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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の初デート
9/21

009 -Ritsu-

 夜になってもまだ暑い。(りつ)蒼乃(あおの)と手を(つな)ぎながら、駅までの道のりを歩いていた。普段は駅から遠い立地を(なげ)くところだが、今ばかりはそれもありがたい。


「楽しい時間はあっという間だね」


 付き合う前と変わらず、(りつ)蒼乃(あおの)と遊ぶ時間が楽しかった。無意識に手を(つな)いでない方の手がヘアピンに伸びた。きっちりと収まってくれている。なくさないように気をつけなければいけない。


(あお)ちゃんは今日楽しかった?」

「ええ、もちろん。……また、私とデートしてくれる?」

「うん! しようね、デート。あはは、何だか照れくさいや」


 今日に限って信号が赤じゃない。横断歩道を渡って右に曲がれば駅だ。(りつ)蒼乃(あおの)は方向が違うので、ここでさようならということになる。


 エスカレーターのない階段を二人はあわせるように上っていく。

 無料シャトルバスと時間がズレていたせいか、駅構内は閑散としている。


 手を繋いだままでは改札を通れないので、(りつ)蒼乃(あおの)暗黙(あんもく)の了解のように同じタイミングで手を(はな)した。そのまま改札を通る。行き先が異なるので、手は(つな)ぎ直さない。


(りつ)、今日は来てくれてありがとう。……有無を言わさずホラーを選んだのは謝るわ。ごめんなさい」

「ホラーはまぁ……家で観るくらいなら……。映画館で観るのは本当要相談だからね!」

「なら家で観る用にとびっきりのものを選んでおくわ」

「普通に楽しいやつ観ようよ」


 言葉を交わし、蒼乃(あおの)が天井から()り下がっている時計を見た。


「そろそろ電車が来るから行くわ。気をつけて帰るのよ、(りつ)。家に着いたらちゃんと連絡をちょうだい。……おやすみなさい」


 名残惜(なごりお)しさを残しつつも蒼乃(あおの)(りつ)に背中を向けた。


「あ、(あお)ちゃん!」


 蒼乃(あおの)が呼ばれて振り返ったところに、(りつ)は体をぶつけた。腕を蒼乃(あおの)の腰に回す。


「電車、一本くらい見送っても大丈夫だよね?」


 蒼乃(あおの)の腰回りはとても細かった。折れそうと思いながらも、(りつ)は抱き締める腕に力を入れた。


「どうしたの、(りつ)


 困惑(こんわく)気味の声が頭上から聞こえる。


「電車のことは心配しないで。……何か言いたいことでもあるの?」


 言いたいことなどなかった。思わず体が動いただけなのだ。


「えっと……」


 ひとまずいったん(はな)れようかと考えたところで、(りつ)の体に二本の腕が回された。


「本当はまだ(りつ)といたい」

「うん。私も」

(りつ)がそう思ってくれてるなら良かったわ。すごく嬉しい」


 小さい声で「(りつ)」と呼ばれた。(りつ)は呼び声の方へ顔を上げる。整った顔がすぐそこにあった。


 そして、顔が迫ってくる。小さな口づけが(りつ)(ひたい)に落ちてきた。


「!」

「油断してるからよ」

「ここ、駅だよ!?」


 (あわ)てて改札の方を向く。二組の家族がいた。


「見てないわよ……きっと」


 気にはしていたのか、蒼乃(あおの)の腕が(はな)れた。(りつ)(あわ)てて一歩後ろに引く。


「嫌だった?」


 そんな自信なさげな顔をしないでほしい。


「……嫌じゃないよ」

「良かった」


 母親を見つけた迷子のような顔をされては、さすがの律にもクリティカルヒットだった。これが()れるということか。


(りつ)の方の電車来るでしょ。下まで送るわ」


 永遠などない。一秒一秒と時は過ぎていく。止めることはない。(りつ)が気がついた時には、電車のドアは閉まるところで、ドアの向こうで蒼乃(あおの)が手を振っていた。


 スマホのカレンダーを開きながら次の約束はいつかなと思った。

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