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第二話

 翌日、シアは図書館に新しく加わったという作品を見つけた。芸術都市ジャンボにいる芸術家が描いた戯画らしい。黙読するシアの胸に、怒りがふつふつとわきあがった。アルドは奥歯を噛み砕かんばかりに、強く噛み締めていた。


 ──悪魔に追われて崖から飛び降りた少女が描かれた絵には、見覚えがある。ベルーセ村で育ったシアやアルドは、その特徴を持つ少女を知っている。ジャンボの侵略の際、追いかけられて崖から飛び降りた少女が元になっているのだろう。


 少年兵に集団で襲われて衣類を剥ぎ取られて下着姿にされた少女の話、片腕を切り落とされた女性の話、家族のために懸命に働いていた女性が悪人に身体を売らされたという偽りで名誉を傷つけられる話、金をよこせと悪人に詰め寄られる少年の話──なかには、アルドの妹を書いたらしい話もある。


 シアの家から盗まれた村の記録に書いてあったエピソードも、丸ごと使われていた。6年前の侵略で亡くなったアルドの母によく似た顔も、挿絵に使われていた。


「……許せない」


 シアは吐き捨てるように呟くが、アルドは目を閉じて必死に平常心を保とうとしている。


 ベルーセ村で平和に暮らしていた人々が、なぜ略奪されなくてはならなかったのか。そうして死後も作品化され、名誉が貶められつづけなくてはならないのか。これは人権侵害ではないのかと、シアは歯噛みする。


 そういった作品は販売されて、作者たちは利益を得る。しかしベルーセ村には、金銭面でも名誉の面でも、なんの利益もない。1ガワにもならない。シアがヤハラ国の議会で話をするまで、ベルーセ村から盗まれたことさえ、伏せられていた。


 そうして議会で話をしたところで、芸術都市ジャンボの罪はまだ裁かれていない。


 シアはつづけて新聞を開いて、ヤハラ国のハト派に反論する芸術都市ジャンボの記事を読む。


 ──ベルーセ村での事件に似ていると言われたが、全然似ていない!


 ──そうしないとアイデアが枯渇する。


 ──たとえ犯罪でも、面白ければいいじゃないか。


 ──もう死んでる奴なんだから、どう使おうが自由だ!


 あまりの言い種に、瞬時に頭に血が上る。シアは目の前がちかちかと赤くなるのに気付いて、ぎゅっと目を閉じた。先ほどアルドがしていたように、平常心を保とうと細く長く怒りを吐き出す。席を立つ勢いが、ほんの少し荒っぽくなってしまった。


 本を書架に戻して歩いていると、雑誌の表紙が目に留まった。


 ──芸術の自由を奪う魔女!


 以前ヤハラ国の議会で話をしたとき、やたらと美化されたシアの似顔絵が新聞に掲載されたことがあった。雑誌の表紙に載った魔女の横顔は、その似顔絵に少し似ている。


 シアが鼻で笑いながら隣を通り過ぎ、アルドは肩を怒らせる。


「俺のシアは、もうちょっと素朴な顔立ちだ」

「褒めてないなー。それは」

「でも俺は、そんなシアがいい」

「ひょーう」


 その隣の雑誌は、錆びで黒ずんだ甲冑を着た騎士が表紙になっている。


 ──芸術を壊す魔女にたぶらかされた元騎士!


「……アルドくん、素朴な顔立ちの魔女にたぶらかされたの?」

「いいや? 元騎士には違いないが、俺が所属していたのは半分自警団みたいなものだ。あと鎧も黒くない。定期的に手入れしてるから、錆もない」

「他人をなんだと思ってるんだろうね。……ああ、便利な創作の源か」


 二人は肩をすくめて薄暗い図書館をあとにした。扉を開くと、外から差し込む光がまぶしかった。


「シア、これからどうするんだ?」

「これから? ……ジャンボに乗り込むよ」


 アルドからは逆光でシアの表情が見えない。ただ、笑っているシアが、内心で相当怒っていることだけは、明らかだった。

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