爪で弾き、迫る光弾を指先で弾き飛ばす。


「なるほどなるほど……」


砂煙の中、腕を組む。



「少し……面倒ですねぇ……ならば」



その指先が、ゆっくりと伸びた。


爪が異様な長さへと変質し、黒い魔力を帯びる。


次の瞬間。


空間そのものを、引き裂いた。


バチリ、と耳鳴りのような音。


裂け目から、歪んだ魔力の斬撃が奔流のように放たれる。




「散れっ!」




シンが叫ぶ。


剣で正面から受け止める。

ティナも斧を構え、衝撃を受け止めた。


火花と魔力がぶつかり合い、砂浜が爆ぜる。


ユウトは横に転がるように回避した。

頬を掠め、血が一筋流れる。


(今のは……直撃したら終わりや)





だが。


一瞬の静寂。


イデアは、にやりと笑った。


「素晴らしい反応デスネ。ですが――」


視線が、わずかにずれていた。


ユウトの背後。





「え……?」




アルナの声。


次の瞬間、アルナのローブが裂ける。


鈍い音。


イデアの魔力斬撃は、彼女の腹を深く抉っていた。


鮮血が砂浜に散る。


アルナの身体が崩れ落ちる。




「アルナッ!!」


ユウトの叫びが響く。


イデアは指先の血を見つめ、愉快そうに目を細めた。


「ワタクシの斬撃は、軌道を“ずらせる”のデスヨ。避けたつもりでも、意味はありません」


裂けた口がさらに歪む。


「後衛が動揺すると、盤面は崩れやすい……良い実験デシタ」


砂浜に広がる赤。


ティナの呼吸が荒くなる。

シンの瞳が、獣のように細まる。


そしてユウトの中で、何かが軋んだ。




――使うな。




昨夜の約束。


だが、目の前には倒れた仲間。


イデアは、ゆっくりと両手を広げた。


「さて……次はどなたにしましょうか?」


禍々しい魔力が、再び膨れ上がる。



───────

血の匂いが、潮の香りを塗り潰していた。


砂浜に崩れ落ちたアルナは、必死に意識を繋いでいる。ローブは裂け、腹部から滲む血が止まらない。


「アルナ! しっかりせぇ!」


ユウトが駆け寄る。



「……ユウト……」



か細い声。


その瞬間、シンが叫んだ。



「ユウト! アルナを背負え! 今すぐブレイビアまで走れ!」



一瞬、ユウトの思考が止まる。


「な、何言うてんねん! 俺が抜けたら――」


「いいから行け!!」


怒鳴り声が、空気を震わせた。




イデアの魔力が再び膨れ上がる。


「逃がすとでも?」


黒い爪が閃く。


だが――



ガキィンッ!!



斧がそれを弾いた。


ティナだった。


「ユウトに……触るな」


斧越しに、イデアを睨みつける。


その背を、ユウトは見た。




歯を食いしばり、アルナを背負う。


「すまん……絶対、生きて戻る」


シンは素早く状況を判断した。


「ティナ!」


「……!」


「ユウトを護衛しろ。ブレイビアまでだ」


一瞬、ティナが揺れる。


「でも……シンは……」


シンは静かに近づき、彼女の肩に手を置いた。


「俺の命より、お前の命の方が大事だ」


低く、真っ直ぐな声。




「なんせ【あいつ】に頼まれたんだからな」




ティナの瞳が、見開かれる。


タイゾウ。


その名は出ていない。だが、意味は十分だった。


数秒の沈黙。


やがてティナは、小さく息を吐く。


「……分かった」


覚悟を決めた目で、ユウトの方へ駆け出す。


その瞬間。


イデアの爪が、背後から伸びる。


不意打ち。


だが。




キィィンッ!!




剣が割って入った。


火花が散る。


「背中を狙うなよ、三魔官」


シンが低く言う。


「狩りをするなら、正面から来い」


イデアは目を細めた。


「良かったのですか? 唯一の【勝ち筋】を逃がしてしまって」


ユウトの時空間魔法。


それが最大の脅威であることを、イデアは理解している。


シンは鼻で笑った。


「勝ち筋? 違うな」


剣を構える。


風が止む。


「勝つのは――俺だ」


空気が震えた。


魔王軍三魔官「知」イデア。


元王都最強「竜剣」シン。


砂浜を挟み、二人が向かい合う。


イデアはゆっくりと腕を広げる。


「では……実験と参りましょうか」


シンは一歩踏み出す。


「来い、魔王の犬」


次の瞬間、二つの魔力が激突した。


――三魔官イデア vs 元最強シン。


砂浜が爆ぜる。


戦いは、ここから本番だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ