第1話 出会い
「ちょっと通るで〜」
舞台は王都ブレイビア。
現代日本とは異なる異世界に存在する、アスガルド大陸の中心に位置する活気あふれる首都だった。石畳の広い通りが放射状に広がり、高い城塞壁が街全体を囲んでいる。
壁の内側には中世の趣を残した石造りの建物が並び、尖塔の教会や騎士団の駐屯所が点在する一方で、魔法の恩恵が街の空気を少しだけ現代的に変えていた。
街灯は青白い魔法灯が灯り、夜でも人通りは絶えない。冒険者ギルドの本部が街のほぼ中央に構えられ、そこに集まる冒険者、商人、傭兵たちの喧騒が一日中途切れることはなかった。
ギルドの建物は特に賑やかだった。重厚な木の扉が常に開け放たれ、内部はクエストボードの前で依頼を探す者、カウンターで報酬を受け取る者、仲間と次の計画を話し合う者で溢れている。
壁際の掲示板には魔物討伐から魔族残党の探索、護衛任務まで、さまざまな紙が貼られ、FランクからSランクまでの難易度が色分けされていた。
空気には酒と汗と革の匂いが混じり、誰かが大声で笑う声や、剣を研ぐ金属音が響き渡る。
その喧騒の中を、一人の青年が静かに歩いていた。
彼の名は【ユウト】
金髪、糸のように細く閉じた目は穏やかで、どこか掴みどころのない印象を与える。178センチの長身に68キロというやや細身の体型は、鎧を着た冒険者たちの中では明らかに浮いていた。
服装もシンプルな旅人用のローブとマントで、腰には短剣すらなく、代わりに小さな革袋に詰まったポーション瓶が揺れている。
ユウトはカウンターでいつものようにポーションを納品した。
彼の作るものは、彼の得意魔法である、
支援魔法を封じたバフ・デバフポーションだ。飲めば一時的に味方の動きを速めたり、敵の判断を鈍らせたりする
——支援魔法を応用したもので、ギルドの受付嬢からは「また売れ筋ですね」と笑顔で受け取られる。
「毎度おおきに。今日も助かるわ。」
ユウトは軽く手を挙げ、銀貨の入った袋をポケットにしまう。
彼は冒険者として登録はしているが、クエストボードに近づくことすらほとんどない。
理由はシンプルだった。
前世で、彼は過労の果てに自ら命を絶った。
精神的疲労が限界を超え、何もかもが嫌になった末の選択。
あの経験が、転生後のユウトに深く刻み込まれている。
「もう二度と無理はせん」
「自分のペースで生きる」
それが彼の信念だった。だから命を賭けた冒険など、絶対に選ばない。ポーション販売という安全で安定した稼ぎ方で十分だと思っていた。
カウンターを離れ、ユウトはふと視線をクエストボードに向けた。
そこに、一人の少女がただ棒立ちしていた。
肩までかかる白髪。鮮やかな赤い瞳。158センチほどの小柄な体躯に、やせ細った印象なのに、背負った巨大な斧が異様に存在感を放っている。
ただ…
右腕は肩から先がなく、傷跡が痛々しく残っていた。
彼女はクエストボードをじっと見つめたまま、微動だにしない。周囲の冒険者たちがちらちらと視線を投げかけ、ひそひそと囁き合うが、誰も声をかけようとはしない。
ユウトは、なぜか足を止めた。
彼女の姿が、どこか前世の自分を重ねて見せてしまったのかもしれない。あの頃の自分も、疲れ果てて棒立ちのように動けなくなっていた時期があった。
「……おい、ちょっとええか?」
自然と声が出ていた。
少女が、ゆっくりと振り向く。
赤い瞳がユウトを捉え、静かに一言。
「……何。」
ユウトは軽く肩をすくめて、いつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「いや、ずっとボード見てるだけやん? クエスト探してるんか?
俺、ポーション売ってるんやけど、もし冒険するならバフかけてあげるで。
時間稼ぎのデバフも得意やし。
……まあ、無理にとは言わんけどな。」
ティナは一瞬、視線を逸らした。
そして、短く、冷たく返す。
「……一人でいい。」
ユウトは苦笑しながらも、なぜか引き下がれなかった。
「一人でいいって、ほんまか?
あんな斧、片手で振り回すん大変やろ。
俺の魔法なら、敵の動き遅くしてサポートできるで。それと…」
「……お前、なんか一人で抱え込んでる感じするわ。」
ティナの赤い瞳が、わずかに揺れた。
その瞬間、二人の視線が絡み合い——
王都ブレイビアの喧騒の中で、静かに、運命の歯車が回り始めた。
1話読んでいただきありがとうございます!
拙い文ですが、ぜひ!感想などを頂けると嬉しいです^^




