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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の初デート
8/18

008 -Aono-

 夕食の店を選ぶのには困らなかった。(りつ)の好きなものを蒼乃(あおの)把握(はあく)していたからだ。もちろん(はるか)日向(ひなた)も知っている。(りつ)の好きな食べ物はハンバーグだ。


 だから蒼乃(あおの)はハンバーグの店を選んだ。値段も手ごろである。(りつ)はメニューを見ながら「どれにしようかな」と楽しげだ。


「何で(りつ)はハンバーグがそんなに好きなの?」

「ええ、何でかなぁ。母親が作ってくれるハンバーグが美味しいから?」


 いつか機会があれば、(りつ)の母親からハンバーグのレシピを聞き出そうと蒼乃(あおの)は心に決めた。


「でもうちって豚ひき肉だけで作るんだよね」

「合い()き肉じゃないの?」

「うん。昔から豚だけ。美味しいからいいんだけどね」


 そうして(りつ)は家では食べられない牛肉だけのハンバーグを選んだ。(りつ)がデビグラスソースのものを頼んでいたので、蒼乃(あおの)は和風のおろしハンバーグにした。


「文化祭が終わったばかりなのに、来週はもう体育祭だねー」


 テストにぶつけるわけにもいかず、日程を考慮(こうりょ)した結果、双方の日程は二週間も()を置かない。今週から大縄跳びの練習が始まる。


(あお)ちゃんはクラスリレーに出るんだよね」


 帰宅部でありながら足の速い蒼乃(あおの)は、クラス対抗リレーに出ることが強制的に決まっていた。メンバーには(はるか)もいる。


「私、応援してるからね!」

「そういう律は障害物競走だったかしら。途中で転ばないように気をつけてね」


 別に(りつ)(どん)くさいわけではないが、可愛い顔に傷でもついたら困る。


「体育祭の日、天気予報晴れだって。日焼け止め塗らなきゃダメかな」

「まだ日差し強いから塗らないとダメよ。……私が塗ってあげましょうか」

「嫌だよ。自分で塗るから」


 拒否られてしまったが、(りつ)を照れさせることには成功したので良しとする。


「でも白組だけなんか地味だよね」


 他のクラスは、赤組・青組・黄色組と華やかな色がついている。全体で見ればバランスの取れた配色ではあるが、汚れも目立つし質素(しっそ)な色ではある。


「でもハチマキなんて目立たないじゃない? どのクラスもクラスTシャツを着るんだし」


 東高等学校では文化祭のためにクラスでオリジナルのTシャツを毎年作成する。それを体育祭でも流用するので、すごく派手な体育祭になるのだ。一年五組はグレーのTシャツだった。何せ文化祭の出し物がお化け屋敷だったからだ。


「ねぇ、(あお)ちゃん。体育祭当日さ、文化祭の時みたいに私の(かみ)アレンジしてくれる?」

「もちろん」


 蒼乃(あおの)(りつ)(かみ)を他の誰かに触らせるつもりなど毛頭(もうとう)なかった。


 話をしているうちに、熱い鉄板の上に乗せられたハンバーグが到着する。肉の(かたまり)に目を輝かせている(りつ)の写真を一枚撮った。可愛い。


「いただきまーす!」


 蒼乃(あおの)(りつ)も高校生らしく食事の写真を撮ったりはしなかった。温かいものを温かいうちに食べるのが流儀とばかりに、ナイフとフォークを手に持つ。


 肉汁が服に飛ばないように気をつけながら、蒼乃(あおの)はハンバーグを食べ進める。半分ほど食べたところで、(りつ)が肉の突き刺さったフォークを差し出してきた。


「一口交換しない?」


 間接キスなんて、前からよくやってる。なんならこの前、暗幕(あんまく)を運んだ時にもした。しかし、今回の蒼乃(あおの)はノーガードだったので、ハンバーグを()む動作を止めてしまう。


「和風おろし味も気になってたんだ」


 台詞(せりふ)だけ取れば、美味しいものをシェアしたいという提案に聞こえるものの、実際(りつ)を見ると頬を赤くして目を()せているのだ。ちゃんと間接キスであることを意識している。


 蒼乃(あおの)はいったん落ち着くために、ナプキンで口元を(ぬぐ)う。


「そうね。一口交換しましょう」


 平静を装ってフォークの先を口に入れた。続いて自分のハンバーグも一口大に切り、(りつ)の方へやる。「美味しい」って小さな声で言う彼女がとてつもなく可愛く見えた。


 ハンバーグの塩分が高いせいか、そうじゃないかは分からないが蒼乃(あおの)(のど)はよく(かわ)く。いつもより小まめにグラスに手を出していた。もしかしなくても緊張なのかもしれない。


「美味しかった?」

「うん、とっても!」


 (りつ)が満足してくれたようで、蒼乃(あおの)も胸を()で下ろした。


 いくらまだ日が長いとはいえ、外は暗くなっていた。もっと彼女といたい気持ちは存分にあったが、どこかで区切りをつけないといけない。


「そろそろ帰りましょうか」


 蒼乃(あおの)は後ろ(がみ)が引かれる気持ちで言った。


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