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第二話

 心地よい朝である。

 シアはベッドのなかで、部屋に差し込む日差しに寝返りをうった。小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 昨日はルチア商会から、いくばくかの謝礼を受け取った。しばらく旅の資金には困らないだろう。

 シアがうとうとしていると、ベッドの端に寝ていたアルドが目覚めた。ぼうっと宙の一点を見つめている。シアはほんの少し笑って起き上がった。そうして、違和感のあった自分の胸に手を当てた。


「……え、おっぱいが四つになってる」

「猫か」

「猫ならもっと多いでしょ」

「違いない」


 寝相が悪くていつの間にかズレてしまったブラジャーの位置を直しながら、シアは猫のように大きなあくびをした。

 アルドがようやくベッドから起き出して、宿の中庭に向かう。鍛錬をするのだろう。

 シアは窓辺にコーヒーを用意して、アルドの鍛錬をながめながら新聞を読んだ。


***


 鍛錬を終えてようやく戻ってきたアルドと支度をして、シアは街に出た。地面に木製の足場が埋まっている。上を歩くと、とことことかわいらしい音が鳴った。


「今日の予定は?」

「調査だねー」

「つまりぶらぶらする日ってことか」


 同じ村で生まれ育ち、幼い頃から行動をともにしてきたアルドの言いように、シアは声をあげて笑った。


「ニュースはどうだった?」

「そうねぇ……。この国の人たち、お給料がなかなか上がらなくて大変なんだってさ。お給料が上がらないから、家計で使えるお金が少なくなる。使えるお金が少ないから、市場の商品もあんまり売れなくて、安値合戦になってる。安値合戦になってるから、従業員に還元されにくい。そういう悪循環にあるみたいだね」

「シアはどうすれば解決すると思う?」

「市場の商品は少しずつ値上がりしてきてるけど、お給料にはまだ反映されてない。だから短期的にでも税金を下げて家計を支えて、お給料を上げるのが定石だよね。国が商会から受け取る税金を減らしても、商会は従業員のお給料を増やすとは限らない。なんなら、材料費や手間賃が安いからって、海外で生産しちゃって、国内の従業員はクビにしちゃうかもしれない。短期的には海外での生産は儲かるかもしんないよ? だけど、長期的に見たら、そうじゃない」


 シアはまぶしそうに目を細めて、公園のベンチに腰を下ろす。アルドもそれにならうように隣に座った。


「だからね、まずは家計にかかってる税金を減らす。それで商会には『従業員に賃金を払うといいことあるよー』って流れを作るのが大事」


 シアは隣に座ったアルドの肩を、うれしそうにぺちぺちと触った。今日はアルドが甲冑を着ていないから、距離が近いような気がしている。

 少し離れたところに、鳩たちが集まりはじめた。エサが欲しいのだろう。


「一番手っ取り早いのは、大規模な公共事業をすることだろうねぇ。そうすれば人を雇えるし、材料の仕入れとかでもお金が動くからね。……なのに、この国、詰めが甘い。公共事業に海外の業者を多く入れてるんだよ。それじゃあ海外にお金が流出するじゃん。国内でお金を還流させるための公共事業だろって」


 一息に説明したシアに、アルドが首を傾げた。シアは少し考え込むと、ポケットに潜ませていたクッキーを取り出して、「半分食べていいよ」とアルドに渡した。

 アルドはクッキーを半分食べると、もう半分のクッキーをシアの口元に運んだ。


「ありがと。これが、公共事業を国内業者に任せる場合ね。それで──」


 シアはクッキーをもう一枚取り出して、少し離れたところにいた鳩たちに向かって投げる。鳩たちは大喜びで歩く速度を早くして、クッキーをついばみはじめた。


「これが、公共事業を海外業者に任せる場合。ちょっと極端だけど、イメージとしてはこんな感じ」

「なるほど」


 鳩たちが足元に寄ってくる。シアは両手をぱたぱたと振って「もうないよー」と言った。


「まあ、海外と良好な関係も築きたいところだし、一概に良い悪いで言えないんだけどね。もしかしたら、海外の人たちがこの国のファンになって、また来てくれるかもしれないわけで。……でもこの国、国内を見るより、海外に見栄を張るみたいな考え方をしてる人が政策決定に関わってる可能性がある。……私たちの村で起きたこと、正面から説いても、通らないかもね」

「そうか」


 アルドは表情をかげらせて、シアの手をそっと握った。


「だいじょーぶ! つまり、外にはいい格好したいってことでしょ? じゃあそこを基点に、屁理屈こねちゃおう!」


 にやりと笑ったシアを見て、曇っていたアルドの表情が明るくなった。

 二人の足元でしきりに首を傾げていた鳩が飛び立った。

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