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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第3章 浜辺での因縁
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第5話 三魔官 知 イデア

――


クラーケン討伐の翌朝。


潮風は穏やかで、昨夜の戦いが嘘のようだった。


焚き火の跡を消し、簡易装備をまとめ、一同はそれぞれ「水着」から通常装備へと着替えていた。鎧の重みが戻ると同時に、空気も引き締まる。


「よし、帰るか」


ライトが肩を回した、その瞬間だった。


――空気が、沈んだ。




まるで大気そのものが重く濁り、肺に入る酸素が粘ついたように感じる。


ぞわり、と背筋を這う悪寒。


ユウトの喉が鳴った。


(なんや…これ……)


ティナの肩が微かに震える。無意識に斧の柄を強く握る。


アルナの展開しかけた魔法陣が、ぶれる。


シンはわずかに目を細め、剣の柄に手を添えた。


「……この魔力は、冗談じゃ済まんぞ」


ライトの額に、汗が浮かぶ。


逃げろ、と本能が叫ぶ。

だが、足が動かない。


その禍々しい魔力の中心から――


ぱち、ぱち、と軽い拍手が響いた。




「いや〜お見事でした。皆さん」


砂浜の上に、いつの間にか立っていた。


黒髪長髪、痩せた長身。

片側だけ裂けた口元。

笑っている。だが目は凍てついている。


一瞬きょとん、と首を傾げた後、丁寧に一礼。


「おっと失礼、自己紹介がまだでしタネ」

「魔王軍幹部、三魔官“知”のイデアと申します」


その瞬間。


ライトの姿が掻き消えた。


「てめぇぇぇッ!!」


斬撃が走る。

火花が散る。


だが――


イデアは片腕で剣を受け止めていた。


鍔迫り合い。


「……おや?」


ライトの顔は、今まで見たことのない形相だった。


「俺の村を消したのは……お前か?」


イデアは一瞬、思考するように視線を泳がせる。


「ああー……あの村ですか」


にやり、と裂けた口が広がる。


「お陰様で貴重な【素材】を回収できましたよ。ありがとうございます」


空気が爆ぜた。


「ふざけるなァァァ!!」


二振り目。


だが。


イデアの体から溢れた魔力が、暴風のようにライトを押し潰す。


「がっ……!」


見えない圧力に叩きつけられ、地面へとめり込む。


その魔力量は、常軌を逸していた。



ユウトの顔から血の気が引く。


(……桁が違う)


アルナの指先が震える。


(こんなの……どうやって……)



だが。


「ティナ!」


シンの声。


同時に二つの影が跳ねた。


左右から、斧と剣。


「やれやれ……ワタクシ戦闘は苦手なんですケドねえ……」


呆れたように呟きながら、イデアの魔力が爆ぜる。




――だが。


空振り。


二人は紙一重で躱していた。


「……どうやって……!?」


初めて、イデアの眉が動く。


ティナとシンは、同時に口角を上げた。



「「勘」」



場数。


死地を何度も越えてきた者だけが持つ、反射。



イデアの瞳が細くなる。


「やはり【危険人物】……面白いデスネ……」


戦闘は激化する。


アルナは既に迎撃魔法陣を展開していた。


ユウトも慌てて全員へ筋力増強、魔力出力増強を重ねる。




(あかん……このままじゃ……)


本能が叫ぶ。



――使え。




時空間魔法。


指先に魔力が集まりかける。


その瞬間、シンの視線が刺さった。


昨夜の焚き火での会話が、頭をよぎる。




「二度と使うな」




約束。


ユウトは歯を食いしばり、魔力を引っ込める。


(……くそ……)


戦闘の只中で、イデアの視線が一瞬だけ動いた。


次の瞬間。


――目の前。




「…は?」



ユウトの目の前に、イデアが立っていた。


音もなく、距離もなく。


優雅に一礼。


「お待ちしておりました、ユウト様〜」


深淵のような瞳と目が合う。



裂けた口が弧を描く。




「魔王様がお待ちです♪」




狂気の笑み。


背後で、仲間たちの動きが止まる。


潮風が凍りついた。


ユウトの鼓動だけが、やけに大きく響いていた。


――魔王が、待っている。


砂浜に落ちる影が、長く伸びる。


戦いは、まだ始まったばかりだった。

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